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古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多(はた)は、同僚に誘われる儘、六甲山登山に参加する。其の後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をする様に成っていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているヴェテラン社員の妻鹿(めが)が、敢えて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしている事を知ると・・・。
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第171回(2024年上半期)芥川賞を受賞した小説「バリ山行」(著者:松永K三蔵氏)を読了。「松永K三蔵」という変わった作家名も気に成ったが、「バリ山行」というタイトルも非常に気に成っていた。最初、「“バ”リ」では無く、「“パ”り」と思っていたので、「パリに山が在って、其処での話なのかな?」と思ったりしていたのだが、「“バ”り」が正しく、「バリとは『ヴァリエーション・ルート』の略で、『通常の登山道で無い道や、破線ルートと呼ばれる熟練者向きの難易度の高いルートや廃道等行く。』事を『バリ山行』と言う。」らしい。時には、命をも危うくする様な、一般的な登山者からは「そんな危ない事をするなんて非常識だ!!」と非難される様な行為と言っても良い。
前に勤めていた内装リフォーム会社で“リストラ対象”と成り、何とか小さな会社に転職した波多。「『仕事さえきちんとしていれば、其れで良いだろう。』と、社内での人付き合いを疎かにしていた事が結果的に、前の会社でリストラ対象から外されなかった理由ではないか?」と感じた彼は、新しい会社で積極的に人付き合いをする様になったのだが、嘗ての自分以上に人付き合いを避けている様なヴェテラン社員の妻鹿が気になり始める。其れは、彼が1人でバリ山行をしている事を知ったからだ。そんな鹿妻にシンパシーめいた物を感じていた波多だったが、社長の経営方針が大きく変わった事で会社の経営状態は一気に悪化し、リストラが行われるのではないかという“社内の動揺”に、彼自身も巻き込まれて行く。「妻と幼い子供を抱え、リストラされる訳にはいかない!」という焦りと不安が、「会社の危機には全く無関心で、バリ山行によって“現実逃避”しているだけの様に見える妻鹿。」への大きな怒りへと駆り立てられてしまい・・・というストーリー。
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逆なのだ。妻鹿さんは何か特別な風景を求めて登山道を外れ、難所に足を踏み入れているのかと思っていたが、そうではなく、誰もいない場所に行こうとして登山道を外れているのだ。そうやって妻鹿さんは毎週末、山に入り、藪に分け入って、会社も、仕事のことも忘れ、もしかしたら家族の問題も忘れ、ひとりコーヒーを飲んでいるのだ。
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現実逃避している様に見えた妻鹿と、厳しい現実に懊悩する波多。そんな構図が、最後の最後には異なる。厳しい現実に真っ向から対峙していたのは、社内の動揺に惑わされず、遣るべき事を恐れずに遣り続けていた妻鹿の方だった様に思う。
社会人として長く生きて来た人程、此の作品に魅了されそう。“嫌な形”で別れ離れに成っててしまった妻鹿と波多の其の後が、どういう方向に向かって行くのか?気になる所では在る。
総合評価は、星4.5個とする。
この記事に関係のないことで申し訳ないのですが、お尋ねしたくて・・・。
ひとつ前の「政治関連」の記事にコメントさせてもらおうとしたところ、以下のページが表示されてしまい、gooのブログを開設しないとコメントできないとの事。
https://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/c6760226cad0460794193647c9daebc7#comment-list
コメント投稿のルールが変わったのかと慌てましたが、ここの記事はいつもと同じで投稿できるようです。
ひとつ前の記事だけ何か設定を変更されているのでしょうか?
早速確認しました所、コメント投稿に関し、件の記事"だけ"は「gooブログユーザーのみ許可」という設定に成っておりました。そういう設定にした覚えは全く無いのですが、恐らくはクリック・ミスだと思われます。通常通りの形に変更しました。申し訳在りません。
異常を連絡して戴き、本当に助かりました。