ブレイディみかこさんの本「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読んだ。此の本を読む迄、自分は彼女の事を全く知らなかった。同じ様な方が居られるかも知れないので、簡単に彼女のプロフィールを書く。
1965年に福岡市で生まれた彼女は、今年で54歳。貧困家庭で育つも、関東住まいの自分でも知っている福岡の優秀な高校を卒業後、上京を経てイギリスに渡る。幾つかの職業を経て、(本人曰く)“底辺託児所”で働き乍ら、ライター活動を開始。シティ(シティ・オブ・ロンドン)の銀行をリストラされた後、子供の頃からの夢だったという大型ダンプカーの運転手となったアイルランド人の夫と、一人息子の3人で、イギリスの南端に在るブライトンという街に在住中。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」は、(母親で在るブレイディみかこさんが働く)“底辺託児所”で幼児期を過ごし、小学校はカトリック系の名門校で学び、そして中学校は「校風が気に入った。」という理由(ブレイディみかこさん自身が、非常に気に入ったというのも在るのだろうが。)で、一転して“元底辺中学校”(最底辺を争う様な学校だったが、個性を重んじる教育等により、以前よりは良い環境になっている事から、“元”を付けている様だ。とは言え、様々な問題を抱えている事に変わりは無い様だが。)に進んだ息子の、中学校生活の最初の1年半を書いた物。ざっくり言えば、「人種、固定化されてしまった激しい経済格差、家族構成等から生じている、イギリス社会が抱える根深い“差別問題”」が取り上げられているのだが、今や日本を含めた共通の問題と言って良いだろう。
取り上げられているのが差別問題だけに、「暗い内容なのかなあ。」と思われる方も居られ様が、全然そんな事は無い。ブレイディみかこさんの性格が影響している様に感じるが、「“暗い現実”を、読み手に負担に感じさせない“明るい文章”。」だからだ。
タイトルとなっている「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」は、中学校入学後、偶然見てしまった息子のノートに書き込まれていた言葉。「日本人の母(イエロー)、そしてアイルランド人の父(ホワイト)から生まれた自分が、根深い差別問題が存在するイギリスで経験した思い(ブルー)」を意味しているのだと思う。
元々優秀な子なのだろうが、「託児所では“底辺”を、そして小学校では“上”を経験した。」からこその“冷静な物の見方”が、息子の言動から垣間見られる。「凄いなあ。」と思ってしまう訳だが、自身が貧困家庭に育った事で、差別に悩まされた経験が在るブレイディみかこさんだからこそ、差別に疑問を持つ息子の質問に対し、1人の人間としてきちんと向き合った答えを返して来たのも大きかったのだと思う。
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・思えば、わたしが保育士の資格を取った頃は「イングリッシュ・ヴァリュー」が右翼的と言われ、これからは「ブリティッシュ」を使え、と言われていた時代だった。「イングリッシュ」にはスコットランドやウェールズ、北アイルランドなどの地域が含まれていないので排他的だし、「ブリティッシュ」は英国籍を持つ移民も含む言葉だからより正しいと言われるようになった。それが今度は「ブリティッシュ」がヤバい表現になり、「ヨーロピアン」が正しい呼び名と言われるようになっている。ほんの十数年で、英国人の「推奨アイデンティティ」は次々と変化してきた。
「僕は、イングリッシュで、ブリティッシュで、ヨーロピアンです。複数のアイデンティティを持っています。どれか一つということではない。それなら全部書けと言われるなら、『イングリッシュ&ブリティッシュ&ヨーロピアン・ヴァリュー』とでもしますか。長くてしょうがないですけど。」と校長は笑いながら言った。「無理やりどれか一つを選べという風潮が、ここ数年、なんだか強くなっていますが、それは物事を悪くしているとしか僕には思えません。」。(中略)
「うちの息子なんか、アイリッシュ&ジャパニーズ&ブリティッシュ&ヨーロピアン&アジアンとめちゃくちゃ長いアイデンティティになっちゃいますよ。」。わたしが言うと校長が答えた。「でしょ?でも、よく考えてみれば、誰だってアイデンティティが一つしかないってことはないはずなんですよ。」。
・自分が属する世界や、自分が理解している世界が、少しでも揺らいだり、変わったりするのが嫌いな人なんだろうと思った。日本に戻ってくるたびにそういう人が増えているような気がするのは、わたしが神経質になりすぎているからだろうか。
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最後に紹介した文章は、ブレイディみかこさん達が帰国した際、「日本人ならば、こう在るべきだ。」という強い決め付けを持った中年男性から、浴びせ掛けられた不快な言動による物。こういう「自分の考え方“だけ”が、唯一無二的に正しい!」という決め付けに、不快さを感じる事が増えているので、彼女の気持ちは良く理解出来る。
こういう時代だからこそ、此の本を多くの人に読んで貰いたい。総合評価は、星5つとする。