一平のペンとギター

僕らしい小説を書き、僕らしい歌をうたう、ぞ♪、ペンとギターの一平です。ギター弾き語りと小説書きの二刀流。

一年を振り返って-「人」:(4)準備万端と思いきや!

2007-02-05 11:53:49 | Weblog

      ○サイフ、さいふ、財布。

        

 喫茶店に入って、一時間余りが過ぎていた。。僕の、教会礼拝堂での、弾き語りのイメージが固まり、なんとか、選曲もできた。三流ギター弾き歌い歌手が、超一流ホルン奏者と、共演! さて、どうなるか。やってみよう、と腹を決める。

 僕は、トイレで大の用を足し、勘定を払って、喫茶店を出た。昨夜の深酒のせいか、下痢気味だ。自転車をとばして、ホテルへ向かう。もう、僕は、すっかり、礼拝堂の講壇で、弾き語っている自分を、頭の中で描いて、風を切っていた。

 ホテルのロビーはひっそりしていた。カウンターにも、人はいない。すいませーん、と叫ぶ。カウンターの奥の部屋から、顔を出したのは、八木さんだった。あら、お帰りなさい、と言って彼がカウンターに出てきた。

 教会はどうでしたか、と聞かれて、おかげさまで、日ごろの不摂生を懺悔できました。小さいけれど、なかなかいい教会でした。で、その教会で、今日、2時から、ホルンコンサートがあるんだそうです。そのコンサートで、僕が、飛び入りで、ギターの弾き語り、をすることになったんです。八木さんは、目をパチクリさせて、あらっ!それは、すごいですねー。これから、ギターと荷物を持って、行くんです、と言った僕に、じゃー、ギターだけお持ちになったら。荷物は、お預かりしときます。自転車も、お使いください、と。ありがたや。ありがたや。

 という訳で、僕は、ギターだけ持って、教会へ行くことにした。また、腹がゴロゴロ,鳴っている。ホテルのトイレで、今度は、大小の用をたした。やはり、下痢気味。八木さんにお礼を言って、ギターケースを左手に持ち、右手はハンドルを握って、教会へ自転車を走らす。がんばってくださーい! の八木さんの声を背中で聞いて。

 礼拝堂は、今朝方、礼拝をした時に、椅子の前にあった横に長い机がすべてたたまれて、会堂の脇に、丁寧に並べられ、会堂いっぱいに椅子だけが並べられていた。真ん中が通路。その両側に椅子が5脚づつ、横に並べられ、それが、6列、になっている。30席+30席、で60席ぐらいある。講壇には、右端のあたりに、直立のスタンドマイクと、「く」の字に曲がったスタンドマイクが置いてある。ほぼ中央に、箱のようなものが置いてあり、その上で、大きなカタツムリのようなホルンが鎮座していた。ステンドガラス越しに礼拝堂に差し込んで来る虹色の光に、鈍く輝いている。その横に、宮田さんが椅子に腰掛けて、天井を仰いでいた。

 宮田さんは、僕を、見つけると、今朝、始めて知り合った、のに、まるで、昔からの知人に向かって話すように、あー、山中さん、そのドアを開けると部屋になってます、そこで、準備してください。準備できたら、席に坐っていてください。私が演奏して、35分ぐらいで、10分休憩を取り、それから、山中さんの弾き語り、です。と言った。

 部屋に入って、僕は、ギターケースを開け、ギターと、ハーモニカと、音叉とカポと、譜面を取り出した。まず、音叉を指でつまんで、机の角を軽く一度叩く。キーン、と鳴る。ラ、の音。ギターを抱えて、第5弦を弾く。音叉のキーン、の音と、ギターの第5弦のポローンのンの音が、重なり、ひとつの音になるまで調律する。ひとつになったら、その音を基にして、他の5本の弦の調律をする。次に、ハーモニカを、首にかけ、吹く。ハーモニカを口にくわえ、「北の国から」のメロデイーを吹きながら、同時に、ギターの弦を右手の指でポロンポロン弾く。メロデイーとポロンポロンの音がお互いに合っていれば、OK。次は、喫茶店で選曲した曲、の譜面を、50余りの譜面の中から選び出す。そして、歌う順番に重ねてゆく。 ギター、ハーモニカ、譜面。 これで、準備OK。休憩になったら、部屋に入り、ギターを肩に掛け、ハーモニカを首からぶら下げ、譜面を持って、宮田さんの、御呼びを、ここで待つ。

 僕は、部屋を出て、一番後ろの末席の椅子の上に、プログラムと、僕が今日歌う曲順を書いたメモ用紙、を置いて、教会の外に出た。北上聖書バプテスト教会の看板、の下に立った。秋晴れの青空に、看板の上の、白い十字架が、くっきり浮かんでいた。

 両手を、思いっきり天に向けて伸ばし、同時に、足の踵(かかと)を思いっきり上げる。前身を、天に向かって伸ばす。12、数える。首を回す。4,5回。屈伸、腕回し、脚の筋を伸ばす。両指を折り曲げ、伸ばす動作を12回。最後はラジオ体操第一。そして深呼吸。複式呼吸、5,6回。

 歌うことは、口や喉、だけで歌うのではない。全身で歌うのだ。だから、体をほぐし、全身が、歌えるように、体を整える。

 ギターを弾くのも、指先だけで弾くのではない。全身で弾くのだ。足の、手の指の先先に、気を注ぐのはもちろん。腕、肘、肩、腰、脚、足も使う。 

 深呼吸を5回する。心が、スーッと落ち着く。目をつぶって、自分が、舞台で、弾き歌っている姿を、想像する。そして、祈る。これからの120分を、お守りください、と。 あとは、思いっきり、楽しもう。聞いてくださる方と。

 1:53pm。

 僕は、礼拝堂に戻る。小便がしたくなった。あっ、来た来た、いつものやつが・・。いつも、人様の前で弾き歌う前30分ぐらいになると、急に、小便を何度も、催す。犬みたいに。急いで、トイレに行く。礼拝堂を出て、教会の玄関入り口、左側に、トイレがあった。トイレに入り、小をする。さーて、いよいよ・・・。最後の一滴をきって、ふーと息をつく。

 と、その時、だった。

 僕の右手が、僕のGパンの尻のあたりについている右ポケットに触れ、ポケットに指を突っ込んでいた。癖、だ。僕は、トイレに入ると、大をするとき、Gパンの後ろの右ポケットから、財布を取り出し、据付のトイレットペーパーの蓋の上に置いて、それから、Gぱんを降ろし、用を足す。だから、用を足して、財布をまた、尻の右ポケットに収めて、トイレを出る。小をしても、つい、尻の右ポケット、へ手が行く癖がついている。

 しかし、、、、。指の感覚が、、いつもと違う。ぺったんこ、なのだ。ふっくらした凸の感触がない。あれっ。えー?

 指を、ポケットの奥深くへ突っ込む。スーッと、入る。ポケットが空だ。?????!あれっ、?ない!財布がない! えーー、財布が・・・。

 とっさに、わかった。トイレ、だ。トイレに置き忘れたんだ!

 頭の中が、真っ白になった。

 電話だ。まず。喫茶店、か、ホテル、か、どっちかだ。カード、保険証、も入っている。しまった! 

 左ポケットから、ケイタイを取り出す。喫茶店もホテルも電話番号がわからいことに気ずく。

 時計を見ると、1:58pm。開演2分前。

 カードを止めないと・・・。保険証、悪用される・・。横浜へ帰れない・・。一気に、そういう声が聞こえる。わーーー! 冷や汗、が出てくる。

 サイフ、サイフ、財布。

 喫茶店とホテルに、直接、行くしかない。とにかく、すぐ行こう。出番までに、戻ろう、、。30分はある。

 僕は、トイレを出て、そのまま、礼拝堂には行かずに、玄関口から、そおっと、外に出た。そして、自転車にまたがり、サイフ、さいふ、財布、と呟きながらペダルを必死で漕いだ。頭の中は、トイレのペーパーのリールの蓋の上、に置かれた財布、が浮かんでいる。喫茶店を出てから、40分、ホテルを出てから30分ぐらいだ。その間に、誰かが、トイレに入ったら、まず、財布は、ないだろう。極度に緊張して、舞いあがった時、同じ失敗を、今まで、2度した。石川町駅で小銭容れ、と、横浜駅で財布、を、やはり、トイレで。すぐ、届け出た。が、石川町駅での小銭容れ、は横浜駅改札で、尻のポケットに突っ込んだ切符を取ろうとして、小銭入れがないことにきずき、また、石川町まで戻って、トイレに駆け込んだ、が、なかった。駅の窓口にも届いてなかった。が横浜駅では、路上ライブをした後で、ギターケースを持っていた。だいぶ興奮して、舞い上がっていた。トイレを出て、ヤマハ楽器へ行った。弦を買った。が支払いのとき、財布がないことに気ずいた。トイレに走った。なかった。幸い、一週間後に警察から電話があって、現金は、抜き取られていた、が他は全部あった。 あの、財布だ。

 あってくれ! あってくれー、あってくれー、とペダルをこぐ度に叫ぶ。サイフ、さいふ、財布。 

 トイレットペーパーの蓋の上に、ちょこんと財布、が乗っかっているシーンが頭の中をよぎる。次に、トイレットペーパーの蓋の上には、何もない、シーンが浮かぶ。二つのシーンが交互に、脳裏に現れては消える。足はペダルをこぐ。太ももが、張ってきた。信号を、5つ、6つ越えて、やっと駅が見えた。

 あってくれー,たのむよ! 

                    ・・・つづく。

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