北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

尖閣諸島防衛への一視点④ 北朝鮮ミサイル事案への沖縄救援隊という実績

2012-09-29 23:37:58 | 防衛・安全保障

◆陸上部隊は最後の備え、本土からの緊急展開

 前回の紹介で我が陸上自衛隊の運用するミサイル部隊が着上陸を大きく制約するという能力を紹介しました。

Simg_2185 南西諸島有事ですが、那覇駐屯地に司令部を置く第15旅団は第51普通科連隊と第6高射特科群のみを有し、戦車部隊や特科部隊を有していません。急患輸送用にヘリコプターには見るべき有力な装備があるのですが、それにしても総数としては多くはなく、広大な南西諸島を防衛警備するには十分ではありません。しかし、これら部隊は九州と本州、それに北海道からの増援部隊により比較的短期間で沖縄と八重山諸島を防衛するに十分な程度に部隊は強化されることとなるでしょう。

Simg_4568 これには実績があります。昨年度実施された自衛隊統合演習では北海道東千歳駐屯地に司令部を置く第7師団の装甲化部隊が、90式戦車に89式装甲戦闘車を中心に民間の高速カーフェリーをチャーターし、北海道から九州大分港へ緊急展開の要領を実動演習により修得しました。高速カーフェリーにより重量50tの90式戦車を輸送しうる、という実績は、二日間から三日間程度で北海道室蘭港や苫小牧港から沖縄方面へ部隊を急速展開できるという事を実証したことになります。

Simg_3931 着上陸以前に予防的に離島に部隊を集中できたならば、特に拠点となる島より部隊を機動運用させる姿勢を示すことで、相手に対し上陸の柔軟性、実施するうえで必要な必要兵力の負担をひき上げることを強いるわけで、結果的に着上陸を断念させることとなるのです。この場合、尖閣諸島は地形と面積から大部隊を展開させることに適していませんが、尖閣諸島を射程に収め得る地対艦ミサイルを八重山諸島に展開させることで目的を達するため、逆に尖閣諸島制圧上の要件を握る八重山諸島の地対艦ミサイルを防護する必要がでるということ。

Simg_9886 併せて、沖縄本島へ習志野の第1空挺団や宇都宮の中央即応連隊より機械化部隊を緊急展開させることは、沖縄県民に対し、第二次大戦中の沖縄戦において上陸以前に台湾防衛へ沖縄の師団を引き抜き、本土から増援部隊を展開させないという手段を以て沖縄を見捨てた、正確には沖縄32軍の牛島中将と八原高級参謀からの重ねての要請に対し、大本営の服部参謀が梅津参謀長へ増援部隊派遣は本土防衛を手薄とする理由から見送ったという苦い歴史を払拭する最初の一手となるのではないでしょうか。

Img_5529 戦車が沖縄へ展開されるのか、という点にはいろいろと考えるものがあるのですが、昨年度の自衛隊統合演習は離島を想定した地位への戦車部隊の展開を主眼としているわけですので、沖縄ではなく九州を想定戦域としている可能性は低い、すると、戦車の沖縄展開を考えている余地は充分ある。そして、なによりも、沖縄本島や八重山諸島に戦車が展開した場合、直接的に海上を機動する能力の有無にかかわらず、相手に対して戦車部隊に対抗する対戦車能力を準備しなければならず、相手への不確定要素を増やす事になるわけです。

Simg_2429 しかし、空挺団の沖縄展開や中央即応連隊の展開、第七師団の北海道から沖縄までの展開は展開能力に限界がある、と指摘する声もあるやもしれません。確かに、輸送機や輸送艦はこれらを輸送するには全く持って不十分です。しかし輸送機は航空優勢の競合地域へ運用する手段であり、輸送艦は港湾施設を用いえない状況において運用する、有体に言えば輸送艦は輸送船を接岸可能な港湾を奪取する部隊の輸送手段である、ともいえるものでして、民間の船舶と協力すればそこまで難しい話ではありません。

Simg_6695 これは自衛隊統合演習d民間のチャーター船を利用した、という旨を示しましたが、協同転地演習における師団規模の部隊の移動等に民間の輸送手段はかなり重宝されています。おおすみ型輸送艦は、各種車両を60両も搭載すれば満杯です。装甲車や火砲に戦車は陸上自衛隊の正面装備ですが、これらの装備を運用するにはその何倍もの支援車両を必要とするものでして輸送は不十分、戦闘車両だけでは短期間で行動継続が不可能となるわけです。他方で、民間の輸送船、カーフェリーや車両貨物船は一隻当たりもっと大きな輸送力がある。

Simg_8272 民間船舶の輸送力が誇示されたのはl今年四月に発生した北朝鮮ミサイル事案に対して編成された沖縄救援隊の実績があります。那覇駐屯地の第15旅団は人員2100名を以て編成されていますが、本土から派遣された沖縄救援隊は900名規模でした。弾道ミサイル迎撃へのペトリオットミサイルPAC-3部隊や、弾道ミサイルの有毒な推進剤漏洩に備えての化学防護部隊に、警備部隊を併せ、900名、となったわけです。無論、900名の規模には航空自衛隊の要員が含まれており、単純に第15旅団と比較はできないのですけれども。

Simg_4521 自衛隊は必要であれば、900名の部隊を石垣島、宮古島、与那国島、沖縄本島に迅速に展開させる事が可能だ。これを北朝鮮弾道ミサイル事案での沖縄救援隊は誇示したわけですね。そして、自衛隊の即応力と動員力の高さは、奇しくも昨年の東日本大震災における10万名の被災地派遣を迅速に実施したことが何よりも証明しました。必要ならば自衛隊は全部隊の半分を、周辺地域への警戒監視を維持しつつ展開することが出来る、厳しい動員ではありましたが、周辺国は災害派遣で10万を即時動員した実力は有事にも発揮されると考えるでしょう。

Simg_8181 特に沖縄本島であれば、在日米軍、在沖海兵隊のキャンプを根拠地として使用することが出来、現在は縮小編制の第3海兵師団と第31海兵遠征群が展開しているのみですので、かなりの規模の陸上自衛隊を収容することが出来るでしょう。キャンプハンセンやキャンプシュワブのヴェトナム戦争における米軍収容能力は短期的に数個師団を展開させ、キャンプフォスターの車両整備能力、那覇軍港とブルービーチの接岸と荷役能力にはかなりの余裕があります。

Simg_4016 一旦、カーフェリーや車両貨物船などの民間輸送船や民間の旅客機により沖縄本島に九州に本州と北海道から部隊を展開させ、そこから海上自衛隊の輸送艦や航空自衛隊の輸送機により八重山諸島に展開させる、こうした手法を採れば、輸送機や輸送艦でなければ実施できない任務でもあり、距離的にも直接輸送艦を本州と沖縄の往復に用いるよりは時間を節約することも可能でしょう。南西諸島有事には主たる任務は海上自衛隊の制海権維持と航空自衛隊の航空優勢確保となるのですが、その後ろの陸上自衛隊の後ろ盾は我が国の覚悟を示すこととなるのは間違いありません。

北大路機関:はるな

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コメント (4)
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