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イエメン沖ミサイル無差別攻撃事案,UAE高速輸送艦・米ミサイル駆逐艦へ対艦ミサイル攻撃実施!

2016-10-10 22:44:24 | 国際・政治
■ソマリア海賊対処とイエメン内戦
 海上自衛隊が実施していますソマリア沖海賊対処任務へ、新しい不確定要素が醸成されてきました。ソマリア沖のアデン湾では海上自衛隊が海賊対処任務を遂行中ですが、そのアデン湾北方、イエメンでは内戦が進行中で、この内戦がアデン湾に及びつつある。

 内戦が続くイエメン近海において、外国艦艇への武装勢力によるミサイル攻撃が多発しています。ミサイル攻撃と云いましても、単純な武装ボートからのロケット弾攻撃、というような生易しいものではなく、純粋な艦対艦ミサイルによる攻撃です。そして忘れてはならないのは、イエメンが、ソマリアの対岸にあり、重要航路に位置している、ということ。

 AFP通信が報じたところによれば、イエメン沖を航行中のアラブ首長国連邦UAE海軍の高速輸送艦スウィフトが、イエメン武装勢力フーシ派によるミサイル攻撃を受け大破炎上、乗員22名が戦死し、航行能力を喪失したと報じられました。攻撃は夜間に実施され、高速輸送艦スウィフトは豪州製高速カーフェリーですが自衛手段を持たない為命中したもよう。

 UAE高速輸送艦スウィフト攻撃へフーシ派武装勢力が用いたのはミサイル等から中国製ハンファン級ミサイル艇とされ、C-801対艦ミサイル4発と機関砲等を搭載、中国がソ連製オーサ級ミサイル艇をコピーし大量建造したもので、中国政府がイエメン政府へ輸出した一隻がフーシ派により運用され、今回のミサイル攻撃に用いられたと考えられています。

 C-801対艦ミサイルは1950年代にソ連が開発したスティックス対艦ミサイルをコピーしたもので、今日的には低空巡航能力等も持たない旧式のものですが、それでも防護手段を持たない艦船や商船や漁船に対しては致命的な脅威ともなるミサイルです。しかし、イエメンでのフーシ派による海上攻撃は、UAE高速輸送艦攻撃の一度にはとどまりませんでした。

 CNNが報じたところによれば、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦メイソンがやはりイエメン沖にてミサイル攻撃を受けたとの事、ミサイル攻撃は二発が数十分の間隔を置いて実施され、ミサイル駆逐艦メイソンは回避行動を実施、アメリカ国防総省の表現によるところの、搭載した防御的手段、を実施した事で命中を回避できたとの事、被害が発生しなかったことからアメリカ海軍は交戦規則に則り、反撃は実施していません。

 ミサイル艇による沿岸に留まらないミサイル攻撃、特にUAE海軍はイエメン内戦介入有志連合へ参加している、フーシ派武装勢力からは敵対勢力となりますが、アメリカ海軍は現在のところ軍事顧問を一時的に参加させたものの現在は撤収しており、関与していません。これが意味する事はイエメン内戦へは無関係な艦艇に対し攻撃が行われたこととなります。

 ソマリア沖海賊対処任務へ展開している海上自衛隊の艦艇に対しても、ソマリア沖海賊対処任務の実施海域がイエメン沖合であり、紅海と海上自衛隊が会場護衛任務を展開するアデン湾は30kmの狭水道であるバブエルマンデブ海峡で繋がり、攻撃が加えられる可能性もあるのですが、併せて、商船やタンカーへの攻撃が加えられる可能性も否定できません。こうなりますと、ソマリア沖海賊対処任務へ参加する有志連合部隊へも新しい任務として、フーシ派海上攻撃対処という任務が当然考えられることとなる。

 アラビア半島のイエメン沖合は地中海とアデン湾を経てアラビア海インド洋を結ぶ紅海の重要シーレーンに当たり、欧州とアジアを結ぶ航路の一つ、此処を迂回するには南アフリカ沖合の喜望峰を回る必要があり、航行数が多いからこそ、スエズ運河が掘削された訳で、バブエルマンデブ海峡はホルムズ海峡やマラッカ海峡と並ぶ世界的に重要な海峡の一つ。

 C-801対艦ミサイルの射程は約40km、C-801対艦ミサイルは護衛艦であれば20mmCIWSを稼働体制に置き対空警戒を実施する事で阻止は可能ですが、商船はCIWSを搭載していません。すると、商船への無差別攻撃が実施される可能性もあるのです。現実となれば、ソマリア沖海賊事案以上の脅威で、イージス艦を派遣し防空さえ考えなければならない。更に、ミサイル艇の弱点は防空火器が機関砲程度である為、哨戒ヘリコプターからの攻撃に脆弱性があります、しかし、現行法ではSH-60K哨戒ヘリコプターにヘルファイアミサイルを搭載し、ミサイル艇を撃破する事は法的に難しい。

 グレーゾーン事態の発生、という状況に他ならない、こう表現する事も出来るでしょう。ホルムズ海峡、安全保障関連法制の必要性を示す一要素として、政府は石油タンカーが航行する重要航路であるペルシャ湾のアラビア海への重要海峡であるホルムズ海峡が、沿岸国による機雷封鎖、実際にイランイラク戦争においてイラン軍が機雷敷設を実行した事例がありますが、こうした状況を想定し海上自衛隊掃海艇の派遣を行う可能性を示しました。

 しかし、今回のイエメンフーシ派武装勢力によるミサイル艇攻撃は、タンカーなど商船に対するミサイル攻撃から艦隊防空を実施するという、冷戦時代の1000浬シーレーン防衛任務という本土防衛任務が想定した脅威を、はるか遠く離れたアデン湾にて顕在化、この海域へ海賊対処任務を実施する海上自衛隊としても対応を世界から求められる事案でしょう。

海賊対処任務を実施する海域の近傍において、武装勢力によるミサイル艇攻撃が実施されるという状況が現出したならば、船団の安全確保という原則論に立ち自衛隊を派遣した事から、当然世界は海上自衛隊の任務対応を期待します。海賊には対応するがミサイル攻撃による商船被害は無視する、という理論は通じません。現行法の海賊対処任務では海賊対処任務に対艦ミサイルへの防空を含めているかは難しい所で、早急に対処方策を検討すべきです。

北大路機関:はるな くらま
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