北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望④ 多年度分割調達方式への対応

2012-09-11 23:54:26 | 防衛・安全保障

◆そもそも日本式の契約に応じてくれるのか?

 海外からの調達の方が良い、という視点への反論の一つを本日は紹介したいと思います。それは、日本型の調達方式に応じてくれるのか、ということ。

Bimg_0785 富士重工が当初60機を調達するとして防衛省と契約したAH-64D戦闘ヘリコプターについて、毎年1~2機を調達していた防衛省が価格高騰を理由に調達を11機で終了する方針を示し、対して富士重工はアメリカ製AH-64Dをライセンス生産するにあたり実施した生産設備費用や既に調達した有償軍事供与による直輸入部品の費用の弁済を求め350億円を国に支払うよう求め提訴したのが昨年1月15日でした。我が国では、ある程度導入したい数量を制式化もしくは部隊使用認可の時点で生産企業に示すのですが、一括支払いは行われず、多年度に分割して調達する方式を採っており、これが時として一方的に反故とされることがあります。

Bimg_4416 89式装甲戦闘車は、機甲師団である第7師団の一個普通科連隊所要に加えて旭川第二師団、帯広第五師団、真駒内第十一師団へ各一個連隊程度を装甲戦闘車化する構想で生産開始されました。機甲師団隷下の第11普通科連隊は六個中隊編制ですので所要は150両、つまり少なくとも89式装甲戦闘車は350両か多ければ500両程度が生産される計画だったのですが、これも冷戦終結と重なり下方修正、当初は年間5~8両生産されていたのが毎年1両程度と減り、70両以下で生産終了しました。

Bimg_3952 87式自走高射機関砲、機甲師団直衛用装備とはなっていますが、こちらも第七師団第七高射特科連隊と第二師団第二高射特科大隊一部中隊所要で生産終了しているのですが、もともとL-90高射機関砲の後継として全国の師団高射特科大隊への配備が念頭に置かれていまして、170両は生産される計画でした。90式戦車も現在は北海道専用装備のように言われていますが戦車定数と同数の1000両程度の生産は見込まれていたことも記しておきましょう。96式多目的誘導弾も最初は全ての師団に配備される計画でしたが、今や方面隊直轄装備へ一部が転換されていました程。そして観測ヘリコプターOH-1,機動性が高く開発当時の将来脅威として考えられていた敵攻撃ヘリコプターへの対処能力を考え空対空戦闘能力を有していますが、こちらも250機程度の導入が展望されていましたものの、実際は30機程度での生産終了となります。多数を導入する計画を立てつつも、これは計画であり契約ではない、という立場なのでしょうか。

Bimg_2336 年間少量づつ調達するが、将来の配備数を明示してくれるのでしたら簡単です。契約の際に納期とオプション調達契約を結び、メーカーは数年後の納期までに一括生産してしまい、少数づつを自衛隊へ納入すればよいのです、89式装甲戦闘車であれば十年で500両の契約でも、OH-1の場合で例えれば十年で250機の契約でも、最初の二年間程度で一括生産してしまい、その後納入すればよいのですから。しかし、実際の事例、例えば極端な事例のAH-64Dのように、生産設備を準備したのに少数調達で終了、と日本が一方的に海外メーカーに通達した場合、全量買い取りに関する訴訟が確実に行われ、併せて海外メーカーとの通商問題は外交問題へと発展します。実際問題、NATOでは欧州通貨危機などで支払いが難しくなった装備を受け取り拒否しようとしたことで紛争となった事例があるほどで、日本型の調達方式は海外で通用しにくい、という事は忘れてはなりません。

Bimg_5570 こうした問題を一度やってしまうと、その後は日本との契約は一括支払い方しい以外応じない、という反応となり戻ってくるでしょう。それでは、調達方式を切り替え、日本も一括発注方式とする、このように転換した場合はどうなるのでしょうか。少なくとも、必要数を明示して、財務省を納得させることが出来たならば、一括して必要な車両を一挙に入手することが可能となります、この年度は装甲車を、次の年度は戦車を、その次の年度は航空機を、更に次には地対空誘導弾を、そのまた次の年度に火砲を、という方式です。

Img_1923 一括発注方式一括支払い方式への転換、一見こちらの方が装備更新効率化と取得費用低減という観点有利に見え、我が国も海外に倣い方針転換するべきではないか、これは一時期言われた話なのですが、実のところ問題があります、それは一括して行ったのちに、追加分を発注する際に生産されていた装備品の生産ラインが閉鎖しており追加できない可能性があるという事、実際に海上保安庁の航空機調達計画などで近年起こっているのですが、これに対応できない。

Bimg_3688 例えば電子装備などは、開発段階で導入計画数を提示して国際共同開発により迅速に開発し調達、その後維持部品のみを生産してゆく、という方式があります。これは極端としても、同型の装備品が相当長期間生産されるという事例は、併せて相当数の調達が行われる場合に限られ、海外装備品が市場に出され、各国の運用評価などを踏まえ調達を決定するまで数年間を要するのですが、この時点で最新装備は准最新程度となり、一括発注を行い納入されたその数年後に、再度一括発注を希望したとしても、一度閉じた生産ラインを再度稼働させる場合は、その費用を我が国が負担しなければなりません。しかし、新型新型新型と一括発注のたびに異なる型式を導入すれば、富士教導団のような実験と教育部隊のように各種装備が混在してしまうことになるでしょう。

Bimg_5503_2 国産であれば、海外の新装備が発表された土地にその装備品の情報収集を開始し、我が国での運用に適合するのかを模索する、というタイムラグを省くことが出来ます。最新型をそのまま必要とすればいいのならば、国際共同開発が良いのではないか、という視点もありますが、戦車や装甲車に火砲といった装備品の国際共同開発は、どの国も自国のもしくは自国軍隊での運用に最適合化させる使用を提示しますので、独仏標準戦車計画や米独共同開発戦車MBT-70計画のように空中分解する可能性が高く、この場合貴重な予算を空費し貴重な時間も浪費することになってしまうリスクを忘れてはなりません。

Bimg_5926 そして維持部品の供給、この視点が海外装備に関する大きな問題として忘れられれいるように思います。国産装備であれば、下請け企業を含め自衛隊が運用を続ける限り、契約の交渉を行うことで整備支援や維持部品の調達を行うことが出来るのですが、基本的に日本以外の諸国では、とはいってもNATO加盟国以外では別の方式もあるのでしょうが、装備品運用支援に関する契約をメーカーとの間で締結し、これに則った運用が行われるわけです。言い換えれば、いつまで使えるのか、を明示している、という事になる。

Img_4368 運用支援契約とは、戦車や航空機等各種装備品について、例えば今後五年分や十年分の予備部品などをあらかじめ契約し、その予備部品を元に定期整備などを行う、ということ、これが案外高くつきます。フランスが350両を導入したルクレルク戦車についての契約事例を見ると、2010年に締結されたものなのですが、ネクスター社との間で十年間で250両のルクレルク戦車の長期整備計画を行った金額が13億ドルとなっていました。これは2007年に閉鎖されたルクレルク戦車の生産ラインについて予備部品製造ライン維持費を含んだものとなっているので、案外と高いことがお分かり頂けるでしょうか。そして、運用期間が長期化すればするほど、維持費と補修費用は大きくなり、その費用は整備対象が限定されている分、競争原理が利かなくなるわけです。

Kimg_9021 汎用部品を増加させ、他の装備品との維持部品互換性を確保して維持費用全体を低減する、という方式もあるにはあるのですが、そうしますと一社系統の装備品に限られ、所謂一社傾倒となってしまいますので、その都度安い海外装備品を取得する、という事は出来なくなってしまいます。NATOでは共通部品プールを構築して整備基盤を効率化しているため選択できる部分でもあるのですが、NATOに加盟しておらず、そして加盟したとしても地理的に離れた我が国では撮りえない選択肢、というものもあるわけですね。それならば、国内でのファミリー化を行うべく開発を行った方が、長期的には安価に収まるのではないでしょうか。

Img_4119 前回、装甲車の車幅について記載しました、我が国の道路は2.5m規制である。これに対して自衛隊だけは特別に世界基準の3.2m装甲車が走れるようにすればよい、と反応がありました、正直、気軽に言ってくれるなあ、と稚拙さにため息が出ましたが、更にその翌日ダンプカーに無理な幅寄せをされかなり怖い思いをしたところで、これが2.5mではなく70cm大きい3.2mなら巻き込まれて大事故か即死だ、と冷や冷やしました。3.2mは気軽に言いますが73式小型トラック二台の車幅が3.3mなのですよね、案外簡単に自衛隊だけ特別に、という事は出来るのですが、実際に行えば大惨事間違いなし。

Img_5153 海外装備導入すれば安くていいよ、この言葉も言うのは気軽なのですが、長期整備費用まで計算したのか、と問い返せば、しっかりとした数字は戻ってきません。こういうのも、長期間運用するため数字は出しにくいのですが、フランスの事例を見るだけでもわかるようにかなり高くなるのです。そして、日本型の調達方式、導入数を曖昧に明示し中途打ち切りも有り得る、もしくは実際にかなりの装備品が当初導入計画からかなり少数で生産終了となっている、この現状で無理に海外製を導入すれば打ち切った際に莫大な賠償金を要求されるという事、忘れてはならないでしょう。これを踏まえれば、気軽に海外から購入すればいい、という視点へ売ってくれるのか、契約を結べるのか、長くなされている海外装備導入案に対しこの単純な答えが出されない事について、少々違和感を感じる次第です。

北大路機関:はるな

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コメント (8)
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