堰止め湖(土砂ダム)対策に見る天気次第・降雨量次第の国の危機管理

2011-09-19 11:30:28 | Weblog

 台風12号は和歌山県、奈良県、三重県に集中的に大きな被害をもたらし、土砂崩れはいくつかの河川を堰き止めて堰止め湖(土砂ダム、ダム湖)をつくり、国は二次災害の防止に当っている。

 その防止対策を見ると、水位計と監視カメラを設置し、堰止め湖の水位を測って、その水位が土手を決壊させかねない高さにまで達するのを監視し、その高さにまで達したなら、湖水を放出する水路確保の工事を施そうという方法である。

 雨が降らなければ、自然と水位が下がっていくか、下がらなくても、決壊の危険高にまで達することはない。いわば直ちにすべての堰止め湖の水を抜く水路確保の工事に取り掛かる二次災害防止対策の危機管理というわけではなく、天気次第・雨量次第の危機管理のようだ。

 堰止め湖が一気に決壊した場合、最悪、猛烈な鉄砲水、あるいは激しい土石流の発生が予想される。

 台風12号は9月3日午前高知県東部に上陸、同夕方岡山県南部に再上陸し、翌9月4日早朝、日本海に抜けていった。速度が遅かったために台風は上陸する前から大雨を降らし、9月2日時点で和歌山県田辺市の富田川・日置川、さらに同県新宮市の熊野川を既に氾濫させている。

 9月8日、堰き止め湖が出来た日置川支流熊野川下流の和歌山県田辺市熊野地区住民はその夜から予想される雨を懸念して地区の外へ自主的に避難。

 9月8日夕、奈良県の五條市大塔(おおとう)町赤谷の土砂ダムに最も危険性が高いとして水位観測のブイの投下と下流に高感度カメラが設置された。《土砂ダム決壊恐れ「危険差し迫っている」 国交省の調査難航》MSN産経/2011.9.9 14:03)

 国交省近畿地方整備局「危険は差し迫っている。なんとか現地に入って状況を把握したい」

 中込淳国交省近畿地方整備局河川調査官「これまでにない規模の土石流が発生する可能性がある」

 一刻の猶予もならない切迫した危険な状況にあると言っている。
 
 国交省近畿地方整備局「雨への警戒が引き続き必要」

 中込淳国交省近畿地方整備局河川調査官「とにかく安全に水を抜くことだ」

 石塚忠範独立行政法人土木研究所上席研究員「土質によっても決壊の仕方が変わる。なんとか現場に入り、確度の高い情報を得たい」

 記事〈ポンプを設置して徐々に水を流したり、ダムの表面をブロックで強化したりといった方法などを含め、適切な排水方法を検討する。ただ、重機を搬入する場合、そのための道路をつくる必要があり、時間がかかる可能性がある。〉

 ポンプを設置して徐々に水を流す危機管理は雨が1週間程度は降らないか、小雨程度で済む条件が必要となる。大雨が降って周囲の山からの絞り水をプラスさせて徐々に抜いた水以上の水をもたらしたなら、ムダな努力と終わる。

 ダム表面をブロックで強化するだけの危機管理は少し強い風が吹いて湖面に波を起した場合、ブロックの根元の土を掻き出す危険性を考えなければならない。今回の大震災では頑丈な造りにした防潮堤の根本の土台部分の土が津波によって抉(えぐ)られて倒壊、決壊するという事態を招いている。

 ポンプ設置やブロック工事、重機搬入といった情報は国交省近畿地方整備局から得たものだと思うが、台風シーズンの今の時期にポンプ設置とブロック工事を持ち出すのは果たして適切だろうか。

 重機搬入の場合、搬入路を整備、時間がかかる可能性があるとしていることはヘリで吊るして搬入する選択肢は考慮外としていることになる。
 
 9月9日、平野達男防災担当相が土砂ダムに関して記者会見を行っている。マスコミによって呼び名が違うが、マスコミに従った名称を使う異にする。

 《ロボット、重機投入を準備 土砂ダム対策で防災担当相》MSN産経/2011.9.9 11:48)

 〈台風12号の紀伊半島豪雨による土砂ダムのうち、決壊すると人家に被害が及ぶ奈良、和歌山両県の計4カ所について〉

 平野防災担当大臣「国土交通省が河道閉塞を解消する技術的検討を急いでいる。遠隔ロボットや重機を投入する作業になると思うが、天候を見ながら準備を進めている」

 記事は内閣府の情報として、河道閉塞解消〈対象の土砂ダムは奈良県の3カ所と和歌山県の1カ所で、いずれも決壊した場合に10戸以上の被害が見込まれる。〉と伝えている。

 前田武志国交相も記者会見で土砂ダムについて発言している。《「できるだけ早く水抜きを」 台風12号の土砂ダム対策、前田国交相》MSN産経/2011.9.9 11:30)

 国交相は〈「土砂ダム」が決壊し鉄砲水が起きる可能性があることについて、できるだけ早期に水を抜く作業を行い、復旧に向けた対策を急ぐ方針を示した。〉と記事は説明。

 前田国交相「(土砂ダムは)いくつもあるが、形態が違う。危険度が大きいところは多少時間かかる。ヘリで上空から状況を見たが、川の本線は閉塞(へいそく)しておらず、支流の沢がふさがっている。たまった水を抜くのは非常に危険で直ちにとはいかないが、ロボットなどを活用するという話もあり、一番適切な方法でやりたい」

 平野防災担当相が言っている「遠隔ロボット」とは遠隔操作の重機のことを言うのだろう。福島第一原発の瓦礫処理に遠隔操作重機は既に投入され、活躍している。

 平野大臣が「遠隔ロボットや重機を投入する作業になると思う」と言ったことは、遠隔操作重機と共に人的操作の重機の両方を言ったのだと思う。

 堰止め湖は纏まった雨が降らず、水位が下がっていく。

 9月16日、国交省近畿地方整備局は〈決壊の恐れが特に高い奈良県五條市大塔町赤谷と和歌山県田辺市熊野(いや)の2カ所で排水路の設置やポンプによる排水などの緊急工事に着手すると発表〉、〈赤谷は同日午後から、熊野は明日にも着手予定だが、工事完了には数カ月かかる見通しという〉。《昼から大雨…排水へ緊急工事に着手 完了は数カ月》MSN産経/2011.9.16 12:07)
2011.9.16 12:07)

 記事題名で既に分かるように天気予報で大雨の予想が出たからだ。記事はこう書いている。〈いずれも夕立程度の雨で満水になるとされているダムで、決壊すれば大規模な土石流を引き起こす可能性が高いとして、優先して取り組むことにした。〉

 夕立程度の雨で満水。昼から大雨の予想。決壊防止のための排水路工事を着手すると発表。これが9月16日発表。

 この経緯を裏返すと、9月初めの大雨、河川の氾濫、土砂崩落、堰止め湖発生から9月16日まで大雨が予想されなかったために監視のみの危機管理でしのいできた。まさに天気次第・降雨量次第の国の危機管理だが、工事完了には数カ月かかる見通しだとしている。

 この台風シーズンに数ヶ月もの間、夕立程度以上の雨が降らないと確信しているわけではないだろう。確信していないはずで、だとしたら、危機管理の前提としていた天気次第・降雨量次第が崩れ去ることになって、矛盾を犯すことになる。

 記事は書いている。〈堆積土砂の上に排水路(長さ約500メートル、底幅約3メートル)を設け、必要に応じてポンプも使用しながら、水位を低下させる計画。まず、重機搬入用の道路をつくる必要があり、ショベルカーを投入し、道路を補修しながら現場を目指す。難工事となるのは必至だが、同整備局は半年以内には終えたいの考えを示した。他に決壊の恐れのある3カ所についても緊急工事の検討を進めている。〉――

 「半年以内」に夕立程度どころか、大雨も降らない保証があるのだろうか。長さ500メートルの排水路の設置工事自体は幅3メートル、長さ5~10メートルとかの既に出来上がっているコンクリート製のU字溝を重機で下流に向けてほんの少し勾配をつけて均した「堆積土砂の上に」並べていくだけだから(少しぐらい水が漏れても構わない)、人数さえ揃えれば2日かかるかかからないかだろう。所々勾配が少しぐらい逆になっても、全体の勾配が下がっていたなら、水圧で押し流していくから、丁寧な工事は必要ない。

 要は重機搬入路造成工事の方が遥かに時間はかかる。だとしたら、万が一の強い雨を予想して約半月も待たずに1日でも早く工事に取り掛かる段取りをしなかったのだろうか。

 多分、大雨が降って決壊したとしても、決壊によって被害が及ぶ下流の住民を決壊前に避難させておけば、それで良しとしているからではないか。他に理由を考えることはできない。

 だが、再び住宅地に土石流が遅った場合、避難所生活が長引き、山間部は高齢者が多いから、避難所生活で体調を崩す住民が出てくることも予想しなければならない。今回の東日本大震災の避難所ではかなりの数の被災者が体調を崩し、中にはそのことが原因で亡くなっている。

 国はそんなことはどうでもいいことで、二次災害による直接の死者さえ出さなければいいということなのだろうか。

 この工事、「毎日jp」記事によると工事方法が違っている。《土砂ダム:奈良、和歌山で厳戒続く…排水路を設置へ》毎日jp/2011年9月16日 12時19分)

 熊野(いや)ダムと赤谷の土砂ダムについて、〈排水路完成まで数カ月かかる見通し〉は同じだが、〈排水路はいずれも長さ500メートル、幅15メートルで、土砂をくりぬいて造り、内部を金属のネットと石で固めて崩れるのを防ぐ。熊野の土砂ダムについては、ポンプ排水も同時進行で進める方針で、早ければ17日にも着手する。赤谷の土砂ダムでは大雨の時にポンプ排水も行う方針だが、現場に重機やポンプを運ぶのに少なくとも3日間はかかるという。〉――

 どうもよく分からないが、「土砂をくりぬいて」と書いてあるから、水を堰き止めている土手部分の横腹をトンネル状にくりぬいて水を流すということなのだろうか。これだと相当に日数がかかる。

 専門家の意見を取り入れなければならないが、土手から二十メートル手前ぐらいまで排水路を500メートルなら500メートル先ず設置して、その先端から土手までは高さ2~3メートル程のコンクリート既製品のL字型擁壁を上から見てV字型につなげて水が外に流れないよう遮る遮壁(しゃへき)として、V字の頂点の中央部分に直径10センチ程度の穴を数箇所電動ドリルで2メートルずつ穿ち、火薬量を調整したダイナマイトを挿入して発破をかけ、小規模爆発を繰返して土手を突き崩していくという方法は不可能だろうか。

 発破をかける瞬間は導火線の長さに応じて人は離れていることができるから、万が一想定していない範囲の決壊が起きて土石流が発生しても、危険は避けることはできる。

 発破をかけて崩れた土はV字型の遮壁内に飛び散るようにすれば、除去しなくても勢いよく流れる水が押し流してくれる。

 記事による雨量の予想。〈16日昼過ぎから雷を伴った激しい雨が予想される。同日正午からの24時間雨量は、多いところで300ミリ~200ミリに達する見通し。紀伊半島では18日まで強い雨に警戒が必要で、普段よりも少ない雨量で土砂崩れや土石流が起きる恐れがあることから、気象台は大雨警報を発令する基準を暫定的に引き下げて、警戒を呼びかけている。〉――

 同じことを言うことになるが、激しい雨だという予想が促した工事発表、天気次第・降雨量次第の国の危機管理というわけである。

 奈良、和歌山両県では9月16日深夜から9月17日早朝にかけて雨が降ったが、水位は上昇したものの幸いなことに小康状態を保っているという。

 但し同じその雨のために赤谷と熊野の堰き止め湖の排水路設置工事は9月18日以降に延期。

 二次災害防止の危機管理も天気次第・降雨量次第だが、工事も天気次第・降雨量次第だというわけである。

 台風被災地では9月19日午後、台風15号の影響で激しい雨が予想されているということだが、多分被災者の後の困難や苦労は考えない危機管理となっているのだろうから、天気次第・降雨量次第になるようになるさで任せておけばいいのかもしれない。

 以下は2009年9月19日当ブログ記事――《大型災害の迅速な人命救助はたった一人の国民の命であっても疎かにしない危機管理に於ける象徴作業 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》、その他に書いたことだが、2008年6月14日午前8時43分発生のマグニチュウード7以上の岩手・宮城内陸地震では宮城県栗原市山間部の旅館「駒の湯温泉」が土石流で2階部分が1階部分を押し潰す形で倒壊させ、泥流に埋没、宿の住人と宿泊客7人が行方不明となったが、後に5人が遺体で発見され、残る2人の捜索に手間取った。

 重機搬入を可能とする寸断された道路復旧に手間取ったからである。だが、地震発生の6月14日から倒壊建物内の生き埋め状態での「生存限界」とされている72時間(3日間)を遥かに超える12日後の6月26日に福田政府は陸上自衛隊大型ヘリで中型ショベルカー(重さ4・4トン)を吊り下げて搬入、それまで手間取るだけだった手作業の救助作業と交代させている。

 重機搬入を阻んでいたという“道路寸断”は意味をなくした。意味をなくすまでに12日も要した。駒の湯旅館が倒壊したと知った時点で大型ヘリによる重機搬入を準備、行動していたとしても救命できなかったと誰が断言できるだろうか。例え救命できなかったとしても、最大限・最良の救助活動・危機管理を行うことが「国民の生命・財産」を守る責任行為となるはずだ。

 二次災害による土石流被害は被害想定地域の住民を前以て避難をさせておけば、避難の長期化による辛労や体調悪化を無視しさえすれば確かに死者を出さずに済む。それで良しとする危機管理方法もある。

 だが、それでは間に合わない最大限緊急を要する想定外のケースを想定して、最大限の緊急に対応できる最大限の危機管理の方法を確立しておくべきではないだろうか。

 東北大震災でも自衛隊ヘリを活用した支援物資の支給は行われたが、東北道や港湾等の復旧を待って本格的な支援物資の運搬を開始したという例もある。

 自衛隊ヘリの活用を以てしても避難所への食糧やガソリン・灯油等の燃料、医薬品の支援は相当に遅れた。必要とする場所ごとにヘリで吊るして直接運搬し、ホバーリング状態でその場に吊り降ろすという最短時間で済ませる方法を選択しなかったからだ。


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