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F-22戦闘機再生産計画!【中篇】 下院小委員会討議,ラプター生産再開の現実性と構想背景

2016-05-10 21:25:27 | 先端軍事テクノロジー
■ラプターと空軍大戦略
 F-22戦闘機再生産計画、下院小委員会討議されましたステルス戦闘機ラプターの生産再開について、現実性と構想背景との視点から見てみましょう。

 F-22再生産についてどの程度現実性があるのでしょうか、今回提示された生産数は190機前後との事で、20機30機の話ではない模様、この規模の生産であれば、これまでに調達したF-22の総数と同程度であることから採算性は充分確保出来ます、また合計で390機程度のF-22を確保出来るならば、空軍が現在運用中のF-15C戦闘機を完全代替する見通しも立つため、航空装備対英の効率化という意味では冷戦時代の高級なF-15戦闘機と軽快なF-16,という戦闘機装備体系を超高級なF-22と高級なF-35、という形で世代交代させることも可能でしょう。

 F-22は、空軍の世界規模での戦略上、数が少ない。非常に大きな作戦遂行能力を有するものの、187機という数では全世界規模での作戦展開能力に支障をきたすことは確かです。例えば、運用をアメリカ本土防空に限って運用するならば187機という規模でも対応出来た可能性はあります。一例として冷戦時代に米本土防空専用機として開発されたF-106等は生産数340機の内、防空軍団へ180機が配備され、米本土への戦略核爆撃への警戒に当たっていました。

 防空任務とF-22の配備数、米本土防空に限定する場合、米本土まで北極圏もしくは大西洋や太平洋を越えて飛来できる航空脅威は非常に限られていましたし、アメリカ本土周辺へ有力な空軍力を有する敵対国家は存在せず、1960年代初頭には中米のキューバがソ連への基地提供に踏み切り、戦域核ミサイルが持ち込まれるに至り一瞬子の優位性は危惧されたものの、アメリカは全面核戦争も辞さない覚悟で対応に臨み、この危機を回避する事に成功しました。

 他方、F-22は世界への戦略展開が前提となります、187機、配備部隊を見ますと、米本土第1航空団第27飛行隊と第94飛行隊、アラスカ第3航空団第90飛行隊と第525飛行隊、ハワイの第15航空団第19飛行隊、第53航空団第422教導飛行隊、第325航空団第43飛行隊と第95飛行隊、第412開発航空団第411試験飛行隊、州兵空軍第154航空団第199飛行隊、第192航空団第149飛行隊、空軍予備第44航空群第301飛行隊、空軍予備第477航空群第302飛行隊、多くはありません。

 その上で将来戦闘機計画として当初考えられた数千機のF-35戦闘機量産による地域空域空間支配とX-47無人戦闘機による損害を顧みないステルス機の断続的浸透攻撃を併用し相手の戦闘能力を全ての面で瓦解させる、という2000年代初頭のアメリカ空軍統合航空打撃の未来像が、敵よりも先に開発計画と技術的障壁の前に瓦解、とまでは行かずとも著しい長期間の遅延と計り知れない財政悪化を前に数的縮小に見舞われている現状が反映されているともいえるところ。

 F-22の配備規模は純粋な飛行隊数だけではなく、近代化改修度合にも影響します。実はこの当たり、非常に大きな問題となっているものですが、以下の通り。一機種の戦闘機は開発され運用開始後、数年毎にプログラム改修を定期整備の際に実施し、更に電子機器や機体自衛装置とレーダー等は現役時代にこちらも十年前後で大きな改修を実施するものです。しかし、回収を行う以前に改修プログラムに基づき、各メーカーと協同しこれらの機材を開発しなければなりません。

 特に戦闘機は全世界規模で実施される空軍戦略、各種脅威への電子偵察情報や実運用を経ての諸問題を即座に反映させる必要があり、これは実際に空対空ミサイルか機関砲を以て最先端の敵戦闘機と戦火を交える戦闘機における宿命であり、非常に重要な課題でもあります。ところが、改修は当然ながら機種ごとに実施しなければなりません、レーダーも火器管制装置も機体制御装置も全て別々に異種がわかれているのですからある種当然ですが。

 このように一機種の改修プログラムは費用面で大きく、これが各国空軍の機種の合理化の背景でもあります。更にこの改修型の開発費用は機数により割られる為、2000機以上が米空軍に納入されたF-16で100億ドルの改修計画を建てたとしても2000で割った場合、現実的な費用となりますが、100億ドルかけ187機装備されているF-22の改修計画を構築したとして、100億ドルを187で割りますと、非常に厳しい数字となる事が見て取れます。

 しかし、戦闘機は改修をし続ける必要があります、管制の時点で数十年間先までの期間対応できるプログラムや脆弱性のない設計は理想ではあるのですが、これは技術が発達する以上、現実的ではありません。先端戦闘機の先端技術搭載を断念した瞬間に、その優位性は霧散しますので、そうした選択肢は実質的に早期退役させることと大差ありません、すると近代化改修を効率的に行う事は極力機種を絞ると共に各機種を多数生産しておくことが望ましい、という構図が見て取れるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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