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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

自衛隊の予備自衛官・即応予備自衛官

2007-01-29 12:46:10 | 防衛・安全保障

■日本の予備役制度

 日本ならずとも世界各国の軍事組織では、平時における軍事力に加え、有事の際には動員令を発令する。平時兵力が大きすぎる場合は隣国との無用な緊張を生む為、例えばカントの“永遠平和のために”では、常備軍は段階的に廃止するべき、という言葉にも端的に表れている。本論では、予備自衛官の能力向上の為に即応予備自衛官との統合と、有事の際に不足するであろう上級通訳、法務官の幹部養成の必要性を問うものである。

Img_2350  陸上自衛隊においても1954年より予備自衛官制度として自衛官経験者の退職者の中から希望者を募り、有事における予備部隊としての性格を与えている。

 写真は伊丹駐屯地における中部方面隊創設記念行事での予備自衛官の観閲行進であるが、迷彩戦闘服ではなく、66式作業服(OD作業服)に66式鉄帽という、いまでは中々目にすることのできない装備である。

Img_2349  予備自衛官は、自衛隊に一年以上いた経験者であり、士長までは37歳以下、陸曹や幹部で異なり、最大で2佐までが資格となっている。任期は三年間で、希望者には継続任用も可能となっているが、年間五日間の訓練参加が義務付けられる(ただし、罰則規定は無いとの事、更に分割参加も可能)。有事の際には駐屯地警備隊や弾薬整備中隊として召集される。また、有事の際に充足する、とされる一部の普通科部隊にも配属される可能性があり、現役時代の職種や勤務状況が考慮されるのだろう。

Img_0394_1  この予備自衛官制度において問題とされるのは、まず人数が45000名前後と非常に少ないことで、現役よりも予備役が少ないというのは先進国としては稀有、最低でも現役の0.9倍は維持するのが各国の常態であるから、三自衛隊を合わせ、現行の四倍程度の予備自衛官がいてもおかしくないのではないかという意見もある。更に、年間五日の訓練では、例えば小銃や個人装備の更新、車輌の近代化や技量維持が不可能ではないかとの論議もある。

Fh030019_1  この為、1998年より開始されたのが即応予備自衛官制度で、従来の予備自衛官が配属部隊に関して平時では未定であったのに対して、動員の際の所属小隊まで確定しており、訓練日数を年間30日としたもので、実質訓練期間は六倍、射撃などの機会もあり、更に即応予備自衛官を雇用する企業には給付金が出されるとの事で、15000名分の枠が設定、1998年に第四師団で始まり、第六師団、第十三旅団と全国の部隊に拡大、写真の第七師団第73戦車連隊も即応予備自衛官により編成されている。

Img_9224_1  即応予備自衛官の部隊は、平時にあっては例えば一個連隊の内の本部管理中隊や中隊本部などを現役とし、即応予備自衛官を中隊基幹要員として招集することで編成され、写真の第49普通科連隊のように初めから即応予備自衛官基幹普通科連隊として新編された部隊もある。ただ、年間30日という訓練期間も諸外国の予備役制度を比べた場合決して長期ではなく、むしろ現行の予備自衛官制度を廃止し、45000名の予備自衛官枠をそのまま即応予備自衛官枠としてはどうかとの議論もあるようだ。

Img_7885_1  2006年3月、第六師団の即応予備自衛官基幹部隊である第38普通科連隊が、東北方面隊直轄部隊として新編された東北方面混成団に第一教育連隊と共に編入された。38連隊は軽装甲機動車なども装備する部隊であるが、教育訓練部隊と統合されたのは、新規装備の習熟に必要であった為か、それとも現役部隊との協同には練度に難点があったからかは不詳なれど、73戦車連隊など現行の即応予備自衛官基幹部隊が今後どのように扱われるかは興味のあるところである。

Img_2480  即応予備自衛官制度に加え、有事の際には戦闘要員の他、広く様々な人材が必要とのことで近年募集が始まったのが、自衛官の経験が無くとも応募できる予備自衛官補制度で、三年間に五十日間の訓練を受け応募資格を得る一般予備自衛官補と、二年間に十日間の訓練を受け資格を得る技能予備自衛官補が導入され、技能区分では医療従事者、語学、情報処理、通信、電気、土木建築、整備の資格保有者から選定されるものである。

Img_0537_1  予備自衛官補制度については、大学生も夏季休暇だけで20万円程度貰えるとの事で参加する学部生を何人か見かけたが、語学に関しては英語、朝鮮語、中国語、ロシア語とされている点に、例えば国際貢献任務の本来任務化を受け、紛争地で用いられるポルトガル語やフランス語なども募集要員として多く必要ではないかと考えると共に、有事の際には法務官の不足が問題化する可能性がある。家屋などの障害除去や民有地における陣地構築、捕虜取り扱いなど、法務官は不足しているように思う。

Img_9205_1  語学特技に関してはどの程度が要求されているかは不詳ながら、調査学校普通英語課程(POE)が求めるTOEIC550点程度は最低必要とされてしかるべきである。しかし、考え方を換え、大学生を対象とした予備語学幹部として、大学院留学レベルに必要とされるTOEFL600、更に法曹資格を有する者を資格として予備法務幹部、上記の資格を有する上に国際法を専攻した修士以上の者を対象とする上級法務予備幹部というような制度が必要と考える。ここは更に進め、法曹や専門通訳の任用を本気で考えなければなるまい。

Img_9200_1  日本版ROTC(予備将校養成課程)という大袈裟なものではないが、有事法制の整備により超法規での防衛行動が不可能となり、文民統制の下での自衛隊の活動が定められたことで、特に法務幹部は戦闘基幹部隊である中隊本部毎に必要となろう。中隊幹部に意見する為には予備であっても立場上幹部の資格が必要となろうし、語学幹部にしても海外派遣において英語圏以外の派遣任務(国際人道任務やPKOで英語圏に派遣されたことは無いが)を考えれば、リエゾンオフィサーの通訳として人員が必要であり、上級部隊同士の調整を行うにはやはり2士や士長ではなく、予備幹部である必要性が生じると考えるのだが、どうであろうか。

HARUNA

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