北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

米比新軍事協定締結、中国南シナ海領土拡大を牽制期し米軍フィリピン駐留を再開へ

2014-04-29 23:31:16 | 国際・政治

◆米オバマ大統領・比アキノ大統領共同声明

 オバマ大統領アジア歴訪によるフィリピン訪問に先立つ28日、米比両政府は米韓相互防衛条約の新協定について合意に至りました。

Img_3062  これに基づき、米軍は駐留部隊をフィリピン国内へ置くことが出来るようになります。これは1992年の米軍フィリピン撤退以来、実に22年ぶりのフィリピン駐留再開となります。合意によれば米軍はフィリピン国内すべてのフィリピン軍施設を使用できるとし、米軍はローテーションで部隊を置くこととなるもよう。

Gimg_8935 この新協定は、中国の南シナ海進出の顕著化と、それに伴うフィリピン侵略の本格化への対処が主眼です。既に1994年にフィリピン領ミスチーフ環礁が中国軍に不法占拠され、2011年にはフィリピン領域内で中国政府公船による海上構造物等の不法建築が実施、出動したフィリピン公船を妨害排除するなどの事案が生じています。

Img_8407 昨年の台風30号被害にみるように、フィリピン軍の装備は極めて脆弱で、不法占拠する中国軍を排除する軍事力をもちません。急ぎ海軍と空軍を拡大中ですが間に合わないのです。フィリピン国内には今回の米軍駐留へ反対する声もありますが、それ以上に中国の不法占拠を反対する声の方が大きく、デモで中国軍を排除できない以上、米軍の支援を受けたい、こういう合意となったところ。

Img_1781 米比間には1951年に締結された米比相互防衛条約があり、長らくフィリピン国内へ米軍が駐留していました。しかし1991年6月のピナツボ火山噴火により米軍基地が機能を喪失し、結果フィリピン国内でも米軍撤退を求める声が上がり、米比間の合意に基づき米軍のフィリピン常駐は終了しました。

Img_7174a  フィリピンには航空母艦2隻を中心とした第七艦隊の一大根拠地であったスービック海軍基地、横須賀基地の艦艇数で3倍、佐世保基地の容積で2倍の基地がかつて置かれており、加えて嘉手納基地よりも巨大なクラーク空軍基地が常時即応体制を以て展開していました、しかし、これが火山うんかにより撤収した、というわけです。

Nimg_8338  ピナツボ火山、多かが噴火で米軍撤退とは、と思われるかもしれませんが小規模な噴火でも、例えば霧島連峰の新燃岳噴火に伴い70km先の新田原基地で訓練移転を強いられるなど、火山灰は悪影響が大きいものです。ピナツボ火山の場合は噴火で1745mの標高が爆発で1486mまで低くなりました。

Img_0155a 現在、アジア最大の空軍基地は沖縄の嘉手納空軍基地ですが、それ以前はフィリピンのクラーク空軍基地が規模と駐留部隊数共に最大で、ヴェトナム戦争を支えたほかソ連の太平洋正面への脅威を支える一大基地でした。しかし、この基地はピナツボ火山から僅か20km、一日で数十cmの火山灰が降り積もり、火山灰は航空機エンジンに進入すれば溶解し、エンジン後部で冷却され凝結するためエンジンを破壊します、基地は維持不能となりました。

Fimg_4936 富士山に例えるとどのくらいか、富士山は歴史上最大の噴火を貞観6年、西暦864年に記録し、貞観大噴火として平城京の朝廷に報告が上っています、山体崩壊が発生し、山梨県は全滅し富士湖は溶岩流で分断され富士五湖に分割、東海道は火山灰で二年間封鎖され万葉集にも謡われたほどです。蛇足ですが、東日本大震災の三陸津波と比較される歴史上最大の津波、貞観三陸地震の津波はこの5年後に起きています。

Aimg_6969  この貞観噴火の噴出物総量は実に1万k?に達しました。しかし、ピナツボ火山1991噴火は火山爆発指数6で噴出物総量10万k?、単純計算で富士山が歴史上最大の噴火を記録した貞観噴火の十倍の規模であったことが分かります。一時クラーク基地の米軍要員と家族はスービック海軍基地に退避しましたが、こちらも100km離れていたものの被害が出始め、そこにフィリピン政府の要望があり放棄、在比米軍は在日米軍基地へ移転しました。

Gimg_8496 しかし、フィリピンは軍隊を整備しないまま米軍御退去を促したため、米軍全面撤退の翌年、フィリピン領ミスチーフ環礁が中国軍に占拠され、日本の商船が通告するまで気付かないという一大事が発生しました。フィリピン海軍には第二次大戦中の小型駆逐艦2隻と第二次大戦中の揚陸艦等が装備されている程度、一昨年まで潜水艦を索敵する装備が皆無、という状況にあり、そこを突かれたかたち。

Himg_6434 フィリピン軍は一昨年より、日本の護衛艦はつゆき型に相当する1980年代の欧州製中古フリゲイト2隻、将来的には更に2隻の取得を決定、待望の潜水艦を捜索可能な装備として中古哨戒ヘリコプター2機を導入すると共に皆無であった空軍戦闘機の代替として武装可能な韓国製超音速練習機の導入を決定していますが、1991年の段階では実質飛行困難な旧式戦闘機F-5Aが5機ある以外、なにもありませんでした。

Simg_0467  このため、フィリピン政府はまず2001年の同時多発テロ以降、アメリカの展開するテロとの戦いの展開を契機に国内の共産ゲリラやイスラム原理主義組織アブサヤフ対処を主眼とし、米比間の軍事協力の強化を要請しています。両国は定期的にそれまで共同演習を展開してきましたが、その深化を図ったかたち。

Img_1696 フィリピン軍御最大の任務は国内の共産ゲリラ掃討であり、歩兵を主体とした陸軍の兵員数だけは陸上自衛隊以上の規模を持っているのですが、それ以外まともな装備を持ちません。しかし、米軍駐留中のフィリピンはさしたる脅威が無く、それならば米軍が撤退しても問題ない、とした政治判断が、米軍が駐留していたため手を出せなかった中国に介入の隙を与えた、ということに他なりません。

Gimg_3723  そのための米軍との関係強化を図ったのですが、そもそも、我が国のように即応体制を万一の際には即座に防衛行動を展開できるよう準備しつつ警戒監視を行い抑止している状況に際し、一端盗られた地域を十年単位で対応できずそのまま警戒監視さえも行えない状況のまま推移しているフィリピンとでは根本的に対応に限度があります。

Img_0046 2011年2月にはフィリピン領域内へ中国軍が浸透し建造物を構築、ミスチーフ環礁からの退去を求める如何なる要求要請の交渉にも中国政府が応じなかったため、結果、東日本大震災が発生した直後の3月にフィリピン政府は日本へ応援を要請したほど、追い込まれた状況となりました。

Avimg_9956 こうして、フィリピンは独力での軍事力強化、とはいっても規模では中国軍に対抗できるものでは無いのですが、最大限努力を重ねつつ、今回の米オバマ大統領・比アキノ大統領共同声明とともに、フィリピン国内のフィリピン軍施設へ米軍をローテーション展開を可能とする新協定締結へ合意した、という形です。

Gimg_86371  それにしても中国政府は、建国以来、チベット併合、東トルキスタン併合を皮切りに、朝鮮戦争介入、台湾海峡攻防戦、中印国境戦争、ダマンスキー島事件、中越戦争等、ほぼ東西南北全ての地域と武力紛争を展開し、自ら緊張を高めています。かの国は先の大戦前における我が国の対外政策を批判していますが、現在の中国はそれ以上の勢いで周辺国へ軍事力を投射し続けています。

Gimg_4419  しかしながら、現在の国際公序は軍事力による他国領域の一方的併合を認める余地はありません。この施策が続くならば、近い将来大きな武力紛争に展開する道を中国自ら突き進んでいるとともに、併せて我が国やアメリカも、可能な時期に実力で抑止する強い姿勢を提示しなければ、英仏の対独宥和政策の末、第二次世界大戦が勃発した、そういう歴史を踏襲しかねません、このあたり懸念する次第です。

北大路機関:はるな

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