北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

大規模災害時における情報共有の問題

2007-01-31 18:16:27 | 防衛・安全保障

■阪神大震災と新潟中越地震

 毎年、一月になると決まって地震災害に関する特集番組が放送され、災害被害を如何に局限化するかが論点として話し合われている。昨日、NHKにおいて災害と情報に関する特集が恐らく再放送であろうか為されており、本日提出の大学院の論文校閲への手を休め思わず見入ってしまった。

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 写真の機体と同じ機体であろうか、兵庫県警航空隊の震災当時に被害状況把握のために飛行したパイロットの話として、震災直後の神戸市内では家屋倒壊や火災の黒煙により状況把握、とくに位置情報が確定できず、この教訓から新しく1億3000万円の費用を投じ、撮影した情報が何処であるかを把握するGPSとの連動したカメラを導入している。こうした機体は全国に100機程度配備されており、大規模災害時には応援のヘリを加え、連携した対応を行えるとの事である。

Img_7005  阪神大震災に続く、被害の記憶生々しい新潟中越地震では、ちょうど空中機動旅団である第十二旅団の管区内ということもあり、新潟県知事より災害派遣要請を受けた第十二旅団は隷下の航空隊よりUH-60JA多用途ヘリコプターを出動させ、暗視装置により孤立した村落の克明な映像を送信している。気象レーダーや暗視装置により高い夜間飛行能力を有するUH-60JAは、夜間という状況下で孤立した山古志村の状況を撮影し、旅団司令部に状況を映像として報告した。

Img_0408  旅団(写真は第6施設群)はこの情報を基に災害派遣部隊を編成、高機動車や中型トラックを駆使し、翌朝に部隊を派遣した。しかし、この画像情報が新潟県知事に届いていなかったことが後日問題を引き起こした。災害対応計画を立てる上で情報は全て開示されて然るべきとする新潟県と、軍事組織である自衛隊は全ての情報を開示するわけにはいかないという言い分の衝突であるが、災害時という非常時に統合連携した対応が必要であることを考えれば、情報不開示の方に問題点が見出せるのではないか。

Img_3134  災害時の端緒において、特に平時では想定できないほどの火災、道路障害、負傷者の発生がライフラインの断絶と共に生起する為、ここでは消防や自治体の能力を超えた部分について、自己完結能力を有する軍事組織、つまり自衛隊の出動による負荷緩和は重要である。しかしながら、復興計画など、誤解を恐れずに言えば48時間以降は自衛隊から自治体へ活動の中枢は移行を初め、復旧から復興への過渡期には自治体が主導権を担う必要が生じる。

Img_7843  この場合、航空救急搬送や公共施設の機能回復など、自衛隊の能力は応急的なものであり、無限ではないことに気付かされるが、結果的に災害派遣は自衛隊に外注する、というものではなく、自治体との協同が必要となるものである。従って、情報は共有されるべきものであるが、他方、御巣鷹山の日本航空旅客機墜落事故における航空自衛隊のRF-4のように、安全保障上、全ての情報を開示できるものではないという、限界についても考慮は当然必要となる。

Img_2164  この点、自治体と自衛隊、若しくは復興計画を支援する政府機構との間を取り持つ機構が必要になる。こうした議論は様々な分野でなされているが、例えばアメリカ連邦緊急事態管理庁FEMAのような特定事態に際して指揮権を統括できる機構が必要ではないかと考える。アメリカではFEMAが新設された国土安全保障省に統合され、権限などが制限されてしまったが、常設機構として、政府の関係機関や全国都道府県知事連絡会よりの出向者で固めた緊急事態庁を内閣府の下に創設する必要があるのではないかと考える。

Img_7850  特に、携帯情報端末などの普及により電子化された情報収集はこれまでよりも容易且つ迅速に構築できる。こうした情報を組織の垣根を越え統合する為の、いわば巨大災害という有事に備えた枠組は重要である。如何なる方策にしても、国民保護法の制定に伴い、実行性の高いシステムが求められているのは確かである。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (2)
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