マスメディアに植え付けられた、医師・医療機関への不信
先週の土曜日(13日)と今日(20日)、医療制度学習会の講師で、千葉市と堺市に行ってきました。それぞれ学習会の参加者や対象者などが異なり、講演とそのあとの質疑など、展開は異なりますが、学ぶべきところ・感じるところが、多々ありました。
中曽根臨調行革・老人保健法制定、この25年にわたりマスメディアをプロパガンダ機関として、デマ宣伝を展開してきたその結果が、講演後の質疑応答のなかでも、如実に現れていました。
前の学習会は、一定の問題意識を持った方々が、参加している集会であり、鋭い質問や傾聴すべきご意見など、勉強になることが多くありました。 しかし、そうしたなかでも「県の報告によると医療機関からの『不正請求』が、かなり多くあると聞いている、医療費の増高を抑えるためには、この対策を強化しなければならないのではないか」と、質問というか、ご意見がありました。 マスメディアの一連の報道、加えて行政当局からの発表、『医療機関からの不正請求が何億円にもなっている、こんな不正を放置できない、これにメスを入れなければ』、という、率直な義憤という感じを受けました。そして、この発言の奥に根強い医師・医療機関への不信感を、わたしは強く感じました。
「不正請求ということは、良くないことは明らかですから、医療機関への管理監督の権限を持つ県が、適切に対応するのは当然のことです。しかし、わたしの仕事絡みの経験でいえば、医療機関からの『請求もれ』もケッコウ多くあり、高額療養費の支給で難儀することがあり(医療機関からのレセプト請求点数を基準として処理するため)、医療費の増高を抑えるために『不正請求対策』というのは大げさで、誤差の範囲内ではないでしょうか」と、お答えしました。
後の学習会は、市会議員の方の市政報告会後に、引き続きの学習会として開催されたこともあり、医療制度に関心のある方々ばかりではなかったようです。 「3ヶ月に一度ほど、役所から医療費通知を受け取るが、その金額を見て医療費が高すぎると思う。月一度の診察で、5分ほどの問診と薬を出してもらうだけなのに、8000円とは高すぎる。5分で8000円では儲けすぎだ」
「医者は、170円なのに、薬局は8000円も取る、薬局が儲けすぎている」などの発言があり、ここでもまた、マスメディアが植え付けた医師・医療機関に対する不信や、医療制度への誤解が、部分的な「経験」を、正しくない結論に誘導されていることを、あらためて実感しました。
月に一度の受診ということは、何か慢性的な疾患があり、その疾患の管理指導料や再診料、また一月分の薬の処方料などなどを考えれば、決して800点は高くはないことを説明しましたが、「5分で8000円は高すぎる」という、その方は、自説は曲げられませんでした。
170円というのは、お医者さんに支払う金額で、8000円というのは調剤薬局に支払う金額ですね、とすれば、再診料と薬の処方料などの1割が170円で、あなたの病気の関係で、かなり高価な薬が処方されているのではないですか、調剤薬局は高い薬を売ったとしても、そのことでの儲けなんてありませんよ。そんな説明をしました。
170円と8000円というのは、少し強調が過ぎるのではないかと思いましたが、その方の病状から、高価な薬剤が処方されるとすれば、ありえないことではありません。ただ、いくら高い薬を調剤薬局が出したとしても、そのことによって利益が上がる仕組みになっていないことが、また、医療は非営利が原則なんだ、ということが理解できないようでした。
老人医療費が増高を続けている、医療費が高すぎる、医者・医療機関は、『ぼろ儲けをしている』というデマ宣伝が、4半世紀も手を変え品を変え続けられれば、残念ながら、キッチリと市民・大衆の中に浸透し、その意識に定着しているようです。
仕事がらみの経験になりますが、医療費通知を送付すると一定の件数で、リアクションがあります。「受診した覚えがないのに、医療費通知に記載されている」という照会が、最も多いのですが、「不正請求と思われるもの」はほとんどありません。 皆無とはいいませんが。
レセプトを書庫から抜き出してきて、その内容を説明すると、受診していたことを思い出されることがほとんどです。
また、「○○眼科にいった覚えがありません」の問い合わせには、「コンタクトレンズを作りませんでしたか?」の問いかけで、問題解決です。
医療費通知の意味・意義、そのタテマエはそれとして、マスメディアのキャンペーンと、それを出すことを強要している「お上」、それを重ね合わせると、その意図や意向に不純なものを感じます。
医師・医療機関への不信感を煽るマスメディアのキャンペーン、ためにする医療事故報道などなど。さらに、高齢者と若人・医師と患者を分断し、妬み心を刺激するマスメディアの報道、その仕掛けの黒幕が政府とは、下品な世の中になったものです。