もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

LGBTと艦内生活

2021年01月27日 | 自衛隊

 バイデン大統領がLGBTの兵役(入隊)を認める大統領令に署名したことが報じられた。

 バイデン大統領はトランプ政権否定の大統領令を乱発し、その数は就任後1週間で30数通にも及ぶと報じられているが自分には朝令暮改の極致とも感じられる。それもあってか、今も全米各地でアンティファやらBLMが「我が世の春到来」ともいえる活動を活発化させており、就任演説で訴えた「アメリカの団結」とは程遠い措置のようにも感じられる。
 本日の主題であるLGBTの軍入隊について、アメリカは従来「性風俗紊乱による士気・戦闘力低下懸念」の理由からLGBTの軍入隊を認めないのみならず入隊後にあってもLGBTが疑われる場合は軍から追放することも認められていたが、2,016年にオバマ政権が認めたものの2017年には軍の主張を受け入れる形でトランプ氏がLGBTの無期限入隊禁止とした経過を辿っている。
 日本では未だLGBTであることの告知や活動が一般的でないこともあって、LGBT自衛官が殊更に取り沙汰されることは無いが、LGBTと同居する艦内生活は大変だろうなアと思う。
 護衛艦は100以上の区画に細分化されており滅多に人が立ち入らない区画も多く、それらの多くは円滑な通常業務や緊急事態を想定して無施錠の場合が多い。いわば隠れる場所には事欠かないために、過去にも乗員が行方不明となった場合の艦内捜索に手間取って落水事実の確定に長時間を要したケースや、2・3時間後に「考えられない場所」で発見されたケースもある。密会場所に事欠かないという特殊性からLGBTに起因する規律の維持はなかなかに困難であろうし、加えて長期間の禁欲生活に耐えなければならないという特殊性も考えなければならない。最も大きいのは、LGBTと反(嫌)LGBTが果たしてワン・チームになれるかという点である。全乗員がワン・チームとなることを阻害する最大の要因は艦内に「派閥」が生まれることであり、その原因となり兼ねない政治・宗教・思想等に関する論評や指導は過度にならないことが不文律であったと思っている。
 政治を壟断したとされる帝国軍にあっても海軍は政治には過度に関わらない「サイレント・ネービー」を伝統としていたが、これは政治思想の対立がワン・チームを阻害するという視点に基づいていると思っている。大角岑生海軍大臣が条約派と目される将官を予備役に追いやった「大角人事」が海軍の発言力の弱体を招き、果てには大東亜戦争開戦の序章とする見方もあるのは、このことの悪しき好例とも思える。

 現在ではLGBTも尊重されるべき基本的人権の一つで、全ての門戸が彼等に開かれるべきとする主張を理解し・従わなければならないと思う反面、起居の全てを同じくしなければならない軍隊(特に艦艇)の特殊性は考慮されるべきであると思っている。バイデン大統領の経歴では、ベトナム戦争時に少年時代の喘息の病歴を理由に5回の徴兵猶予を得ており、今回の大統領令には人権重視よりも軍の特殊性を知らないことが大きいようにも感じられるが、州兵を経験したブッシュ(子)氏を除いてクリントン政権以降は大統領の軍歴の有無が問われない時代にあっては、軍隊の特殊性は等閑視されるものかも知れない。聞くところによると、禁欲生活を強いられるアメリカ刑務所でも、LGBT受刑者は他の受刑者とは隔離されて収容・刑務作業に従事しているとされる。
 アメリカの波が数年後に日本に到達する現状を考えれば、何らかの検討と対処を準備する時期に来ているのかも知れない。