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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【2】 日本自衛隊の巨大な国土防衛力

2016-05-15 21:52:00 | 国際・政治
■日本国土を守った自衛隊
 本日は沖縄本土復帰の日、遠い将来であっても日本国土を我が国の防衛力だけで防衛できる国民の決意が、と考えるところですが、トランプ氏、大統領就任すれば日本防衛費の全額負担を要求する考えを表明 応じなければ駐留米軍を撤収する持論曲げず、とした報道がありました。

 自衛隊は大型水上戦闘艦部隊の規模、航空哨戒部隊の規模、潜水艦部隊の規模、ヘリコプター空輸能力の規模、防空ミサイル部隊の規模、世界的に見てかなり高い水準にあります。トランプ氏の主張する“米軍が日本を守っている”という主張は完全に否定する事はあえて避けますが、肯定する事もしません。日本本土の防衛に限れば、日本の現在の自衛隊で辛うじて対応できる水準だと考えます。

 防衛、根拠として縮小されていますが機甲戦力をアジア地域では比較的有力な水準で保持し、地対艦ミサイルとヘリコプターを大量に保有し、水上戦闘艦と潜水艦保有数も多い日本、海を越えて日本に侵攻してその上で後方連絡線を維持する事は大変です。対して在日米軍の規模は、航空戦力で空軍が嘉手納と三沢の二個航空団、それに海軍が厚木の第五空母航空団と海兵が岩国の第一海兵航空団、戦闘攻撃飛行部隊、と。

 水上戦闘艦が駆逐艦と巡洋艦合わせて七隻、原子力空母一隻、ドック型揚陸艦及び強襲揚陸艦が四隻、陸上戦力は沖縄の第3海兵師団と海兵遠征隊、この規模を、原子力空母は作戦拠点が本土防空に限れば別として、こういいますのも原子力空母を一隻保持することは、稼働率の意味から意義がありません、もっとも、垂直離着陸可能な戦闘機を数隻のヘリコプター搭載護衛艦へ分散艦載は可能かもしれませんが。さて、水上戦闘艦と揚陸艦に戦闘機だけを考えた場合、補填は不可能ではありません。

 米軍の能力として大きな部分は、地域ごとに貼り付けられている戦力ではなく、必要に応じ緊急展開する能力であり、この展開を全地球規模で展開する事が出来るのはアメリカを置いてほかにありません、が、これは日本を防衛しているのではなく、アメリカが進める公正と自由貿易を基調とする国際公序を維持するための国際公益ですので、敢えて日本防衛のために駐屯しているわけではありません。更に、ブッシュ政権時代の米軍再編において、アメリカは米本土と少数の海外戦略展開拠点へ米軍部隊を集約したものですから、現在米軍が駐屯している戦地以外の場所は、米軍が長期的に駐屯する事に有利な基点へ集約された結果、日本本土を選んで展開した、という実情も忘れるべきではないでしょう。

 日本防衛費の概算はどの程度であるのかは議論の余地が広そうですが、アメリカは防衛力の費用面で特に緊急展開のための様々な装備の比率が多く、例えば2000年代でのアメリカ国防費の最盛期は日本の防衛費の十倍という規模を誇っていましたが、戦力面で十倍かと問われれば、常設師団数で同数、これは日本の師団が小型でありかつ機械化の度合いなどで差異がありますので数字の上でしかありませんが。

 この他にも、米軍は戦略展開への装備の層がかなり厚い為、単純に正面装備だけの数をみますと、戦闘機数は空軍と航空自衛隊で7:1、哨戒機総数では5:3、水上戦闘艦は日米の巡洋艦駆逐艦と海上自衛隊の自衛艦隊で3:1、程度でしかない訳でして、在日米軍と同数の規模を自衛隊が整備する諸費用と、米軍が在日米軍の展開させる装備数を支える後方支援基盤までを含めた駐留規模の総額では、見えてくるものが違うでしょう。

 即ち、自衛隊が在日米軍の戦闘機数に匹敵する規模を補填するにはF-2支援戦闘機130機の増勢、おおすみ型輸送艦4隻の増強、全通飛行甲板型ヘリコプター搭載護衛艦の増勢、一個護衛隊群8隻の増勢もしくは、護衛艦隊隷下各護衛隊への護衛艦一隻の増勢、第2師団型師団一個の増設、現行予算では厳しいものではありますが、余り深い事は考えず在日米軍の規模だけを補うならば、不可能な水準では無い。

 日本の在日米軍に依存している最大の部分は、日本のシーレーン防衛への依存度で、特に自衛隊は専守防衛を念頭として防衛力を整備してきたことから、我が国へ非常に大きな圧力をかける中国が、南シナ海において戦力投射を行いシーレーンを遮断した場合、自衛隊の戦力投射能力は東シナ海全域へは充分その範囲内に収める事が出来ますが、南シナ海への戦力投射を行うには充分な部隊がありません。

 そして充分な部隊があったとしても、台湾とフィリピンやタイとヴェトナムへ一定規模の常設基地、小牧基地か八戸航空基地程度の兵站拠点、が無ければ行動圏外となります、アメリカの能力は戦力投射に重点が置かれている、ということを前述しましたが、日本の自衛隊は自国を防衛する能力は有しているものの、中東や果ては欧州から延々17000kmのシーレーンを防衛する能力は無く、また、列挙した諸国も在日米軍というアジアの米軍拠点からの展開に大きく依存しています。

 フィリピンやヴェトナムでは自国島嶼部を中国により不法占拠され、その奪還が軍事力において不可能となっていますし、一国二制度として事実上棚上げされている台湾海峡の中台対立も、在日米軍の緊急展開能力に依存しています、一方で日本防衛の視点として日本の主権者からすれば、沖縄や小笠原は当然日本防衛の境界線と考える事が出来ますが。

 ヴェトナムのハノイやフィリピンのマニラが日本本土として防衛の圏内に含める、という視点は戦後ありません。そして軍事圧力により東南アジアンや北東アジア地域において親中派が醸成される状況となったとしても、日本として打つ手はありません。その一方で、抑止力という概念と直接防衛という視点を区分して考えますと、在日米軍は抑止力として機能しました。

 その根拠として冷戦期、米軍は極東ソ連軍の脅威下に置かれていた北海道近傍に部隊を置きませんでした、自衛隊は四個師団を駐屯させ最精鋭部隊として充足率や装備更新を優先すると共に有事の際には南九州中国中京地方からの三個師団増援という準備のもとで防衛を展開していました、アメリカがこの地域を重視し青森県の三沢に空軍戦闘機を再展開したのは1980年代がみえてからのことでした。

 問題はアメリカが後退した場合、新たに出てくる勢力です。先日、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦ウィリアムローレンスが南シナ海において中国が進める人工島の沖合南シナ海の南沙諸島にあるファイアリークロス礁付近を航行する航行の自由作戦を実施したとの事、一月に続く実施で当初示されていた時期よりもずらされた形ですが、中国の主張する領海に人工島は含まれないとし、行動したものです。

 海洋の占有に対するアメリカ海軍の具体的行動も今回が昨年10月のスビ礁付近、1月の西沙諸島トリトン島付近に続き三回目となりました、国際法上適法ですが、この航行の自由作戦による中国への抑制的な効果は見られません。中国の南シナ海での行動拡大は、押せば引くことを行動で示したオバマ大統領、引く先は米本土である政策が支持されるトランプ氏の大統領選での躍進が背景にあると考えられます。

 在日米軍撤退について推奨する訳ではありませんが、普天間の海兵航空群をフィリピンのクラークフィールド基地へ、キャンプハンセンの第31海兵遠征隊をフィリピンのスービック基地へ、三沢の第36戦闘航空団をヴェトナムのダナン基地へ、それぞれ移転させ、減った部分を自衛隊の増勢で補う、という施策も考えなければならない時期となっているのかもしれませんね。このように展開できるならば、妥協案となりますし、沖縄県での防衛力の日米転換にも寄与するでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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