ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督」 Part2

2024年07月16日 | スポーツ関連

冒頭で記した様に、プロ野球に少しでも関心が在る人にとっては「プロ野球監督=一度は就任してみたい存在」と言えるだろう。其の大変さは十二分に理解しているが、“憧れのプロ野球選手達を指揮する立場”というのは、プロ野球ファンを魅了して余り在るので。

そんなプロ野球監督、其れも名門タイガースの監督に、「プロ野球経験が全く無い“ド素人”(プロ野球草創期ならば、其れ以前にプロ野球は存在しないのだから、全くプロ野球経験が無い人物がプロ野球チームの監督を務めるというのは未だ判るが、岸監督が誕生した1955年は、日本にプロ野球が誕生してから既に21年が経過している。)、
其れも当時の平均寿命からすると“何時亡くなってもおかしくない年令の爺さん”。」が招請されたと言う。又、「招請される前には田舎で農業をしていた岸氏が、タイガースに送った『タイガース再建論』なる物をタイガースのオーナーが読んで感激し、オーナー特権で監督に決めた。」というのだから、とても現実の事とは思えない。

「虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督」を読んで知ったのだが、岸氏は確かにプロ野球経験は皆無だったけれど、野球に関してド素人では無かったという事。1910年から1923年に掛けてアマチュア球界投手として大活躍し、早稲田大学在籍時には“早稲田大学のスーパー・エース”と呼ばれ、卒業後には満州に渡り、“満鉄”の野球部「満州倶楽部」でも投打に大活躍したというのだから。でも、タイガースの監督に就任した時点では、選手引退からずっと野球に関わらない32年も経っていたのだから、野球関係者でも「岸一郎って誰??」となってしまうのは当然の事だろう。

非常に興味深いのは、岸一郎という人物に付いて。監督就任時に若手選手としてタイガースに在籍していた吉田義男氏や小山正明氏が証言しているのだが、当時、タイガースの選手等には、荒々しい先輩が多かったけれど、岸さんは優しくて物静かな方だった。と言う。ところが、岸氏による具体的な指導等、野球に関する思い出となると、全くと言って良い程に記憶に残っていないそうだ。まあ試合の指揮を執ったのが2ヶ月程に過ぎないのだから、其れも仕方無いのかも知れないが、其れ以上に自身では“実質的采配”を振るっていなかった(振るえなかった)。というのが大きい気がする。

吉田氏等の証言に在る様に、岸氏は優しくて物静かな雰囲気漂わせていた一方で、“別の顔”も有していた様だ。悪く言えば“詐欺師的な言動”とも言え様が、岸氏には“大言壮語”が在り(タイガース以外のチームにも、自身の売込みを図る手紙を送り捲っていたし。)、其の事が就任当初から“チーム内外”にハレーションを起こし、チーム内では選手達の離反を招いてしまう。唯でさえ御山の大将的なヴェテラン選手”が多いのに、其のヴェテラン選手の反発を生む様な言動を(本人は悪気無く)言ったりするのだから、遠からずにチームが崩壊するのは明らかだった。

啀み合い嫉妬騙し等に起因する感情的な縺れに加え、愛人だ、離婚だ、自殺だ何だと、人間のどろどろした部分が岸氏(及び彼の身内)の人間形成に大きな影響を与え、延いてはタイガースにも影響を及ぼしている事が判る。

主力だった藤村富美男選手(初代ミスター・タイガース)が岸監督に対し、選手として在り得ない暴言吐いたり、非礼な行動を見せたりし続ける等、岸監督排除の先頭に立ち、結果的に岸監督の追い出しに成功する訳だが、此の時の成功経験が選手達の間に共有され、以降“選手王様気質”が当たり前となり、御家騒動が繰り返される原点となった。というのは「成る程。」と思わされたし、岸監督排除の先頭に立っていた藤村選手が翌1956年、選手達による「藤村排斥事件」*1に遭い、事件其の物は解決したものの、結局、2年後の1958年に“寂しい形で引退”する事となったのは、因果応報な感じがする。藤村氏もそうだけれど、タイガースで名を残した名選手達の少なからずが“チームからの追い出し”に遭う等、寂しい運命を辿っているのは、非常に残念な事。そういった事が、岸監督排除に始まっているとしたら、、彼を監督に招請した事自体が誤りだったのだろう。

、「力が落ちて来たヴェテラン選手達の“整理”。」を命じられた上で、“守りの野球”を掲げた岸監督の姿勢自体は誤っていなかったと思う。何故ならば、「岸監督が去った7年後の1962年、タイガースはリーグ優勝を果たすのだが、チームは(岸監督時の)ヴェテラン勢が一掃され、若手主体の構成だったし、何よりもチーム打撃成績が非常に悪かったのに優勝出来たのは、偏に“守りの野球”が徹底されていた。」から。

御家騒動頻発の原点に加え、「タイガースは何故、早稲田なのか?」の理由も知れたし、駄目虎だ何だと腐し乍らも、熱烈なファンが多いタイガースというチームの不思議さ(魅力)も納得出来た。野球好きな人、特にタイガース・ファンなら“必読の書”だと思うし、野球に全く興味が無い人で在っても、読み物として純粋に面白い本だ。

*1 「藤村排斥事件」に付いては、其れなりに理解している積りだったが、此の事件の“調停役”として、当時のジャイアンツで主力の川上哲治選手や千葉茂選手が駆り出されていた事実を、此の本で初めて知った。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
« 「虎の血 阪神タイガース、... | トップ | 21年目に突入! »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (悠々遊)
2024-07-16 20:44:47
こんばんは~
先日の『予告編』はこのことだったんですね。
私が阪神ファンになったのは、それまで「巨人・(大鵬ではなく)柏戸・卵焼き」が好物だったのが、堀内投手が好きに慣れず、巨人入りしたことで一気に熱が冷め、翌年江夏が阪神に入団したことで阪神に鞍替えしました。
なので雫石さんのような根っからの阪神ファンではありませんが、まあ60年程の(熱狂的ではないファンの)キャリアはあります(笑)。
で、岸監督・・・知りませんでした。
よく阪神のお家騒動が騒がれていましたが、OBがあれこれ口出し過ぎるのと、大した実績があるわけでなくても関西のマスコミが持ち上げるので、選手がすぐに天狗になりコーチ、監督の言う事を聞かなくなる、というところに原因があると思っていました。
いや、勉強になりました。
返信する
>悠々遊様 (giants-55)
2024-07-16 21:07:36
書き込み有難う御座いました。今回は、此方にレスを付けさせて貰います。

悠々遊様が元ジャイアンツ・ファンだったとは、非常に驚きました。堀内恒夫という人物は、味方にすればこんなに頼もしい選手(投打共に)は居ませんが、敵に回すと、こんなに"小憎らしい選手”は居ないと思います。「傲岸不遜」という四字熟語が、こんなにも当て嵌まる人物は居ませんしね。

でも、元々のタイガース・ファンでは無いにせよ、60年程のファン歴となると、最早"生粋のファン”と言って良いです。

此の本の中に「熱狂的なタイガース・ファンですら、岸監督の存在を知らない人は少なく無いだろう。」といった記述が在りましたが、本の一時とは言え、一緒にプレーした吉田義男氏等ですら「記憶が余り無い。」と言っているのですから、仕方無い事でしょうね。

タイガースの御家騒動の背景、自分もずっと悠々遊様と同じ事を考えていましたが、此の本によって目から鱗が居落ちる思いでした。「タイガースという球団に"遺伝子”が存在するならば、其の核に岸一郎という人物の存在は確実に在る。」と思わせる、非常に内容の濃い1冊。

雫石鉄也様や悠々遊様等、"熱きタイガース・ファン”には是非とも読んで戴きたいです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。