今年5月初めの仕事場の一隅です。
4月に池袋三越で個展があり、その残務も終わって制作を再開した直後の状態です。
写真では分かりづらいと思いますが、右側に描きかけのシクラメンの絵があります。
これから、この作品の制作過程を紹介することにします。
本当は、制作途中を人に見られるのは冷や汗ものなのですが…。
下描き・・・・・・・・・
この作品は41x31.8cm(6号F)という大きさです。
私はパネルに紙を貼り、その上に直接鉛筆で下描きをしていきます。
日本画では原寸大の下図を作って、それをカーボン紙などで移すという方法が一般的ですが
私は原寸大の下図を作ることがほとんどありません。
構図や物の形が一応決まるまでは、鉛筆を寝かせて柔らかく描きます。
一通り形が決まったら、鉛筆を立てて濃く描いていきます。
最初から濃く描いてしまうと、修正する際に紙を痛めるからです。
紙は和紙ですから、繊維が毛羽立ちやすいのです。
彩色1・・・・・・・・・
さて下描きができましたので彩色に移ります。
鉛筆で下描きをしていますので、彩色に入る前に全面にニカワを塗っておきます。
ニカワとは日本画用絵具の接着剤です。
動物の皮などから抽出する動物性たんぱく質で、ゼリー作りに使うゼラチンと同質のものです。
最初にニカワを塗るのは、鉛筆の定着と、これから塗る絵具と紙の馴染みをよくするためです。
これが最初の下塗りの色です。
花はミネラルヴァイオレットに少量の天然白亜(白色。石灰岩が風化したもの)を混ぜたもの。
これは日本画用の絵具ではなく、油絵具や水彩絵具の原料となる微粒子の粉末顔料です。
葉は岩絵具(いわえのぐ)の緑青に岩絵具の方解末(白色)を混ぜたもの(11番)。
背景は岩絵具の枯葉色(11番)。
11番というのは粒子の粗さを示す番号です。
日本画の岩絵具は粒子があり、1色につき6段階くらいに粒子分けされています。
粒子によって色合いが異なり、細かくなるほど白っぽくなります。
彩色2・・・・・・・・・
花はカーマイン+天然白亜で描いています。
このように白を混ぜることを「具」にすると言います。
カーマインは染料系の透明色で厚みがないため
具にすることによって厚みと不透明感を出そうとしています。
彩色3・・・・・・・・・
花に水銀朱を使い始めました。
水銀朱は紀元前から使われている人造顔料で、日本画の赤の代表的な絵具でもあります。
硫化水銀という成分でできた顔料です。
日本画には同じ成分の「辰砂(しんしゃ)」という天然岩絵具の赤もあります。
彩色4・・・・・・・・・
花に粒子のある岩絵具(13番)を使い始めました。
この段階までは多少説明的に描いています。
描写によって花の形は描けてきましたが、たっぷりとした印象がありません。
本当の絵作りはここからなのですが、この先の仕事の進め方に迷いがありました。
そこで私はしばらく制作を中断し、他の作品に移ることにしました。
こういうときのために、私は常に複数の作品を同時に描いています。
朝起きた時に、今日描きたい絵に自然に手が伸びる…、そういう描き方をしています。
この時は7点ほど描いていました。
その後二ヶ月くらい、この作品に手を入れることはありませんでした。
完成・・・・・・・・・
ついにこの作品に手が伸びる時がやってきました。
それからは一気に仕上げていきました。
思い切って花に絵具をかけ、細かい描写を潰して、最低限の描写で色とボリュームを強調しました。
これが完成の状態です。
赤は私が一番神秘的に感じる色です。
古墳の石棺に塗られた赤、平安時代の仏画の赤。
こんな色があるのか…と嘆息するほど神秘的な赤です。
私が赤い花を描く理由の一つは、赤に対する憧憬なのかもしれません。
-------------- Ichiro Futatsugi.■
4月に池袋三越で個展があり、その残務も終わって制作を再開した直後の状態です。
写真では分かりづらいと思いますが、右側に描きかけのシクラメンの絵があります。
これから、この作品の制作過程を紹介することにします。
本当は、制作途中を人に見られるのは冷や汗ものなのですが…。
下描き・・・・・・・・・
この作品は41x31.8cm(6号F)という大きさです。
私はパネルに紙を貼り、その上に直接鉛筆で下描きをしていきます。
日本画では原寸大の下図を作って、それをカーボン紙などで移すという方法が一般的ですが
私は原寸大の下図を作ることがほとんどありません。
構図や物の形が一応決まるまでは、鉛筆を寝かせて柔らかく描きます。
一通り形が決まったら、鉛筆を立てて濃く描いていきます。
最初から濃く描いてしまうと、修正する際に紙を痛めるからです。
紙は和紙ですから、繊維が毛羽立ちやすいのです。
彩色1・・・・・・・・・
さて下描きができましたので彩色に移ります。
鉛筆で下描きをしていますので、彩色に入る前に全面にニカワを塗っておきます。
ニカワとは日本画用絵具の接着剤です。
動物の皮などから抽出する動物性たんぱく質で、ゼリー作りに使うゼラチンと同質のものです。
最初にニカワを塗るのは、鉛筆の定着と、これから塗る絵具と紙の馴染みをよくするためです。
これが最初の下塗りの色です。
花はミネラルヴァイオレットに少量の天然白亜(白色。石灰岩が風化したもの)を混ぜたもの。
これは日本画用の絵具ではなく、油絵具や水彩絵具の原料となる微粒子の粉末顔料です。
葉は岩絵具(いわえのぐ)の緑青に岩絵具の方解末(白色)を混ぜたもの(11番)。
背景は岩絵具の枯葉色(11番)。
11番というのは粒子の粗さを示す番号です。
日本画の岩絵具は粒子があり、1色につき6段階くらいに粒子分けされています。
粒子によって色合いが異なり、細かくなるほど白っぽくなります。
彩色2・・・・・・・・・
花はカーマイン+天然白亜で描いています。
このように白を混ぜることを「具」にすると言います。
カーマインは染料系の透明色で厚みがないため
具にすることによって厚みと不透明感を出そうとしています。
彩色3・・・・・・・・・
花に水銀朱を使い始めました。
水銀朱は紀元前から使われている人造顔料で、日本画の赤の代表的な絵具でもあります。
硫化水銀という成分でできた顔料です。
日本画には同じ成分の「辰砂(しんしゃ)」という天然岩絵具の赤もあります。
彩色4・・・・・・・・・
花に粒子のある岩絵具(13番)を使い始めました。
この段階までは多少説明的に描いています。
描写によって花の形は描けてきましたが、たっぷりとした印象がありません。
本当の絵作りはここからなのですが、この先の仕事の進め方に迷いがありました。
そこで私はしばらく制作を中断し、他の作品に移ることにしました。
こういうときのために、私は常に複数の作品を同時に描いています。
朝起きた時に、今日描きたい絵に自然に手が伸びる…、そういう描き方をしています。
この時は7点ほど描いていました。
その後二ヶ月くらい、この作品に手を入れることはありませんでした。
完成・・・・・・・・・
ついにこの作品に手が伸びる時がやってきました。
それからは一気に仕上げていきました。
思い切って花に絵具をかけ、細かい描写を潰して、最低限の描写で色とボリュームを強調しました。
これが完成の状態です。
赤は私が一番神秘的に感じる色です。
古墳の石棺に塗られた赤、平安時代の仏画の赤。
こんな色があるのか…と嘆息するほど神秘的な赤です。
私が赤い花を描く理由の一つは、赤に対する憧憬なのかもしれません。
-------------- Ichiro Futatsugi.■