浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

野田秀樹作・演出「赤鬼」を見た

2020-11-24 22:01:48 | 演劇

 私は『美術手帖』のウェブ会員となっている。今日、『美術手帖』から送られてきたニュースの中に、野田秀樹作・演出の「赤鬼」が無料配信されているという案内があった。

 早速見た。

 海沿いのある村に、余所から来た姉弟がいた。弟は「頭が弱い」という設定になっている。姉弟は余所から来たということで、村人から差別されている。村人の中に、嘘ばかりつく男がいた。その男は姉と「やりたい、やりたい」とそれだけを願望として生きている。

 そこに一匹の赤鬼が入り込む。最初に赤鬼と心を通じ合うのは姉だ。姉は徐々に赤鬼とことばを交わすようになっていく。そして赤鬼にとっての食物は花であることが分かる。

 赤鬼のことばは不明である。姉はしかしそのことばが分かるようになるのだが、赤鬼は、キング牧師の演説、I have a dream. を英語で叫ぶ(但しキング牧師の演説そのままではない)。

 I have a dream that one day this nation will rise up and live out the true meaning of its creed: "We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal."

  let freedom ring.

しかし赤鬼の言葉を理解できる姉は、その意味がわからない、ただ「あなたの夢なのね」と夢を語っていることだけを理解する。

 さて、村人は、赤鬼は人を食うのだろうと、猜疑心を強くする。村人と少しの交わりはできるが、しかし最終的には、村人は赤鬼と姉を処刑することになった。

 弟と嘘つき男が、赤鬼と姉を救い出し、海へと漕ぎ出ていく。長期の漂流の中、赤鬼は亡くなる。生き延びるために、嘘つき男と弟はその死肉を食べる。そして姉にも、フカヒレだと偽って食べさせる。

 三人は、そして、もとの海沿いの村に漂着する。

 姉は、自分自身が赤鬼の死肉を食べたことを知る。そして身を投げる。

 

 野田は、差別の問題をテーマとした。差異をことさらに強調して差別を生み出す現在の世界。日本だけではない、アメリカでもどこでも、民族、性別、よそ者・・・・・などを理由とした差別と分断が覆っている。

 赤鬼という、人間ではない、ことばも通じない存在を村に登場させ、村人たちの意識や行動を舞台にのせる。村人たちは、要するにマジョリティである。マジョリティの眼差し。その眼差しが、赤鬼と赤鬼と通じている姉をこの世から抹殺しようとする。一時は救い出されるが、最終的には、赤鬼も姉も死んでいく。海の向こうに死んでいく。

 姉の絶望。

 しかし、キング牧師の、そして赤鬼が叫んだ 

I have a dream 

all men are created equal  

let freedom ring

これらのことばがこころの中によみがえってくる。

 

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