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【京都幕間旅情】慈照寺/銀閣寺,将軍足利義政の絶望の楽園-そして銀閣寺だけが残った

2022-03-09 20:00:41 | 写真
■そして銀閣寺だけが残った
 観音殿の佇まいと東山の風情は成る程美しいものです、しかしそれ以上に侘び寂と云う文字そのものの歴史を湛えていることはこれまで記したとおり。

 銀閣寺を将軍足利義政の絶望の楽園、こう表現される事と共に成程と感じさせられる歴史を辿り、そして絶望の楽園に籠る義政を笑うなかれ、20世紀半ばの憲法九条を盾に危機の世界政治から目を背けている今の日本こそ全て絶望の楽園でないか、とは前述しました。

 義政。しかし、結果論ですが室町幕府の権威を高めた功労者でもありまして、当たり前ですが、足利義政はどこから資金を得て当院を創建したのか。義政が当院に逃げ込んだ要因の一つに妻富子との関係がありますが、富子は賄賂を高利貸しする等、凄かったらしい。

 御山荘御要脚。義政は大名から建設費用を集める事としました、権力が無い室町将軍、しかしこれは意外にも越前の朝倉氏景と美濃の土岐成頼に播磨の赤松政則、御触書に応じて資金を拠出した大名は数多く、また守護大名を通じ農民からも臨時税を徴収したとのこと。

 将軍の作庭、貴族邸宅や寺院庭園からも巨木や巨石を供出させていたといい、権限は少ないと言われてもそれは行政全般であり、作庭も幕府が行うとなれば幕府の権限、徴発には当時の被差別階級とされた河原者が動員され、しかも幕府権限を行使できるとして人気に。

 検知、という幕府には名所旧跡となる寺社仏閣や貴族邸宅の一種の番付があり、あの寺院の襖と伽藍を、あの邸宅の巨木と奇岩を、徴発する構図になっていて、現存する銀閣寺の庭園は歴史に残らない数多庭園の一角を彩ったものを再度集成したものでもある、という。

 奉行人連署奉書、徴発にはこうした証書とともに河原者が当り、貴族も僧侶も拒否すれば謀反扱いとなる為に接遇も丁重で、河原者も日当に食事の接待や酒宴も催された。河原者が不快を感じれば、次の奉行人連署奉書が届き、下手をすれば屋敷の方を解体し奪われる。

 応仁の乱の時代には権限が無く、そもそも所掌業務の狭さから圧政とは無関係であった足利義政は、不思議にも圧政ではないが暴政という所業を隠居後にこうして銀閣寺造営で進めた構図です。もっとも、作庭は義政の名人芸であり、これが初めてでは無かったのだが。

 東山文化。銀閣寺から始まったこの文化は詫び寂びという、豪奢のみを頂点とした金閣寺に代表される北山文化の対称のように造営されるのですが、しかし奉行人連署奉書で徴発を受けた方は別として、御山荘御要脚は大名の美術意識を刺激し、概ね尊重されたらしい。

 四畳半、そもそも畳というものは敷き詰めるものではなく一つ一つ座席のように用いたもので、通常は板の間、その上に家具を並べ、座席として必要に応じ畳を、通常は敷物で代用する事が基本でした、しかし、義政は畳で部屋の間取りを画一化する“発明”を残す。

 詫び寂びとともに、豪奢から離れる独自の日本文化を造営しつつ、しかし義政は銀閣寺の完成を見る事無く没します。銀閣も一時は漆塗りで艶を放ち、当時は観音殿といい、銀閣と称されるようになったのは金閣と書籍の上に並べられ比較された江戸時代の頃という。

 戦国時代、義尚の陣中での病死により室町幕府の権威は三度地に落ち、時代は統治者の空白が戦国乱世へと進んでゆきました。もっとも、関与していれば幕府権威が戻り太平の世が、という保証もないのですが、東山文化は幕府を行政と別次元で延命する一助ともなる。

 そして銀閣寺だけが残った。歴史はどう転ぶか分らないものだ、改めて銀閣寺の小さな、しかし日本風といえる、東山文化の発露を望みつつ、歴史とは複雑で面白くそして残酷なものだと感慨深く噛みしめました。さて、私たちも後世に歴史の一部、今の日本はどう、表現されるのでしょうか、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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