結論から言おう。
抱腹絶倒ものである。
本書のタイトルは、もちろん上野千鶴子の『女は世界を救えるか』のパロディなのだ。『男は世界を救えるか』は、日文研(国際日本文化研究センター)の同僚だった井上章一氏と森岡正博氏との「書き下ろし対談」である。実際に対談したわけではなく、原稿用紙に向かって「書き下ろし」するという、対談の常識を破った本づくりをしたそうだ。
わたしはこの本を電車の中で読んでいて、夢中になってあやうく降車駅を過ぎてしまうところだった。思わず声が出そうになるのをこらえて、肩を震わせながら読むという苦労を強いられた。で、こんなふざけた本を出していいのかっと思わず怒ったが、その直後に「うぷぷぷっ」と笑ってしまうから、もうどうしようもない。
本書は全体が7つに分けられ、それぞれが井上vs森岡の120分一本勝負、知のバトルとなっている。大まかなテーマは、エコロジー、不倫、売春、臓器移植、禁煙運動など、重いものばかりだ。全体を通して隠れテーマとなっている(全然隠れていないっ)のがフェミニズムである。
井上章一という人物はフェミニズムの敵だと思っていたが、やっぱり敵のようだ。ご本人は敵ではないと言っているが(僕は単にメンクイなだけです、美人が好きなだけとかおっしゃっている。そんなこと言えば、わたしだって美男が好き)、どの対談も全部わたしは森岡さんに共感してしまう。しかしまあ、よくも「マゾ・フェミ」だの「ロリコン・エコ・フェミ」だのと好き勝手に命名したもんだとあきれるやら爆笑するやら。
森岡正博氏は「風の谷のナウシカ」のファンだそうだが、この作品を美少女ロリコンアニメだと取られてしまうと、絶句してしまう。ま、どう観ようと勝手なんだけど、森岡さんの論理の飛躍・跳躍には畏れ入る。もうほとんど尊敬のまなこで見てしまう。
ただ一点、嫌煙運動をめぐる言説についてだけは井上氏に同調してしまった。タバコが嫌いだからやめてくれという好き嫌いの次元で嫌煙権を主張するのではなく、発癌物質を他人に強制的に吸わせるのは傷害罪だから取り締まれという森岡氏のご意見には納得できない。
なんで嫌煙・禁煙の話になったらあんなにエキセントリックになるのだろう。その上、この問題を深く掘り下げていったら、「愛と権力」に行き着くというウルトラCまでおまけに付いている。うん、確かに「権力」はわかる。森岡氏は強権的に喫煙者を取り締まれとおっしゃっているのだから。しかし、「愛」はなぁ。美人になら煙を吹きかけられてもいいというええかげんな嫌煙者で、喫煙者を説得できるのだろうか……。嫌煙者のわたしですら説得できないのに。
ともあれ、重いテーマを語り飛ばし笑い飛ばし、しかりやはりそこは学者さんの対談だけあって、なるほどと思わせる濃い内容となっている。
ぜひお取り寄せして笑ってください。(bk1投稿書評)
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井上 章一著 森岡 正博著
筑摩書房: 1995.7