ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「線は、僕を描く」

2020年02月08日 | 書籍関連

大した才能も無い自分にとって、“多才な人”が羨ましくてならない。特に“本大好き人間”なので、「別の職業を持ち乍ら作家としても高く評価されている人。」には、嫉妬の思いすら持ってしまう。古くは森鴎外氏や北杜夫氏、渡辺淳一氏、最近で言えば海堂尊氏や夏川草介氏、知念実希人氏、中山祐次郎氏と、“医師で在り作家でも在るという人”には、典型的な文系人間として「理系と文系の能力を兼ね備えているって、本当に凄いなあ。」と脱帽の思い。

小説エーゲ海に捧ぐ」で第77回(1977年上半期芥川賞を受賞した池田満寿夫氏の様に、「芸術家で在り、作家としても高く評価された人。」は存在するが、「水墨画家で在り、作家としても高く評価された人。」というのは、自分の記憶の中では無かった。

第59回(2019年)メフィスト賞を受賞した小説「線は、僕を描く」は、「2年前に交通事故で両親を失い、以降は何の目標も無く、“惰性”で生きて来た大学生・青山霜介(あおやま そうすけ)が、偶然の出会いにより水墨画の世界に足を踏み入れ、水墨画と向き合って行く中で、“自分”を取り戻して行く。」というストーリー。水墨画を扱った小説というのも珍しい気がするけれど、もっと珍しいのは「現役の水墨画家が、小説を書いて受賞した。」という事だろう。1984年生まれの砥上裕將氏が、其の人だ。

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いいかい。水墨を描くということは、独りであるということとは無縁の場所にいるということなんだ。水墨を描くということは、自然との繋がりを見つめ、学び、その中に分かちがたく結びついている自分を感じていくことだ。その繋がりが与えてくれるものを感じることだ。その繋がりといっしょになって絵を描くことだ。
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水墨画に関する知識が全く無いに等しい人間なので、色々勉強になった。どうしても“水墨画を描くテクニック”という物に関心が行ってしまうのだけれど、水墨画を描く上での心の在り方というのは目から鱗が落ちる思いが。

惰性で生きている様な霜介に、何故、水墨画の大家目を付け」たのか?其の理由が「霜介の瞳の奥に、“過去の自分”を見た。」という事が最後に明らかとなるのだけれど、透明感の在る文体でずっと描かれて来ただけに、一気に感動の波が押し寄せて来た

「メフィスト賞=ミステリーに与えられる賞」というイメージが在ったので、読み終えた時には違和感が非常に在った。「ミステリー要素が“余り”感じられない小説に、“ミステリー関連の賞”が贈られる事は珍しく無くなった。」とは言え、「線は、僕を描く」はミステリー要素が“皆無”だったので。でも、改めて調べてみた所、メフィスト賞が対象とする小説は「エンタテインメント作品(ミステリー、ファンタジーSF伝奇等。)」となっており、そうなると「線は、僕を描く」は対象に含まれる訳で、違和感が無くなった。

汚れてしまった心が、綺麗に洗われた様な思い。が在る。総合評価は星4.5個


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