一平のペンとギター

僕らしい小説を書き、僕らしい歌をうたう、ぞ♪、ペンとギターの一平です。ギター弾き語りと小説書きの二刀流。

一年を振り返って-「人」:(5)頭の中が真っ白!

2007-02-05 12:00:23 | Weblog

        ○あってくれー。たのむ!

         

 あってくれー、たのむ!

僕は、そう叫びながら、駅前の、喫茶店前に自転車を止め、店に飛び込んだ。財布を、トイレに置き忘れたかもしれないこと、を話した。トイレに、行って見た。が、トイレットペーパーのリールの蓋の上には、財布はなかった。店の中年のマスターも、あれから、トイレに行っていない、という。男のお客が1人、あれから来て、コーヒーを飲んで20分ほどいて、帰った、と。彼がトイレに行ったかどうか、覚えていない、と。

 もし、この喫茶店,なら、その男が、僕の財布を持っていったことになる!だ、としたら、すぐ、届けねば・・・。銀行への連絡・・、保険証、はどうする?・・・。いや、ホテルかも知れない・・。

 喫茶店のマスターに、届いたら、知らせてくださいと、名刺、を渡して、僕は、また、自転車にまたがり、ホテルへ走る。

 ホテルのトイレは、ちょっと小便臭い、狭い喫茶店のそれと違って、こぎれいで、広く、化粧室みたいだった、ことを思い出した。トイレットーペーパーのリールの蓋の上、か、いや、右側に、たしか、小さな棚があった、そこに、一輪の造花が挿してあった花瓶があった・・。そこまで、は記憶が蘇ったが、後は、弾き語りを、直前に控えて興奮し舞い上がっている自分の姿しか浮かばない。ホテルへの道は、一度走っていたから、迷いなく、突っ走れた。

 相変わらず、ホテルのロビーは静まり返って、カウンターに、人がいない。僕は、ドアを押すなり、すみませーん、大声で叫んだ。奥から、制服姿の若い女の、見たことのある従業員が、顔を出した。すみませーん、あのー、ここに宿泊してたもので、ギターと荷物を、、とそこまで僕が言うと、その女の子は、ハーイハーイ、と言って、うなずき、また、奥へ入って行ってしまった。あれっ、大事な用件を言う前に、行ってしまった。それから、2,3秒して、その女の子と、八木さんが、出てきた。

 「山中さーん、今、教会に、お電話しよう、と思ってた、とこでした。お財布、トイレに置き忘れたでしょ。ホテルの従業員が、届けてくれました。ほんの、ちょっと前に。」

 「えーーー!よかったー! あってくれたあ・・・! 」

 一瞬、本当だろうか。夢じゃないよな。と、思う。目の前で、八木さんの眼が、パチクリ、ニコニコ、嬉しそうに、僕を見た。そして、

 「はい、これ。」

 と、、あの財布が八木さんの手に握られていた。自転車を漕ぎながら、何度も、頭に浮かべた、あの財布、が。

 「中を見させて頂きました。中身、確認してください」

 この街に、もう、何ヶ月も滞在していたような気がした。何日も何日も、財布を捜して、あちこち走り回っていたような気がした。そして、さあ、これで帰れる、新幹線に乗って、帰ろう、と思った。

 「山中さん、もう、2時20分、ですよ。教会に行かないと・・・。」

 「あっ、そうだった。いや、財布だけが頭の中でグルグル廻って、そうだ、飛び入り弾き語り、のこと、すっかり、飛んじゃってました。2時20分ですか。後、20分で、僕の出番だでした。ありがとうございました。」

 「お荷物、お預かりしときます。急がないと。」

 僕は、また、自転車にまたがって、教会へ走った。ホテルの玄関で、、がんばってくださーい、と手を振っていた八木さんと、女の子を、振り返り振り返り・・。

 

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