ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『ダンスウィズミー』

2020-06-03 23:14:29 | 日本映画










 
2019年夏に公開された、矢口史靖 監督&脚本によるワーナー・ブラザース配給の日本映画。

ミュージカル映画として宣伝されてたように思いますが、これは正確に言うと「ミュージカルをネタにした珍道中コメディー」であり、和製『ラ・ラ・ランド』みたいな内容を期待すると肩透かしを食らいます。

なにしろヒロインの静香(三吉彩花)は、唄い踊りたくて唄い踊ってるワケじゃないんです。インチキ催眠術師のマーチン上田(宝田 明)に「音楽を聴くと唄い踊らずにいられなくなる」暗示をかけられ、本人はミュージカルが嫌いなのに意に反して唄い踊っちゃう。

つまり「登場人物が唐突に唄い踊り始める」ミュージカルの不自然さに、明快な理由をつけた映画なんですね。

だけど、音楽が聴こえただけで無条件に唄い踊るワケだから、主人公の感情とダンスがリンクするミュージカルの醍醐味が味わえない。たまたまレストランで居合わせた、赤の他人の誕生日を祝う『ハッピーバースデー』でヒロイン=静香が唄い踊ったところで、彼女にも我々観客にも感情の昂りは一切無い。

だけどその代わりに、激しいダンスでお店の備品を破壊しまくった静香が、とんでもなく高額な賠償金を請求されて、我々は「そりゃ現実はそうなるよね」と笑うワケですw

で、それが雲隠れしたマーチン上田を一刻も早く見つけ出し、暗示を解いてもらわなきゃならない静香の珍道中へと繋がっていく。だからこれは「ミュージカルをネタにした珍道中コメディー」であり、そう割り切って観れば実によく出来た映画です。

しかし何故、インチキ催眠術師であるマーチンの暗示に、静香がこうも簡単にかかってしまったのか? 実は静香には、幼少期に学芸会のミュージカルで主役を演じる筈が、高熱を出して舞台上で嘔吐しちゃったという、なかなか悲惨なトラウマがあるんですね。潜在意識下に「ちゃんと唄い踊りたかった」願望がずっと残ってるワケです。

だからクライマックスで、静香は幼少期の自分と一緒に唄い踊る。それはヒプノセラピーで使われる退行催眠(幼少期の自分と対話し、安心させることでトラウマを克服する手法)そのもので、実はこの物語は全て、マーチンの催眠術により静香が見てた夢、とも解釈できそうです。

静香が唄い踊るのが暗示のせいなら、周りの人まで一緒に唄い踊る理由は何なの?っていう疑問も、そう解釈すればすんなり腑に落ちます。道中で起こる色んな出来事が現実離れしてる(静香にとって都合よく展開しすぎる)のも、多分そういう事じゃないかと私は思います。

もしかしたら『ラ・ラ・ランド』にも『サウンド・オブ・ミュージック』にもそんな裏設定があるやも知れず、そう考えると本作はミュージカルの本質を理詰めで読解して見せた、これぞ『シン・ミュージカル』とでも呼ぶべきミュージカル映画なのかも?

そうでなければ、矢口監督が今さらミュージカルを題材に選ばれる筈がないと思います。皆さんご存知でしょうが、矢口史靖さんといえば『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』『ロボジー』『WOOD JOB!』等、それまで注目されて来なかったスポーツや業種にスポットを当て、新鮮な切り口で見事なエンターテイメントに仕上げてみせる、日本で数少ない「ハズレがない」映画作家です。

『サバイバルファミリー』みたいにシリアスな題材を扱ってもユーモアを忘れず、確実に笑わせてくれるクリエイターとして私も超リスペクトしてます。ちょうど私が自主制作で映画を創ってた時期にインディーズからメジャーに躍り出た人で、ほぼ同世代という事もあって勝手に親近感を抱いたりもしてます。

ヒロインに三吉彩花さんを選ばれたのもさすが! 歌は上手いのかどうか私には判らないけど、あの長身で繰り出す伸びやかシャープなダンスはどう見ても一級品で、確信犯的パンチラまで見せてくれますから眼福どころの話じゃありません。当然、ファンなら必見です。

ほか、やしろ優、chay、三浦貴大、ムロツヨシといったキャストが脇を固めておられます。
 


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