北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

G7伊勢志摩サミットと世界政治:海洋安全保障問題と中国南シナ海進出、G7枠組の規範形成能力

2016-05-26 21:18:24 | 北大路機関特別企画
■国際公序と規範形成
 G7伊勢志摩サミットが本日開幕しました。最大の課題は世界経済の持続的発展の維持ですが、併せてその基盤となる安全保障への関心もG7に求められる世界からの視点といえるでしょう。

 先進七ヶ国首脳会議、中東アフリカ地域の情勢変化とこれに伴う欧州難民危機の発生について前回提示しましたが、東アジア情勢についても先進諸国が一致して取り組むべき大きな問題です。南シナ海海域において中国は1970年代から2000年代にかけ沿岸国が有した離島や環礁及び珊瑚礁などを次々と武力奪取し、水上戦闘艦同士の銃撃戦なども発生してきました。

 これが西沙諸島問題と南沙諸島問題として東南アジア地域における最大の安全保障上の課題となっている訳ですが、2010年代に入り中国政府は不法占拠した離島や珊瑚礁へ土砂埋立による人工島造成を開始、その後人工島を正式に領域の起点であるとい一方的に宣言した上で領海と排他的経済水域の起点として主張、周辺国との対立は激化しています。

 ロシアがクリミア併合やウクライナ軍事介入を強行した同時期に中国も行動を活性化、現在では海軍陸戦部隊や空軍戦闘機部隊、地対艦ミサイル部隊及び地対空ミサイル部隊を展開させ周辺海域の封鎖を準備し始める事となりました、アジア地域の人口は実に30億、この中において海洋交通の自由確保はこの人口がおおく、世界で最も活力が溢れる地域の経済活動を大きく担保するものであることはいうまでもありません。ただ、G7参加国からは、アメリカは世界規模の視点を米本土の安全な視点から俯瞰できますが、我が国は南シナ海を、イタリアは地中海を、ドイツは難民全体を、フランスはテロを、と視点が異なるのはある種当然でしょう。

 もちろん、国際公序と規範という視点からは海洋安全保障は一つの価値観を共有し得るものであるため、海域封鎖を含む海洋の占有という国際公序への挑戦へは大きな対応を求められることとなるでしょう。しかし、非常に大きな課題としまして、東アジア問題への欧州諸国の温度差がどうしても問題への対応を一致させることが出来ません。元々先進国首脳会議としてサミットが初めて開催されたのは1975年、石油危機を契機としての世界の激変に対する先進国の一致した行動をとる事が目的として始まりました。

 サミット第一回は、こうしてフランスのジスカールデスタン大統領が呼びかけたもので、当時の出席は六か国、アメリカのフォード大統領、イギリスのウィルソン首相、我が国の三木総理、イタリアのモロ首相、西ドイツのシュミット首相が出席しました。サミットが開かれた最大の事由は上掲の通り、石油危機に伴う世界経済の安定化を期したものでしたが、その合意は意外と世界の規範形成に与える影響が大きいといえるでしょう。

 即ち、サミットは西側諸国の首脳が一堂に会する会議であることから、このサミットに併せての宣言は慣習国際法や国際合意という、ソフトローとしての機能を得るものともいえ、自由主義世界の団結を明確に示す機構であるとも言えました。そして東西冷戦下という時代において自由主義世界は一つの大きな団結を求められる背景があった訳なのですが。現代の世界を俯瞰しますとその状況は大きく変容しています、東西冷戦が過去のものとなった為、この二つの自由主義世界と社会主義世界の対立を軸とした巨大な軍事力の対峙という構造が解消されたことは歓迎すべきところですが、併せて安全保障問題が多極化し、一枚岩としての対応を採る事が難しくなりました。

 アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、というG7の枠組、1996年からロシアが加わりまして現在ウクライナ軍事介入を契機として参加資格を停止させられていますが、世界政治にはこのG7の枠組以上に新興国等地域代表を含めたG20として枠組みが存在します、中華人民共和国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン、という世界の主要国が参加する先進国新興国主要二〇ヶ国会議G20,という新しい枠組みであれば様々な問題へ対応する事が出来るようにも考えられたのです。

 先進国新興国主要二〇ヶ国会議G20という広い参加国を迎えた場合では問題領域が多様化すると共に自称途上国という参加国や内政問題などで価値観を必ずしも共有し得ない諸国があり、問題の解決には必ずしも寄与するものではなく、世界政治の多様性と相互理解の重要性を確認しつつ、宣言を採択するのみとなっています。従って、防衛協力、とまではいかずともその対応できる領域は広いといえるのかもしれない。

 国際公序の根幹を担い且つ合意形成を行える程度に価値観を共有するG7枠組の重要度は依然高いままではあるのですが、上記の通り、地域緊張の多極化、特にG7参加国が直接直面していない地域での緊張に対し、どのようにその間接的影響が世界政治への直接課題へ転換する以前に対応できるか、この命題も深く討議されるべきでしょう。

 しかし、G7の枠組が有する影響は強大で、例えば安全保障上の近年のG7/G8枠組における最大の問題と云えたウクライナ危機では、G8からのロシア参加権限停止と一致した経済制裁の行動は非常に大きな影響を与える事となりました、各論では相違点が多い諸国ですが総論では一致する価値観の共同体であり、G7参加国の領域からはなれた南シナ海問題へ、アプローチの在り方を模索するだけでも、一つの規範を形成する事も出来るでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする