生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼(160) 経営の真髄

2020年01月31日 13時31分24秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼(160)       
 TITLE: 経営の真髄

このシリーズは企業の進化のプロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。            
『』内は,著書からの引用部分です。                      
                                                        
書籍名;『経営の真髄』 [2012] 
著者;P.F.ドラッカー
発行所;ダイヤモンド社 発行日;2012.9.21
初回作成日;R2.1.30



 この書の原題は「Management Revised Edition」となっており、ドラッカーの著作を、彼の同僚であり友人であったジョセフ・マチェレロ教授により再編集したものになっている。冒頭には、ジム・コリンズの「ドラッカーが遺したもの」という文章が掲げられている。その冒頭の文章は、次の通り。
 『大学院の授業でリーダーとマネジメントの違いを聞いたところ、「リーダーはビジョンを描き、
マネジメントは実行する」「リーダーは志を立て、マネジメントは手配をする」「リーダーは目線を上げ、マネジメントは詳細をつめる」などの答えがあった。
リーダー崇拝とマネジメント軽視の風潮がそのまま出ていた。リーダーは閣歩し、 マネジメントは後に続く。なれるものならリーダーになって、雑事はマネジントに任せたい。
だが、これほど間違った考えはない。ドラッカーも言うように、最高のリーダーは最高のマネジャメントでなければならない。マネジメントできずにリーダーたらんとしても、何もできないか害をなすだけである。』(pp.ⅲ)

 彼は、ドラッカーの影響力の元を、4つのアプローチの方法にあるとしている。
 『ドラッカーの影響はなぜ、これほどに大きいのか。その理由は、ドラッカーの考えたことそのも
のだけにあるのではないと思う。そのアプローチの仕方にもあると思う。
一、外の世界を見る。
二、成果を中心に置く。
三、質問する。
四、個を大切にする。』(pp.ⅳ)
 これは、トヨタの三現主義に似ているが、一方でメタエンジニアリングのMECIプロセスにも相当している。すなわち質問するMining, 外の世界を見るExploring, 個を大切にするConverging, 成果を中心に置くImplementing,ということになる。

 多くの記述は飛ばして、第20章の「社会に与える影響の処理と社会的責任」について引用する。このことが、最近とみに重要になっているからだ。彼は、まず社会的責任を二つに分けている。企業が社会に与える影響と、企業自身の活動とはかかわりなく社会自体の問題として生じるものだ。それについては、
 『ニつの社会的責任
いずれも、組織が社会やコミュニティのなかの存在であるがゆえに、マネジメントにとっては重大な関心事たらざるをえない。しかしこの二つの社会的責任は、まったく違う性格のものである。前者は組織が社会に対して行なったことに関わる責任であり、後者は組織が社会のために行なえることに関わる責任である。
現代の組織は、社会に貢献するために存在する。それは社会のなかに存在する。コミュニティの中に存在する。隣人として存在する。そして社会の中で活動する。』(pp.354)とある。

 その事例は、社会情勢の変化によって生まれてくるとして、次のように語られている。
 『ここにいくつかの例がある。一九四〇年代から五〇年代はじめにかけて、フォード社が車の安全性の向上を試みてシートベルト付きの車を売り出した。しかしあまり売れなかった。そのため手を引いた。
一五年後、安全意識が広がり、自動車メーカーは安全性への関心の欠如と死の商人たることについて激しく攻撃された。その結果、市民を守るだけでなくメーカーを罰することに熱心な法律がつくられた。
マネジメントにとって第一の仕事は、冷静かつ現実的に自らが社会に及ぼす影響を予期することである。』(pp.356)

 また、別の例としては、
 『これに似た例として、デュポンの工業用品毒性研究所がある。同社は一九二〇年代に自社製品に有害物質が含まれていることを知り、専門の研究所をつくって除去のためのプロセスを開発し、他の化学品メーカーが当たり前のこととしていた影響を除去していった。
しかも、その毒性除去を事業に発展させた。今日、この工業用品毒性研究所は、幅広い顧客のために毒性をテストし、毒性のない材料の開発を行なっている。ここにおいても、影響は事業上の機会に変えることによって除去された。』(pp. 358)がある。

 そして、社会に影響を及ぼすイノベーションについては、技術的なイノベーションよりも、社会的なイノベーションがより重要であるとしている。これはまさに、ここ数年日立が云っていることだ。日立は、常に「社会イノベーション」と言い続けている。
 
『変化をイノベーション、すなわち新しい事業への機会に転換することは、組織の機能である。イノベーションを技術に特有のものとしてはならない。
これまでの歴史において社会的なイノベーションは、技術的なイノベーションよりも大きな役割を果たしてきた。一九世紀の主な産業は、新しい社会環境としての工業都市を、事業上の機会や 市場に転換した結果生まれた。最初にガス、次に電気による照明事業が起こり、市内電車と郊外電車、電話 、新聞、デパートなどの事業が起こった。
社会の問題を事業の機会に転換するための最大の機会は、新技術、新製品、新サービスではなく社会的なイノベーシンにある。事実、成功を収めた企業の秘密は社会的なイノベーションにあった。』(pp.360-361)

 最後の第21章の「まとめ」には、短い文章で次の様にある。
 『まとめ
多元社会においては、個々の組織は、自らのミッションに焦点を絞ることによって成果をあげなければならない。しかし社会全体の利益は誰が考えるのか。自らの組織の壁を越えて公益を考えることのできる組織のリーダー以外にいるはずはない。
多元的な組織社会とは、自らの組織のミッションに専念しつつも、自らの細織の壁を越えて行動することのできるリーダー層からなる社会のことである。』(pp.383)

 21世紀を10年を過ぎてから、このドラッカーの主張は、ESGとSDGsの形で、ようやく世界中で具体化することになった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿