彼は妻を愛していたと言っていた。
だけど、日々100%と言うわけではなかったらしい。
つまり、憎んだり、疎ましく思ったり、嫌だと感じたり、いなくなったらどんなに楽だろうと願ったり、と言うことだったと思う。
実際彼の口からそれを聞いたわけではないが。
そう、愛するといってもずっと愛し続けてはいられないと思うのだ。
嫌なところを見たら嫌だなあと思うし、相手を見下したり。そんな一瞬があると思う。
そして彼は私の事も愛していたと思うのだが、恐らく私に対してもそのような感情はあったはずだ。
なぜなら、私は彼に対してそう感じていたからだ。時々愛したり、時々ひどく憎んだり、見下したり、侮辱したり軽蔑したりこきおろしたり。
ただ、そのような感情を持っていても態度や口に出さなければ分らないのかも知れない。
その感情を巧みに隠し、相手にずっと愛されていると思わせる技術が彼にはあった。
それで彼と知り合う女性はほぼ彼に愛されていると思い込み彼を独占したがった。
それは彼の大きな罪だと思う。
彼が死んだと聞いてどれだけの女性が涙を流しただろう。
実際のところ、彼はどの女性を愛していたのか、それは永遠の謎である。