安倍晋三はダッカ飲食店テロ事件で「人命第一に」と指示、「人命第一」に二重基準があってはならない

2016-07-03 10:14:10 | 政治

 また悲惨なテロ事件が発生した。イスラム教のラマダン期間の最後の日となる現地時間7月1日夜(日本時間2日未明)金曜日、バングラデシュの首都ダッカの飲食店をイスラム過激派武装勢力が襲撃、客を人質にとって立てこもり、襲撃から約10時間後の午前8時前に治安部隊約100人が店内に突入、人質のうち13人は救助されたが、20人が死亡したという。

 犠牲者の中に日本人が含まれていなかったなら単なるテロ事件の一つとして報道されるのみで、さして関心を集めずに遣り過ごされていたのではないだろうか。

 それ程にも世界の各地で市民の中から少なくない、あるいは多くの犠牲者を出すテロ事件が発生している。武装した3人の男がトルコ・イスタンブールのアタテュルク国際空港で41人の犠牲者と200人以上の負傷者を出した自爆テロ事件はたった3日前の今年6月28日に発生したばかりである。

 トルコのテロ事件では幸いなことに犠牲者の中に日本人は含まれていなかった。

 但しこの「幸いなことに」という感想は他の外国の犠牲者に対しては失礼な感想になるが、同じ日本人の立場にあることと国内的にのみ許される思いであろう。

 事件後にトルコで、「幸いなことに日本人の中から犠牲者は出なかった」と言ったら、「日本人以外なら、犠牲者が出ても構わないことなのか」と反発と顰蹙を買うに違いない。

 もし日本人が犠牲者の中に含まれると、当然なことだが、日本国内では繰返し取り上げられることになって情報量と情報の反復回数が違ってくる。

 今回のバングラデシュのテロ事件では一人が救出されたのみで日本人犠牲者を7人も出した。

 次の「産経ニュース」(2016.7.3 01:27)が事件の経緯を詳しく伝えている。
  
 1.2016年7月1日午後9時半(日本時間2日午前0時半)頃武装集団が飲食店を襲撃、客を人質に立てこもる。
 2.約10時間後の2016年7月2日朝、治安部隊100人が現場に突入、日本人男性1人を含む13人を救出。
 3.その後、同国軍関係者が実行犯6人を射殺、1人を拘束、人質20人が死亡したと発表。
 4.7月2日夜、官房長官の菅義偉が記者会見で日本人男性5人と女性2人の死亡を確認したと発表。

 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)系メディアが犯行声明を出したが、真偽は不明としている。

 記事は激しい銃撃戦となったということ、安倍晋三が6月2日、バングラデシュのハシナ首相と電話会談し、「非道な行為は、いかなる理由でも許されず、断固として非難する」と述べ、同国への連帯を表明したことなどを伝えている。

 人質のうち20人死亡、救出13人となっている。合計33人が人質となったことになる。

 日本人以外の犠牲はイタリア人9人の犠牲、バングラデシュ人、韓国人、インド人等となっている。 

 事件を伝え聞いた安倍晋三は6月2日午前9時過ぎに首相官邸に入っている。例の如く記者が取り囲む。

 安倍晋三「バングラデシュのダッカで発生したレストランにおける武装グループの襲撃・人質事件に日本人が巻き込まれている可能性があり、私から、情報収集と事実関係の確認、バングラデシュをはじめ、関係各国と緊密に連携して人命第一に対応するよう指示した」(NHK NEWS WEB

 「人命第一」を指示した。

 だが、日本は交渉当事国ではない。今回はバングラデシュ政府が交渉当事国であり、治安部隊、もしくは警察の対テロ集団対応と共にテロ集団の人質に対する扱いが人質の生殺与奪の権を握ることになるから、皮肉な言い方をすると、安倍晋三は「人命第一」を言っていればいい。

 もし日本人の犠牲者が出たなら、「人命第一の対応を指示したが、願いが叶わなかった」と言えば、済む。

 2013年1月16日にアルジェリアの天然ガス精製プラントをイスラム過激派集団が襲撃、多数の外国人従業員と共に日本人11人を人質に取り、そのうち10人が犠牲となったテロ事件でも、交渉当事国はアルジェリア政府であり、安倍晋三はアルジェリア首相と2度電話会談し、人命最優先(=人命第一)を申し入れている。

 だが、5日後の1月21日、アルジェリア軍の特殊部隊がテロ集団制圧の軍事作戦を決行、軍のヘリコプターまで使って突入、8カ国合わせて37人が死亡、そのうち日本人が4分の1近い10人が犠牲となった。

 交渉当時国でなければ、手も足も出ない焦りはあっても(安倍晋三に焦りがあったとは思えないが)、自国民から何人の犠牲者を出そうと、非交渉当事国の国家権力者としては突入の結果そのものについては一切の責任を免れることができる。

 このことは今回のバングラデシュのテロ事件についても同じことを言うことができる。そして現実にもそうなった。

 それ以外の責任を指摘するなら、外務省が自身の「海外安全ホームページ」で2016年5月30日の日付で、《イスラム過激派組織によるラマダン期間中のテロを呼びかける声明の発出に伴う注意喚起》と題して在外邦人に警戒を要請している点に手抜かりはなかったか検証しなければならない。  

 文飾は当方。

 次のように警戒を要請している。〈5月21日,イスラム過激派組織ISILは,ラマダン期間中のテロを広く呼びかける声明をインターネット上に公開しました。同声明では,特に欧米諸国におけるテロの実行を呼びかけており,民間人を対象としたいわゆる一匹狼(ローンウルフ)型のテロの発生も懸念されます。本年については,6月6日頃から7月5日頃までが,ラマダン月(イスラム教徒が同月に当たる約1か月の間,日の出から日没まで断食する)に当たります。また,ラマダン終了後には,イードと呼ばれるラマダン明けの祭りが行われます。〉

 そして、〈ISILは,昨2015年のラマダン月(6月18日頃~7月17日頃)においても,同様の声明を発出しています。〉と2年続きであることを伝えると同時にその声明が決して“狼と少年”ではないことの証明に2015年のラマダン期間中のテロ事件を列挙している。

 ・フランス:東部リヨンにおけるテロ事件(6月26日)
 ・クウェート:シーア派モスクにおける自爆テロ事件(6月26日)
 ・エジプト:カイロ郊外における検事総長殺害テロ事件(6月29日)
 ・マリ:北部における国連車列襲撃テロ事件(7月2日)
 ・ナイジェリア:北部及び中部での連続爆弾テロ事件(7月5日~7日)
 ・エジプト:カイロ市内のイタリア総領事館前での爆弾テロ事件(7月11日)

 以上のテロ事件を見ると、〈特に欧米諸国におけるテロの実行を呼びかけており〉と注意喚起している欧米諸国はフランスのみである。 

 外務省がもし欧米諸国のみへの注意喚起に重点を置いていて、バングラデシュのような中進国を問題外とし、ダッカの日本大使館に在留邦人に対してラマダン期間中の外出の注意や、あるいはバングラデシュ政府に直接ラマダン期間中の人が集まる場所のいつも以上の警戒を呼びかけていなかったとしたら、注意喚起に手抜かりがあったことになって、その責任は検証されなければならない。

 今回のバングラデシュ首都ダッカのテロ事件に於ける日本人の7人の犠牲は、日本政府高官が「バングラデシュ政府の説明では、7人は治安部隊の突入前に殺害されており、突入時の被害ではない」と明かしたと「時事ドットコム」が伝えている。

 これが事実としたら、突入を強行した治安部隊にも責任はなく、殺害の一切の責任はテロ集団にあることになる。

 別の「時事ドットコム」が店の従業員が英紙ガーディアンに語った話として、「実行犯は2階に上がり、そこから乱射した」こと、パニックで逃げ切れなかった客ら30人以上が残され、人質となったことを伝えている。  

 そして人質の扱いとして、〈地元紙デーリー・スターによると、娘の誕生日を祝うため家族で店を訪れ、事件に遭遇した男性は「実行犯はバングラデシュ人には丁重だった。(イスラム教聖典)コーランの一節を暗唱できるか1人ずつ尋ね、できた人質は難を逃れた」と証言した。〉と解説している。

 と言うことは、日本人7人は暗唱できなかったために治安部隊が突入する前にその場で殺害されたことになる。

 では、負傷で救出された日本人1人はコーランの一節を暗唱できたのだろうか。それとも暗唱できずに襲撃されたが、一命を取り留めることができたということなのだろうか。
 
 疑問が残るが、国家権力が自らを正当化するために事実をデッチ上げるということもある。突入の指示の間違いないことの証明のために突入前にテロ集団に殺害されていたとすれば、全て都合よくいく。

 今回のテロ事件は交渉当事国は日本政府ではなく、バングラデシュ政府にあったが、例え交渉当事国が日本政府であろうとなかろうと、邦人人質事件で「人命第一」に二重基準があってはならないはずだ。

 2015年6月にシリアで行方不明となり、その後国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線に拘束されていることが判明し、日本政府に身代金を要求しているとされているフリージャーナリスト安田純平さんに関しては交渉当事国は日本政府である。

 今年に入って3月16日に安田さんの映像がインターネットに公開され、拘束している過激派の名前は出さなかったが、囚われの身であることを英語で伝えている。

 翌6月17日午前の記者会見で菅義偉は「身代金の要求は承知していない。接触については事柄の性質上控えたい」と発言している。

 だが、6月17日付の「共同47NEWS」記事が映像をネット上に公開したシリア人男性は、〈イスラム過激派「ヌスラ戦線」が、身代金を求めて日本政府に交渉を要求し、約4カ月前から接触を繰り返していたと語った。共同通信の電話取材に対して述べた。犯人側が映像公開に踏み切ったのは、日本側が安田さんの「生存証明」を求めたためだという。〉と伝えている。    

 だが、1年が経つというのに、日本政府と「ヌスラ戦線」との間でどう交渉が行われているのか、交渉がどの程度進展しているのか、あるいは交渉が行われているのかどうかも一切見えてこない。

 一方で同じ「ヌスラ戦線」に拘束されたスペイン人ジャーナリストが2016年5月に約10カ月ぶりに解放された。「スペイン政府が身代金約370万ドル(約4億円)を支払ったとの報道がある」との「毎日新聞のインタビュー」に対して「知らない」と答えたという。  

 もし身代金を支払わずに解放されたなら、安田純平さんも解放されていいはずである。

 もし身代金を支払わずに解放されたなら、なぜスペイン人ジャーナリストは10カ月もの間拘束を受けていたのだろうか。安田純平さんを1年も拘束している意味も失う。ネット上に安田さんの映像を公開したことも意味を失う。

 どう考えても、安倍政権はテロ集団と身代金交渉をしない姿勢でいるとしか見えない。

 だとしたら、邦人人質事件で「人命第一」に二重基準を設けていることになる。

 安田純平さんはトルコからシリアに入ったそうだが、外務省が渡航手続きを受けるとき、その人名と職業から把握していた経歴に関わる情報に基づいて、例え過激派集団に拘束されたとしても政府は身代金交渉に応じませんと伝え、その確認として念書でも取っていたのだろうか。

 念書を書かなければ、渡航を許可しないと。そしてこの念書にはこのことを口外しない約束も書かせていたとでもいうことなのだろうか。

 と言うことなら、安田さん拘束から1年も経過するのに政府と「ヌスラ戦線」との間の交渉が一切見えてこないことも納得がいく。

 だとしたら、邦人人質事件が起こるたびに安倍晋三は「人命第一」と言い、「人命最優先」を言うが、そこに二重基準のゴマカシを隠していることになる。


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