白亜45会HP管理人

白亜(白堊)45会は、岩手県立盛岡第一高等学校昭和45年卒業の同期会です。

J-Parc放射能漏れ-その3

2013年05月30日 13時13分56秒 | 業界
前置きが長くなりました。事の本質です。

まずは、「2.実験室の排気用ファンを作動」から。
「フィルタ無しでファンを回すとは何事だ」とマスコミで語る御仁が沢山いるようですが、そもそもこの排気ファンは放射能対策ではありません。(のハズです。私は建屋設計には全くかかわってないのですが、世界の類似施設の常識。)何のためかと言うと、万一の火災の際の排煙用ファンです。それを放射線レベルが高いからといってそれを下げるためにファンを作動させる、なんていうのは言語道断です。放射線管理の責任者のMくんはマスコミに時々出てますが、人が良すぎる。おそらく周りの人に言われてゴーサインを出してしまったのでしょう。放射線管理責任者は強面の人の方が適切と感じました。

1.警報をリセットして13分後に運転再開
諸悪の根源はこれです。
磁石電源の誤動作だけなら、生成される放射能はホントに微々たるものです。当日の夕方までの「調整運転」で、放射能をどんどん生成してしまった。おそらく「おかしいな、何でこうなるかな?」と思いながら調整していたことでしょう。その場面は目に浮かぶようです。

実験室には各種の警報があります。火災警報は年に1-2回程度は誤動作します。(J-Parcの場合は知りません。)火災警報でさえ、その原因が特定できるまでは運転は再開しないのが普通です。ましてや、放射線警報であれば誤動作は稀ですし、警報の原因が特定できる前に再開するなど有り得ません。魔が差したのでしょうか・・・

再開した後であっても、「おかしいな?」と思った時点で運転を中止すべきでした。先の記事に書いた「実験チームの強い思い」が頭にあって、ついつい中止をためらったものと想像します。結果として、ますます実験を行う機会を減らしてしまったのは非常に残念である、というしかありません。


J-Parc放射能漏れ-その2

2013年05月30日 11時51分50秒 | 業界
放射線漏れはおかしかったですね。放射能漏れに訂正。

J-Parcの成り立ちについて一言。KEKと旧原研は別々の加速器計画を持っていました。そのままではどちらも予算が付かないだろう、ということで統合した計画に練り直したものです。一方、お役所の側では旧文部省と旧科学技術庁の統合が決定され、その象徴として文部省のKEKと科技庁の原研が協力するJ-Parcに予算を付けることになったというのが経緯です。

J-Parc建設に携わっていた時は、実験施設ではなく加速器制御の仕事をやっていました。KEKと原研の文化の違いを痛切に実感しました。原研文化の下ではなかなか気持ちよく仕事はできない。

制御の立場から言うと、個々の機器の状況をミリ秒単位で記録しており、事故の発端になったような誤動作が発生した場合には、いつどの機器がおかしかったのかを把握できる仕組みが組み込まれています。変な例えですが、防犯カメラがいたる所に取り付けられていて、事有る時は過去を振り返ることが可能である、ということです。ただし、制御する機器の数は膨大なので、全部を記録してあったかどうかは知りません。

放射線警報が発生した時に、その情報がうまく利用されたのかどうか・・・知りたい事のひとつです。加速器を動かすことが第一プライオリティですから、事有るときに「瞬時に」不良機器を特定する仕組みを組み込むのは後回しになってしまうのが通常です。時間をかければ特定することは簡単ですけど。

次に、東日本大震災(前記事では東北大震災と間違えて入力してますね)の影響について。

実験物理屋にとって、実験してデータを得られないことには話しになりません。復旧は予想以上に急ピッチで進んだものの、大震災のために実験ができない期間が長期に渡りました。従って、多少の問題があっても実験を続けたいという実験チームの強い要望があったと想像されます。特に、博士号を取得しようという学生さんにとっては切実です。実は、大震災直後に、そのような学生を優先的に受け入れてくれるというオファーが主にヨーロッパの研究所からあったようです。残念ながら、そのオファーを受け入れた学生さんの話は聞いていません。(私が聞いていないだけ、だと嬉しいのですが・・・)

もうひとつは、放射線の問題です。我々はかなり厳しい放射線管理のもとで実験を行ってきたわけです。原発事故の後では、例えば原発から離れている福島市でさえ市の東側地域の放射線レベルは管理区域に指定しなければいけないレベルでした。本来ならば「兜の緒を締める」べきなのですが、我々の意識の中に「今までの厳しい管理はいったい何だったんだ!」という思いが生まれていたのは確かだと思います。

また長くなるので、続きは次の機会に・・・


J-Parc放射線漏れ

2013年05月30日 09時40分25秒 | 業界
1週間過ぎても、毎日マスコミに登場しています。他人事ではありません。当事者はほぼ全員私の後輩ですし、私自身も理科大に移るまではJ-Parc建設に携わってましたから。さらに、ウチの学生のひとりがJ-Parcでの実験を7月に予定していたのですが、運転再開の目処は全く立ってません。

現場の人たちと話をする機会はまだありません。マスコミ報道だけでは理解できないことが多々あります。東北大震災の影響があることは確実で、大震災が無ければ今回の事故は発生しなかったと思います。弁解するつもりは無いのですが、その点も含めて書いておきましょう。

発端となったビーム取り出し機器の電源不良は完全に「想定内」です。機械は誤動作するものである、というのは常識です。皆さんが使用しているパソコンも実はある程度の確率で誤動作しています。誤動作を検知して修復する仕組みが組み込まれています。残念ながら、電源の誤動作については、そのようなことは不可能ですけど。

誤動作の結果、標的の金に大量のビームが当たって融けてしまった、と発表されていますが、この点は相当に懐疑的です。誤動作したらビームはどっかに行ってしまいます。ピンポイントで標的に当たるというのは信じがたい。どこにビームが当たったにせよ、これだけであれば生成される放射能は非常に微量です。

問題だったのは、その後の処置です。
1.警報をリセットして13分後に運転再開
2.実験室の排気用ファンを作動
この2つは「信じられない!」
私が当事者であれば、絶対に認めることはなかったでしょう。新聞のタイトルに「甘い安全意識」ってのがあったけど、全くその通りです。

長くなりそうなので、続きは別投稿にて行います。