春香は亭主の運転する車で買い物に行く途中だった。
不意に亭主が『…体調が悪かったことがあった…』というのを聞いて、そんな事もあったな、と思ったのだった。
確かに吐き気や倦怠感に悩まされていた時期があった。
春香は『それはどのくらいの時期だったっけ?』と聞いた。
亭主は『2017年の手術のあとちょっとしてからだから2018年くらいかな』と答えた。
ああ、そうだ、それはまさに春香と元彼の次郎と不倫関係にあった時期だった。
亭主の体調不良は次郎が亭主の死を望んだのだろう、と春香は考えた。次郎は亭主を呪ったに違いない。彼はそれだけ春香を愛していたのだ。
しかし、亭主の体調は2年前から回復してきたという。
そう、次郎と逢わなくなったのは2年前。
いっそ呪い続けて殺してしまえば良いのに。そうではないか?
…いや、次郎が亭主を呪ったのではない。
もしかしたら、亭主を呪ったのは、春香かも知れない。
春香の身体に染みついた次郎との逢瀬から醸し出される邪気が亭主の身体にまとわりつき病気にさせたのではないか。
亭主は春香になんか変だなという違和感を抱いたものの、なんの証拠もなく、それでも得体の知れない違和感を抱え続け病気になった。
そして春香からその違和感が消えて亭主の病は治った。
配偶者の邪気が相手の病を引き起こす、まさにそれが起ったのかも知れない。