国家戦略特区を手続きとした加計学園の獣医学部新設決定過程で安倍晋三の便宜供与、あるいは政治的関与があったのではないかと疑われている問題で野党はその解明の鍵を握る文科省前事務次官の前川喜平の国会への参考人招致を求めていたが、先月末頃から、偽証した場合は罪に問うことのできる証人喚問に格上げして求めるようになった。
昨日2017年6月4日のNHK「日曜討論」でも最後のコーナーで加計学園疑惑が与野党間で議論され、野党は前事務次官と関係者の一人とされる内閣総理大臣補佐官の和泉洋人(ひろと)の証人喚問を求めていた。
与党自公は参考人招致のときも拒否し、証人喚問も拒否している。いわば逃げる与党、追う野党の構図を描いていて、その構図は昨日の「日曜討論」でも如実に現れていた。
獣医学部新設決定は「総理のご意向」だとする文科省作成の文書の存在が表に出て、当時の文科省事務次官、現前事務次官の前川喜平が5月25日の記者会見で文書の存在は事実だと言い、「安倍晋三によって行政が歪められた」と証言した。
但し与党と与党に同調する日本維新の会などは「行政が歪められた」と言うなら、前事務次官はなぜ在職中にそのことの異議申し立てをしなかったのかと批判、異議申し立てをしなかったことを以って前事務次官の証言の信用無さを狙う戦術に出た。
では、議論の中から逃げる与党、追う野党の構図を描き出している個所を取り上げてみる。
浅田均日本維新の会政調会長「事務次官の時代になぜ言わなかったのか。言う機会は散々あったのになぜ言わなかったのか。ボクはそれを問題にしたいですね」
大串博志民進党政調会長「なぜ役人の時代に言わなかったのかと言うことも含めて証人喚問でしっかりと語って貰えばいいと思います。証人喚問で偽証すれば、罪になりますから、そのリスクを犯してでも出てくると本人(前川前事務次官)は言っております。
本人を読んでやるべきだし、一方で相手方たる和泉総理補佐官、えー、『総理の口から言えないから、私が言うんだ』というふうに言われたと言われています。どっちが正しいことを言っているのか、ま、これは証人喚問を通じて両方に真実を語って貰えば、その場で解決できると思います」
大串博志が、和泉総理補佐官が「総理の口から言えないから、私が言うんだ」と言っていることは前事務次官が在職中に和泉洋人と面会した際、「総理は自分の口から言えないから、自分が代わって言う」などと新設の決定を急ぐように言われたことを朝日新聞の取材に対して前事務次官が証言したことを指す。
上田勇公明党副幹事長「これはまあ、文部科学省としては(獣医学部新設に)反対であったと言っているんですけれども、内閣が決めたことです。閣議で決めたことです。
当然それには事務次官も了解していることでありますから、今もう既に色んな報道のとこで色んなことを仰っているので、敢えて国会に来て、証人としてお話を伺う内容はないんじゃないかなという気が致します。
えー、いわゆる報道とかでですね、なぜ文科省は反対してきたのかといったことは規制改革で反対なんだという理由をね、話をされているんであれば、それは行政の判断としてお受けすることはあるかもしれませんが、手続き上の瑕疵について一方的なお話はね、これ以上、国会で聞いても、何か新しい材料というのは出てこないと思います」
公明党の上田勇はメチャクチャなことを押し通そうとしている。獣医学部新設決定は「内閣が決めた、閣議で決めた、事務次官も了解していることだ」と言っているが、決定過程、了解過程に一般的なルールに則らない安倍晋三という上からの無理強いな力が働いたのではないかという疑惑が持ち上がっていて、その真偽いずれかが焦点となっているのに対して全てを無視して表面的な推移だけを取り上げて、問題はないとしている。
しかも、前川前事務次官は「既に報道機関に対して色んなことを発言している、国会に来て、証人として話をする内容はもうないのではないのか、新しい材料はないじゃないか」と証人喚問の不必要性を言い立てているが、前川前事務次官だけであったなら、上田勇が言う通りの可能性は否定できないかもしれないが、安倍晋三に代わって直接的な圧力をかけたとされる和泉総理補佐官も呼べば、二人の証言が衝突する場面によっては真偽を判断する新しい材料が出てこない保証はないし、新しい材料が出てこなくても、証言次第で真偽いずれかの心証を与えない保証はない。
要するに合理的な理由とはならない理由で証人喚問は必要ないと言っているのだから、証人喚問を逃げているとしか言いようがない。
上田勇のこの発言にこそ、証人喚問から逃げる与党、証人喚問を追う野党の構図が象徴的に現れている。
当然、与党ぐるみで理由にはならない理由で証人喚問を逃げているのだから、決定過程に後ろ暗いところが存在するからだとしか理由付けはできないことになる。
獣医学部新設が何ら後ろ暗いところのない、極く通常のルールに則った決定であったなら、証人喚問から逃げる与党といった姿勢を見せる理由は生じない。
自民党政調会長代理の小野寺五典もこのコーナーの最初の方で無茶苦茶な論理で獣医学部新設の決定過程を正当化している。
小野寺五典「この問題の本質をよく見ていくと、獣医学部を四国につくることが政治的に歪められたかどうかということだと思うんですが、私が不思議なのは、実は獣医師さん、ペットのお医者さんと思われる方は、そういう方は多いんですが、私の方の宮城の農村地域ですと、実は牛、豚のこれは飼育もそうですし、屠畜をして肉とする場合もそうですし、病原菌、病気に対する対策もそうですし、皆んな獣医さんなんです。
ですから、公務員の獣医師さんが欲しいんですが、例えば宮城では20人募集しても、10人しか応募がない。岩手では18人募集しも、3人しか応募がない。足りないんです。
ですから、獣医学部を早くつくって欲しいと思ったんですが、ずっと文科省は50年以上、(獣医学部新設を)止めていました。全国で獣医師の場所を見ると、北海道は3校あります。東北は2校、九州も2校あります。関東圏6校あります。
ざっと偏在を見ると、実は四国にないんです。ですから、四国4県の知事はつくって欲しいと言っているわけですし、獣医師さんが足りないんで、色んな県では実は、奨学金を出して獣医師さんが是非来てくれとやってるわけです。
こういうことを見ると、実は獣医師を四国に作るということは別に不思議ではないんだと思います。問題は加計学園と総理が仲がいいということで、これが表に出るだけで、実はこの結論は不自然ではないと考えれば、私は(野党が)何か政治的にうまくおかしくしているような感じがしています」
ペット関係の獣医師は足りているが、牛や豚に関わる獣医師が不足し、なおかつ獣医師の地域的偏在という問題が存在しているから、四国に加計学園の獣医学部を新設しても別におかしい話ではないとの論理展開で、安倍晋三の政治的関与疑惑を否定している。
だが、小野寺五典は獣医師の地域的偏在に関して矛盾したことを言っていることに気づいていない。獣医師養成大学が北海道3校、東北2校、九州2校、関東圏6校あるのに対して「宮城では20人募集しても、10人しか応募がない。岩手では18人募集しも、3人しか応募がない」と言っていることは学校数と地域偏在との因果関係はないことの証明でしかないからだ。
一般の医師の地域偏在は都市部に集中することによって生じているが、獣医師の偏在は地域偏在という意味合いよりも、分野別偏在の性格が強いように思える。このことの証明のために農林水産省のサイトから、「分野別獣医師数」の画像を載せておいたが、小動物診療(ペット関係)に最も集中して15000人の人気分野となっていて、次に身分保障にしても各種手当がしっかりしている公務員が約9500人の人気分野、小規模経営が多い養豚や養牛関係の診療、種付け、出産を扱う極くごく地味な現場労働である産業動物診療が4300人程度と最も不人気分野となっていることが偏在を生んでいることのより大きな理由であるはずだ。
獣医師養成大学が北海道3校、東北2校ありながら、岩手や宮城で公務員の獣医師が欲しいからと募集しても応募者が定員不足という現象は四国に獣医学部を新設してもペット関係にのみ就職が集中して、それも都市部、あるいは東京圏への就職が集中して、公務員の獣医師ばかりか、最も必要としている産業動物関係の就職は少数にとどまり、応募数に対して定員不足が生じる同じ現象が起きる可能性は否定できないことになる。
と言うことは、獣医師の地域偏在、分野別偏在の是正と獣医学養成大学の設置とは別の政治的に解決しなければならない問題だということになる。
にも関わらず、小野寺樹はそういった視点もなく、因果関係のない学校数と地域偏在を持ち出して四国での加計学園の獣医学部新設を正当化する根拠とし、しかも、「加計学園と総理が仲がいいということ」が「表に出るだけ」のこととし、それを野党が「何か政治的にうまくおかしくしている」と、野党が指摘している疑惑が存在しないことの根拠としている。
この根拠とならないことを根拠とする論理の組立ては詭弁以外の何ものでもない。共産党の笠井亮が小野寺五典の詭弁を一言で切り捨てている。
笠井亮「新設が必要かどうかじゃなくて、一番問題となっているのは(獣医学部新設の)決定過程が公平・公正かっていう問題だと思います」
上田勇にしても小野寺五典にしても合理的な理由とはならない理由で、あるいは根拠とならないことを根拠にして加計学園獣医学部新設決定を正当化し、正当化によって証人喚問の不必要性の理屈としている。
裏を返すと、いわば合理的な理由で、あるいは根拠となり得る事実で以って決定過程の正当性と証人喚問の不必要性を訴えることができないということは決定過程に後ろ暗いところがあるからだろう。
そのことが証人喚問から逃げる与党、証人喚問を追う野党の構図となって現れている。