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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業と武器輸出三原則① 防衛装備品の輸出に関する一考察

2009-06-17 23:35:39 | 防衛・安全保障

◆日本の対外政策を左右する命題

 このまま調達数が削減された場合、防衛産業は維持できるのか、という観点から、武器輸出三原則運用の見直しについて、議論が交わされているが、どのような緩和があり得るのか、日本製装備の調達費用は高価なのか、などなど、数回に分けて考えてゆきたい。

2005116_071  三菱重工は、F-2支援戦闘機を年間12機生産できるラインを整備したが、年間5機しか発注が無く、今後は生産が終了する見込みである、ちょうどNHKの報道でF-2支援戦闘機の小牧南工場における生産ラインの様子が映像で出されており、神奈川県の戦車履帯を生産する企業でも、生産数が激減しており、技術継承が難しい、とのコメントを寄せていた。

Img_8843  防衛産業を構成する企業にとり、防衛産業への関与は、次第にリスクを伴うものとなっている。例えば、当初60機の調達を前提として陸上自衛隊はAH-64D戦闘ヘリコプターを採用。富士重工がライセンス生産を担当し、ラインを整備したものの、調査不足から機体の価格が高いとして調達は7機で終了、200億円以上を投じて整備したラインのみが残った。

Img_0750  防衛産業は、冷戦終結後どの国でも維持が厳しくなっており、今年春には、戦車誕生の国、イギリスで戦車数削減により最後の戦車工場が閉鎖、イギリスは今後スウェーデンの工場より戦車を導入することとなる。日本も戦車定数は防衛大綱の改訂とともに冷戦時代1200両の整備を定数としていたのが、今日では600両定数に、年末の防衛大綱改訂案ではさらに下方修正される可能性も高い。

Img_7356  日本は、装備品の奥を国産、もしくはライセンス生産として海外で開発され屋装備品の製造ライセンスを購入し、ブラックボックスとよばれる機密部品は輸入、それ以外は日本国内の下請け企業が製造し国内企業において生産を行うという基本指針のもとで防衛装備品の調達を行ってきた。

Img_8725  これは、第一に、国内で部品を製造するのであるから航空機の場合は、いちいち故障や定期整備を、海外の工場や、海外からの部品調達に頼らず国内整備を行うことで、稼働率を高めることが出来る。200機航空機が防空に必要な場合、稼働率が50%しかなければ400機の戦闘機が必要となるが、仮に100%であれば200機で事が済むのだ(戦闘機の場合、工場での整備中の機体と部隊配備の機体からみた稼働率は概ね95%程度とされる)。

Img_8408  見方を変えると400機保有している国の方が、200機保有している国よりも、対外的には強力な軍事力を有する、と見てとられる訳だ。つまり、国内に整備基盤を有することは少ない機体で日本を守ることが出来ることを意味する。もうひとつ、国内で製造できる基盤を有するということは、武器供給国の装備体系に選択肢を絞られなくなる、つまり国際関係の展開において中立性を保つことが出来る訳でもある。

Img_09241  日本の防衛産業を維持するにはどうすればいいのか。輸出に頼るというのは、あまりに単純な議論であるが、成功するかは微妙である。例えば冷戦後、ロシアは連邦軍の急激な縮小に対し、国外への輸出で補おうとしたが、マーケティングやアフターサービスなどの面で後れをとり、航空機や戦車で言えば、単純化させ前線での整備を重視したという運用思想が基本的に異なるロシア製装備は、安価、という以外には受け入れられないものであった。

Img_6070  また、日本製装備は、限られた国土での少数優勢を求めるなど独自の運用思想に基づく装備品も多く、これが果たして受け入れられるのか、という点も多く、加えて、世界中の軍需産業が生き残りをかけて市場を競っている中、冷戦終結後20年を経て市場に参加する日本製装備がどの程度受け入れられるのか、兵器見本市に自衛隊の部隊が参加し、戦車砲を発砲するなどのデモンストレーションでさえ、予算的にどこが負担するのかなど、早速問題が多い。また、生産基盤にしても、急激に、例えば短期集中生産で自衛隊の需要の10年分以上などを一度に要求された場合対処できるのか、など、問題は多い。

Img_1023  また、地上発射型の対艦ミサイルや、長射程の地対空ミサイル、潜水艦など、下手に供与してしまうと、国際関係を根本から変化させてしまうような装備品も多いことは事実だ。どの国にどういった装備品を輸出するのが可能か、どういった定義のもとでこれを決定するのかなど、簡単に結論のでなさそうな問題が多い。

Img_6464  日本では、攻撃用の相違を有さない、という観点から防衛力整備が行われたため、あたかも防御用装備に対して、攻撃用装備というものが存在するような錯覚を受けるが、これは専守防衛の政策を前提として生まれ得る概念であり、防御用の装備といえども、攻撃的な運用に用いる国が使用した場合はこの限りではない。

Img_7906  武器輸出三原則に関する現状の運用を見直し、輸出を行うとした場合、防衛装備品の輸出に際して、技術上の機密をどのように守るか、ブラックボックス技術などの開発も重ねて必要となる。また、それとは別に、日本側の技術などを必要とする国に対して、技術移転をどう扱うか、不正な技術移転をどのように防ぐかも重要な命題となってくる。

Img_9725_1  他方、花形装備は、海外でも多少は需要があるのかもしれないが、そのほかはどうするのか。防衛省の調達で補えない数量を輸出にて日本の防衛産業を維持できる数量の範囲内での輸出が出来るという見通しは全くない装備は、どのように扱うのか、外国製装備の運用は、日本の運用と合致しないため国内開発したものも多いため、外国製の装備を輸入するというかたちでの代替は難しい。

Img_6723  武器輸出三原則の現状の運用に対する見直しについて、簡単に考えるのではなく、防衛装備品の極力ファミリー化し、異なる装備間の部品の共通化などを積極的に図り、汎用部品の割合を多くすることにより、全体の生産数低下を補うような施策もあってしかるべきだと思うが、どうなのだろうか。

Img_7816  例えば、次期固定翼哨戒機P-X(現XP-1)と次期輸送機C-Xという、全く異なる任務と形状の機体を同時開発することで、外見には表れないような部品を極力共通化させることで、開発コストと調達コストの低減に挑んだ計画が進行中で、陸上自衛隊の装輪式装甲車についても、共通化の計画が進められている。続くように、戦車と装甲戦闘車、自走榴弾砲なども極力部品を共通化させる設計を採用し、汎用品の割合を増やすべきだろう。

Img_2906 特に重要なのは、防衛装備品を生産する防衛産業の中でも、主契約企業として完成した装備品の銘板に刻まれる大企業だけでなく、その装備品を支える中小企業がどのように生き残るかである。この点、多国間生産への参加などの点について、踏み込んで考える必要はあるし、同時に海外と競合する場合、後年度負担のような日本独自の防衛装備調達も受け入れられないのではないか、という議論からも見てゆく必要がある。

Img_9049  国際関係を考える上で、必要があるのならば、軍事力は維持する必然性がある。こうした中で、平和憲法とともに、武器輸出を行わないという一つの指針の下、日本国民には合意があるものだと考え、その代償として、結果、量産効果が生じず、調達する装備の価格が高く見えることも、つまり、余分な税金の負担も看過されているのだと考えてきたのだが、今日的には必ずしもそうではないようで、加えて防衛産業に対する誤解もあるようだ。今後は、数回に分け、改めて考えてゆきたい。

HARUNA

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コメント (4)
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