医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

民営化とプライバタイゼイション

2006年03月11日 | Weblog

      

                  民営化とプライバタイゼイション

 1、現在進行中の構造改革とは、新自由主義Neo Liberalismにもとづく、国家・社会・経済の再編ということであり、プライバタイゼイションPrivatizationの訳として「民営化」という言葉が、日本では使用されていますが、国有企業を民間に売却したり、運営委託したりすることだけを、指す言葉ではなく、社会保障・福祉の分野においても、市場経済原理を導入することなども含めた、そうした手法や傾向や概念を指す新造語です。
 
  2、福祉国家体制は、公共部門の社会的所有などにより、平等で公平な社会を作るという理念で、確立されてきたといえます。しかし、新自由主義的改革とは、こうした社会的所有を、私的所有に移行させることによって、小さな政府を実現しようとしています。この社会的所有を私的所有に移行させる、このことが、プライバタイゼイションの核心だといわれています。
 「官から民へ」といわれていますが、「社会的所有から私的所有へ」といわなければなりませんし、民営化ではなく「私営化」というべきでしょう。

  3、社会保障・福祉において、給付水準を切り下げ、適用範囲を縮小、施策に対する公的支援や補助を削減、公的社会保障制度を市場機能にゆだねる、こうしたことを通じて、国家介入を縮小し、市場原理を導入する。プライバタイゼイションとは、そうしたことも意味しているのです。したがって、現在進行中の改革とは、新自由主義Neo LiberalismにもとづくプライバタイゼイションPrivatizationだということです。

  4、中曽根の臨調行革に始まって、橋本の規制緩和・構造改革、小泉の構造改革と進んできました。当時の3公社・5現業(労働組合でいえば公労協)は、すべて民営化されることとなりました。
 社会保障制度でいえば、老人保健法で老人医療無料化をつぶし、福祉医療・公費医療を後退させ、一般の医療保険制度を改悪してきました。
 社会保障制度改悪の雛型としての、介護保険制度が導入され、公費で措置されていたものが保険制度に、介護サービスの給付ではなく、介護サービス費の給付とされ、そのサービスは民間事業者が対応する、公的な保険とはいえ、事実上民間へ丸投げされています。

  5、介護保険が、社会保障制度の改悪の雛型という意味は、所得なしの高齢者からも、年金天引きで保険料(税金)を徴収することに、代表されるようなさまざまな事例を指しています。
  医療保険は、療養の給付ですが、介護保険は、介護サービスの給付ではなく、介護サービス費の給付です。療養の給付とは、その患者の治療に必要な医療や薬剤が現物給付されます。治療に必要なかぎり限度などありません。 
 しかし、介護サービス費の給付は、その人に必要な介護サービスが給付されるのではなく、要介護度によって介護サービス費が決定され、その範囲内で介護サービスを選択することになっています。 
 これを雛型として、新高齢者医療制度創設のなかで、後期高齢者の医療給付の制限・抑制が持ち込まれようとしているのです。

 6、このプライバタイゼイションを、急進的に進めたのが、イギリスのサッチャー首相です。 
 ひとつの事例ですが、当時(1970年代末)イギリスの社会保障費のなかで、その最大の重荷は、公営住宅の建設・維持費用だったそうです。当時の住宅事情は、公営住宅(council house)が30%、持ち家60%、私的賃貸住宅10%でした。 
 その公営住宅を居住者に、相場の5割引で売却したのです。そして、居住者が住宅を買い取るための、そのローンまで、国が面倒をみたのです。
 さらに、居住者への売却だけではなく、賃貸住宅業者へも、良い住宅から売却し、公営住宅として残ったのは、古い・劣悪なものばかりということになりました。 
 社会保障としての居住権の保障、すなわち公営住宅の建設・維持、その費用が嵩んでいたのですから、安く払い下げたとしても、出ると入るその差は大きく、財政負担はおおいに軽減されました。 

 7、公営住宅の払い下げを受けることのできた人たちと、賃貸の形で引き続き公営住宅に住まなければならなかった人たちの、その差は大きいといえます。公営住宅を購入できた比較的裕福な人たちが、莫大な政府の支援を得たことに比して、公営住宅を購入できなかった人たちは、居住していた住宅が民間への売却物件であれば、売却されていない住宅に移らざるを得なくなり、また住宅扶助の削減などもあり、より大きな負担が求められることとなりました。
 公営住宅の居住者は、払い下げを受けることもできない、貧乏人ばかりとなり、生活保護と同様のスティグマが生じました。
 それでも、イギリスの公営住宅の割合は10%を切ってはいないと思われます。

  8、日本の公営住宅は、村営住宅・町営住宅・市営住宅・県営住宅というような名前がついていますが、すべて国営住宅です。制度改悪があって、現在では、一部自治体負担がありますが、基本的には100%国費で建設・維持されていたのです。
 この公営住宅は、全住宅の4.63%ぐらいではないでしょうか。この公営住宅と公的住宅、すなわち、公団・公社住宅とをふくめても6.62%ぐらいでしかありません。
 憲法25条にもとづき、公営住宅法が作られ、社会保障としての居住権確保のために、公営住宅が建設・整備されてきたのですが、現在の流れは、逆流になりつつあるのではないでしょうか。最近の公営住宅・公的住宅を巡る動向に注意しなければなりません。(持ち家61.26%で、借家の割合は36.55%、その内訳は、民営借家26.74%、公営・公社6.62%、給与住宅3.19%)

 9、公営住宅の払い下げを受けた人たちを含め、サッチャーさんの支持率は、おおいに高まったそうです。現在進行形の改革は、そのイギリスのサッチャー政権の模倣が多いといえます。
 この新自由主義改革は、必然的に社会的不平等を深化させ、格差社会と呼ばれている二極化が進行することになります。
 しかし、この新自由主義政権に対して、社会的不平等や貧困の深化を警告しても無意味です。なぜなら、社会的不平等は「活気ある社会作り」の必要条件として、織り込み済みの問題なのです。
 社会保障・社会福祉の後退で、貧困が深化してゆくことに反対する階層と、新自由主義的改革によって、経済的利益を受ける(ことを期待する)階層に二分され、とりわけ、この後者の支持を取り付けるのが、サッチャー政権の戦略でした。
 日本の場合、「都市の中間層」と呼ばれている部分が、後者に巻き込まれているのではないでしょうか。
                              2006・3・11補強   harayosi-2


1 コメント

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他者を慮るか自己チューか (レッツら)
2006-03-11 21:58:45
>この新自由主義政権に対して、社会的不平等や貧困の深化を警告しても無意味です。なぜなら、社会的不平等は「活気ある社会作り」の必要条件として、織り込み済みの問題なのです。



この結論、そうだと私も思っているんですが、手の打ちようがなくなってしまう(笑)。結局、論点のすり替えがなされている詭弁なだけですが、小泉さんの言う「今までが悪平等だったんだ。格差社会を悪いと思わない。強いものに引っ張ってもらう」という考え方は、それを受けとめる人間性そのものにかかっている、そんな気がします。みんなが幸せな社会を目指したいと思うか、自分さえ良ければいいと考えるか。そんな見方をしています。

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