生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学との徘徊(50) 秋の三都徘徊(その4)

2018年11月29日 07時35分10秒 | その場考学との徘徊
の場考学との徘徊(50) 題名;秋の三都徘徊(その4)
場所;兵庫県 年月日;H30.11.14
テーマ;木造の建築物の耐震性   作成日;H30.11.28 アップロード日;H30.                                                      

TITLE: 竹中工務店大工道具館

伏尾温泉からまっすぐに南へ下ると。右手に大阪空港に駐機しているJAL機の尾翼が防音壁越しに見えた。そこからさらに高速道路を進むとやがて神戸市内に入った。途中で、阪神大震災の直後に倒れていた高速道路の脇を通った記憶が蘇った。まさにそこを通っているのだ。

やがて、一般道に降りると、目の前に新神戸の駅が現れた。そこが、今日の最初の目的地であった。新幹線の新神戸駅の前後はトンネルで、地図を見てもすぐには鉄道の駅とは見定められない。バスからは、駅前の駐車場で降ろされた。六甲山へ上る空中ケーブルが数台見えた。




竹中大工道具館は、駅前のロータリーを左に折れればすぐ。入口は駅前の土地の所有者の大邸宅を思わせる風情だった。




係の人の説明は、天井の自慢話から始まった。なんでも少しカーブしていることが美点だそうだが、その曲がりはよくわからなかった。
貴重な大工道具が次から次へと紹介される。私の興味は古代建築だ。見事な五重塔が目立つのだが、そこまでの道のりはながい。

先ずは、縦引きののこぎり。丸太を縦に引くことの難しさは、山暮しで何度も経験している。10cmほどの直径でも、電動チェーンソウでは無理で、ガソリンエンジンのモノを使用する。これを手作業で薄板に引くのは、さぞかし経験と力が必要なのだろう。実際のヴィデオを見てみたかった。



続いて、興味を持ったのは手斧。神社の柱を撫でると、一見平面でも微妙なデコボコがある。それと同じ感触を得ることができた。ここでは、なんでも触れるのがうれしい。



鉋でどこまで薄く削れるかの実演は、TV番組でよく見かける。しかし、この幅と薄さには驚きだった。暑さは1ミクロンで、サランラップの十分の一だそうだ。鉋の重量だけで引くという。



様々な材木の鉋屑の見本があった。ふたを開けて匂いをかぐことができる。私の好みは檜で、木曽ヒノキの角材を彫刻刀で削りながら仏像を彫った記憶が蘇る。木工の作業には、匂いも大切だ。

組子細工の作品も見事だった。「陽ざしを繊細な文様に代えることで、空間の奥行きを変える」との説明がある。途方もない手作業が頭に浮かぶ。

最大の興味は五重塔の屋根の骨組みだ。てこの原理を使って、重たい庇を支えている。五重塔の心柱が耐震性に役立っているとの説は、スカイツリーで有名になった。しかし、私はジェットエンジンの設計の経験から、耐震性はこの複雑な組手の摩擦によるものだと思っている。そのことはログハウスの断面を見ても分かるのだが、組手には微妙な隙間が無数に存在する。ぴったりと嵌っていれば、それだけ摩擦係数は大きい。すなわち、巨大な振動を吸収することができる。



 
ジェットエンジンの部品は、どれも究極の薄さに設計をする。従ってありとあらゆる振動数で共振して寿命を減らす。だから、あちこちにダンパーの設計を盛り込むのだ。このダンパーが効かなくなると、高周波や低周波の疲労破壊を起こしてしまうのだ。超高速の回転機械なのだが、引張強度よりは、サイクル強度の方が重要視される。

 一通り見ての感想は、「飛騨の匠」との比較だった。私は趣味で高山にはほぼ毎年出掛ける。最近は、すぐ北の隣町の古川で過ごすことが多い。高山には飛騨の匠の作品が山ほどある。しかし、匠の技術と大工道具を知るには、古川が良い。特に、街の中央にある「祭り広場」の中にある「飛騨の匠文化館」の内容が素晴らしい。実際に、歴代の飛騨の匠が使った大工道具が時代順に並んでいる。高そうなものもあるが、安そうなものもある、すべて実用品だ。また、組子や特殊な細工の説明も、いちいち詳しく描いてある。
 その生なましい歴史を思い出すと、今回の見学は少し物足りなさを感じてしまった。


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