安倍晋三のダッカ邦人等人質殺害テロ未検証のままの事後対策・万全な遺族支援はテロを不可抗力とするもの

2016-07-18 09:46:53 | Weblog

 7月14日夜、現在のところ80人死亡とされているフランス・ニースのフランス革命記念祝日の雑踏に大型トラックが突っ込んで意図的に大量殺人を狙ったテロ事件発生時の翌日、安倍晋三はアジア・ヨーロッパ首脳会議(ASEM)出席のためにモンゴルを訪れていた。

 その席上、次のように発言している。

 安倍晋三「フランスのニースにおける残虐な攻撃により亡くなられた方々に哀悼の誠をささげ、負傷された方々に心からお見舞いを申し上げる。日本はフランス国民と共にある。この事件が、テロによるものだとすれば決して許されない」(7月15日付NHK NEWS WEB記事)

 「テロは決して許されない」、あるいは「テロは決して許さない」

 テロが発生するたびに発信するお決まりの言葉となっている。

 勿論、日常普段からテロ対策に万全を期しているだろう。

 このテロ対策には海外在住の日本人がテロに巻き込まれないための対策も含んでいるはずである。

 だが、テロが起きてから、あるいは海外でのテロに在住日本人が巻き込まれ、犠牲になってから、「テロは決して許されない」、あるいは「テロは決して許さない」と決まり文句となっている懲罰意志を繰返す。

 但し決まり文句として繰返すこの「許されない」、「許さない」は起きてしまったテロに対するよりも今後起こすかもしれないテロによりウエイトを置いた懲罰意志でなければならない。

 なぜなら、テロは犯行主体と実際にテロを起こす実行者は異なり、その多くが犯行主体の遠隔操作的な何らかの意思・示唆を受けて実行者が入れ替わる形で起こす集団殺戮だから、実行者に対して許さないという形で懲罰意志を示し、実際に懲罰を与えることに成功したとしても、テロはそれで終わりとならないから、ある意味甲斐のないことになる。

 犯行主体に対しても、その組織の一つを壊滅させたとしても、生き残った誰かが、あるいは今まで部外者であった誰かがその意思を受け継ぐ形で新たなテロ集団を立ち上げない保証はない。

 一切の格差をなくし、誰もが等しく自由を享受できる新しい時代を迎えない限り、テロは永遠の命を持ち続ける可能性すらある。

 また「許されない」、「許さない」が今後起こすかもしれないテロによりウエイトを置いた懲罰意志の提示であったとしても、起きてしまったテロを起きてしまったことだと不可抗力扱いせずに何故起こさせてしまったのか、原因の徹底解明を試みなければ、次のテロを防ぐ参考材料とすることもできないし、再びテロが発生した場合、あるいは在留日本人が巻き込まれて犠牲者を出した場合、懲罰意志は無効となり、「許されない」、「許さない」の決まり文句を再び繰返すことになる。

 当然、起きてしまったテロ事件を不可抗力としないためには特にダッカのテロ事件に日本人が巻き込まれたことがなぜ防げなかったのかの検証が必要となる。

 安倍晋三はASEMの席上、日本人7人が殺害されたバングラデシュでの人質事件にも触れたそうだ。

 安倍晋三「国際協力の最前線で尽力されていた方々が残虐非道なテロにより命を奪われたことは痛恨の極みで、いかなる理由であれ決して許されるものではなく、断固非難する。

 過激派組織IS=イスラミックステートが直ちに『犯行声明』を出し、自身の犯行であると誇示していること自体が、アジアに活動の場を拡大しようとする危険な兆候だ。アジアでテロ集団が跋扈することを決して許してはならず、アジア諸国は団結し、欧州とも互いの知識と経験を共有し協力してテロと対峙していくという明確なメッセージを出すことが重要だ」(同NHK NEWS WEB記事)

 既に起きてしまったダッカテロ事件を「決して許されるものではなく、断固非難する」と強い懲罰意志を示すと同時に「アジアでテロ集団が跋扈することを決して許してはならず」と今後起こすかもしれないテロに対しても強い懲罰意志を示している。

 問題は後者を成立させるためには前者との中間になぜ在住日本人が巻き込まれてしまったのか、巻き込ませてしまったのかの検証を介在させなければならない。

 安倍晋三はASEM出席滞在中のモンゴルでバングラデシュのハシナ首相と会談している。

 安倍晋三「過激派組織IS=イスラミックステートなどのテロ集団がアジアに手を伸ばそうとしている。過激主義の浸透を許さないためにも事件の徹底した真相究明と情報提供、犯人に対する厳正な処罰を求めたい。また、再発防止に向けたバングラデシュ政府の全面的な協力を得たい。

 バングラデシュへの援助を縮小することはテロに屈するに等しいので、わが国としては今回、犠牲となった方々の志を受け継ぎ、ODAを今後も積極的に続けていく」

 ハシナ首相「亡くなったのはバングラデシュの開発発展に尽くしてくれた方々で、大きな悲しみだ。テロリストには国境も宗教も存在せず、ASEMで彼らの行為を絶対に許さないという力強いメッセージを発信すべきだ。今後も日本と連携し、協力していきたい」(7月15日付NHK NEWS WEB

 安倍晋三は「事件の徹底した真相究明」をバングラデシュ政府に丸投げしている。

 日本政府がしたことは政府専用機に遺族や関係者を乗せてダッカに運び、遺体と共に日本に戻ったことと、省庁横断でテロ関連情報の収集・分析に当たる「国際テロ情報ユニット」の人員拡充と外務省と国際協力機構(JICA)のメンバーを中心とした「国際協力事業安全対策会議」の新設の計画、ODA安全対策の抜本的見直し程度といったところである。

 日本人犠牲者7人は国際協力機構(JICA)が業務を委託した国内のコンサルタント会社の社員だそうだ。

 北岡JICA理事長「普通に考えれば安全な場所だっただけに、こういう事態になって残念だ。

 今年6月がIS(過激派組織『イスラム国』)設立2周年に当たり、さらにラマダン(断食月)明けは危険ということもあって、注意喚起はしていた」(7月3日付毎日新聞記事)

 事件現場を「普通に考えれば安全な場所だった」と見ていた。

 その一方でラマダン(断食月)明けのテロの危険性について「注意喚起はしていた」

 ラマダン(断食月)明けを祝うために人が大勢集まる場所の危険性――ソフトターゲットとなりやすい危険性を考えなかったのだろうか。

 少なくとも前者の見込み違いと後者の無効性に関わる情報処理能力の未熟性は検証の対象としなければならない。

 このことがODA安全対策の抜本的見直しに入るのかどうか、例え入れるにしても、上記検証とその報告を経ない見直しは中途半端に終わるに違いない。

 2週間程前に当ブログに取り上げたが、2016年5月30日の日付で外務省は「海外安全ホームページ」に在外邦人にラマダン期間中のテロ警戒の要請を行っている。

 《イスラム過激派組織によるラマダン期間中のテロを呼びかける声明の発出に伴う注意喚起》    

1 5月21日,イスラム過激派組織ISILは,ラマダン期間中のテロを広く呼びかける声明をインターネット上に公開しました。同声明では,特に欧米諸国におけるテロの実行を呼びかけており,民間人を対象としたいわゆる一匹狼(ローンウルフ)型のテロの発生も懸念されます。本年については,6月6日頃から7月5日頃までが,ラマダン月(イスラム教徒が同月に当たる約1か月の間,日の出から日没まで断食する)に当たります。また,ラマダン終了後には,イードと呼ばれるラマダン明けの祭りが行われます。

2 ISILは,昨2015年のラマダン月(6月18日頃~7月17日頃)においても,同様の声明を発出しています。同声明との関係は明らかではありませんが,昨年のラマダン期間中には,チュニジア沿岸部スースのリゾートホテル及び隣接するビーチが武装集団に襲撃され,外国人観光客38人が殺害されるテロ事件(6月26日)のほか,以下のテロ事件が発生しています。犯行主体は,ISIL関連組織に限られませんので,様々なイスラム過激派によるテロに警戒が必要です。

・フランス:東部リヨンにおけるテロ事件(6月26日)
・クウェート:シーア派モスクにおける自爆テロ事件(6月26日)
・エジプト:カイロ郊外における検事総長殺害テロ事件(6月29日)
・マリ:北部における国連車列襲撃テロ事件(7月2日)
・ナイジェリア:北部及び中部での連続爆弾テロ事件(7月5日~7日)
・エジプト:カイロ市内のイタリア総領事館前での爆弾テロ事件(7月11日)

 なお,上記事件のうち,複数の国で大規模なテロが発生した6月26日は金曜日に当たります。イスラム教では,金曜日が集団礼拝の日であり,その際,モスク等宗教施設やデモ等を狙ったテロや襲撃が行われることもあります。なお,本年のラマダン月については,6月10日,17日,24日,7月1日が金曜日に当たります。

3 ついては,特にラマダン(特に金曜日)及びイード期間中やその前後に海外に渡航・滞在される方は,従来以上に安全に注意する必要があることを認識し,外務省が発出する海外安全情報及び報道等により,最新の治安情勢等,渡航・滞在先について最新の関連情報の入手に努めるとともに,改めて危機管理意識を持つよう努めてください。テロ,誘拐等の不測の事態に巻き込まれることのないよう,特にテロの標的となりやすい場所(モスク等宗教関連施設,政府・軍・警察関係施設,欧米関連施設,公共交通機関,観光施設,デパートや市場等不特定多数が集まる場所等)を訪れる際には,周囲の状況に注意を払い,不審な人物や状況を察知したら速やかにその場を離れる等,安全確保に十分注意を払ってください。

4 なお,本年のラマダン期間中(6月6日頃から7月5日頃)には,仏において,サッカーの欧州選手権(6月10日~,同日はラマダン月最初の金曜日),自転車のツール・ド・フランス(7月4日~)が予定されています。そのような世界的に注目を集めるイベントについても,テロの標的となる可能性があります。(以下略)

 外務省がラマダン期間中のテロの危険性を呼びかけていながら、イスラム教徒が89.7%を占め、尚且つ2015年に日本人男性が射殺され、「イスラム国」が犯行声明を出しているバングラデシュを警戒対象になぜ入れなかったのか、あるいは入れずとも、在バングラデシュ日本大使館に注意喚起し、大使館が在留日本人一人ひとりにその注意をなぜ伝えなかったのか、それらが各自の危機管理に関わる想像性の問題である以上、それを検証しなければ、事後の対策に進むことはできないはずだ。

 検証しないままに「国際テロ情報ユニット」の人員拡充だ、「国際協力事業安全対策会議」の新設だ、ODA安全対策の抜本的見直しだと動いたとしても、各自の危機管理に関わる想像性の問題を置き去りにすることになって、結局のところ、再び日本人がテロに巻き込まれて犠牲となった場合、「許されない」、「許さない」と尤もらしい懲罰意志を繰返すことになる。

 そしてこの繰返しは結果的には起きてしまったテロを、あるいは在外日本人のテロに巻き込まれた犠牲を何ら手を打って防ぐことができなかったゆえに、また遺族対策が如何ように万全であろうと、気づいていようがいまいが不可抗力としてしまうことになる。

 政府のテロ対策の検証、特にテロ対策に関わっている関係者各自の危機管理に関わる想像性を検証しないままの安倍政権の事後の動きを見ていると、どうしてもそう見える。

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