ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

『朝が来る』『永い言い訳』

2016-02-12 19:59:22 | 
『朝が来る』 辻村深月 文藝春秋 
 親子三人で穏やかに暮らす栗原家に、ある朝かかってきた一本の電話。「子どもを、返してほしいんです」電話口の女が口にした「片倉ひかり」は、確かに息子の産みの母の名だった。
 ウッカリ者の私は、この本がNHKの朝ドラの「あさが来た」の原作本だと思った。違っていた。(「あさが来た」の原作本は『小説 土佐堀川』)また、導入部の話から幼稚園ママのいじめの話かと思ったら、これも違っていた。養子の話である。
 長いトンネルを抜け「朝が来る」と育ての母の主人公が思う場面は印象的。本の題名はそういうことなのかと得心した。もう一人の主人公・産みの母は、『再貧困女子』『下流老人』を思いおこす感じで、若さゆえの無知や相談できないことでどんどん堕ちていく。結果だけ見れば、愚かだと思うが、堕ちていく過程を見ると、やむをえない状態だったのかと思う。最後の場面は、希望が持てる終わり方でよかった。

『永い言い訳』 西川美和 文藝春秋
 長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。悲しさを“演じる”ことしかできなかった津村は、同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。
 私が大学生だったころ、同級生が大好きな祖父を亡くして悲しくてたまらないのに、涙が出ずに、なぜか笑ってしまったと言っていたことがあった。親戚の子が、大好きな祖父を亡くしても泣くことができずに、倒れてしまったことがあった。叔母は、子供が交通事故で意識不明が続いて亡くなった時に「突然ではなく、意識不明の状態があったので気持ちの整理がついた」と言ったときく。本を読みながら、そんなことを思い出した。
 本書では突然に大事な人を奪われた喪失感がよく伝わった。お母さんがなくなって荒れていく部屋の描写は、寒々として寂寥感があふれていた。人とのふれあいを避けてきたような幸夫が陽一一家とかかわりあうことで、愛着を感じ、妻との関係を見直していく過程は見事。最後の部分が、静かによかったと思った。
コメント
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