風色明媚

     ふうしょくめいび : 「二木一郎 日本画 ウェブサイトギャラリー」付属ブログ

制作過程① シクラメン

2007年11月01日 | 仕事場
今年5月初めの仕事場の一隅です。
4月に池袋三越で個展があり、その残務も終わって制作を再開した直後の状態です。



写真では分かりづらいと思いますが、右側に描きかけのシクラメンの絵があります。
これから、この作品の制作過程を紹介することにします。
本当は、制作途中を人に見られるのは冷や汗ものなのですが…。


下描き・・・・・・・・・

この作品は41x31.8cm(6号F)という大きさです。
私はパネルに紙を貼り、その上に直接鉛筆で下描きをしていきます。
日本画では原寸大の下図を作って、それをカーボン紙などで移すという方法が一般的ですが
私は原寸大の下図を作ることがほとんどありません。



構図や物の形が一応決まるまでは、鉛筆を寝かせて柔らかく描きます。
一通り形が決まったら、鉛筆を立てて濃く描いていきます。
最初から濃く描いてしまうと、修正する際に紙を痛めるからです。
紙は和紙ですから、繊維が毛羽立ちやすいのです。


彩色1・・・・・・・・・

さて下描きができましたので彩色に移ります。
鉛筆で下描きをしていますので、彩色に入る前に全面にニカワを塗っておきます。
ニカワとは日本画用絵具の接着剤です。
動物の皮などから抽出する動物性たんぱく質で、ゼリー作りに使うゼラチンと同質のものです。
最初にニカワを塗るのは、鉛筆の定着と、これから塗る絵具と紙の馴染みをよくするためです。



これが最初の下塗りの色です。
花はミネラルヴァイオレットに少量の天然白亜(白色。石灰岩が風化したもの)を混ぜたもの。
これは日本画用の絵具ではなく、油絵具や水彩絵具の原料となる微粒子の粉末顔料です。

葉は岩絵具(いわえのぐ)の緑青に岩絵具の方解末(白色)を混ぜたもの(11番)。
背景は岩絵具の枯葉色(11番)。
11番というのは粒子の粗さを示す番号です。
日本画の岩絵具は粒子があり、1色につき6段階くらいに粒子分けされています。
粒子によって色合いが異なり、細かくなるほど白っぽくなります。


彩色2・・・・・・・・・



花はカーマイン+天然白亜で描いています。
このように白を混ぜることを「具」にすると言います。
カーマインは染料系の透明色で厚みがないため
具にすることによって厚みと不透明感を出そうとしています。


彩色3・・・・・・・・・



花に水銀朱を使い始めました。
水銀朱は紀元前から使われている人造顔料で、日本画の赤の代表的な絵具でもあります。
硫化水銀という成分でできた顔料です。
日本画には同じ成分の「辰砂(しんしゃ)」という天然岩絵具の赤もあります。

彩色4・・・・・・・・・



花に粒子のある岩絵具(13番)を使い始めました。

この段階までは多少説明的に描いています。
描写によって花の形は描けてきましたが、たっぷりとした印象がありません。
本当の絵作りはここからなのですが、この先の仕事の進め方に迷いがありました。
そこで私はしばらく制作を中断し、他の作品に移ることにしました。
こういうときのために、私は常に複数の作品を同時に描いています。
朝起きた時に、今日描きたい絵に自然に手が伸びる…、そういう描き方をしています。
この時は7点ほど描いていました。

その後二ヶ月くらい、この作品に手を入れることはありませんでした。


完成・・・・・・・・・

ついにこの作品に手が伸びる時がやってきました。
それからは一気に仕上げていきました。
思い切って花に絵具をかけ、細かい描写を潰して、最低限の描写で色とボリュームを強調しました。



これが完成の状態です。

赤は私が一番神秘的に感じる色です。
古墳の石棺に塗られた赤、平安時代の仏画の赤。
こんな色があるのか…と嘆息するほど神秘的な赤です。
私が赤い花を描く理由の一つは、赤に対する憧憬なのかもしれません。

-------------- Ichiro Futatsugi.■

コメント (2)
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