映画感想(ネタバレもあったり)

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これ観て戦意高揚できる? 国策映画『土と兵隊』(1939年)

2024-06-28 | 映画感想

土と兵隊(1939年製作の映画)
製作国:日本
上映時間:155分
監督 田坂具隆
原作 火野葦平
出演者 小杉勇 井染四郎 見明凡太朗



目次

  1. 「国策映画ってそもそも何だ?」というフェーズ
  2. この映画観て戦意高揚する??
  3. ①日本軍の強さ②兵士たちの仲の良さ・人の良さ。
  4. 主演の小杉勇と人間ドラマ部分は確かに魅力的
  5. ただただ歩く
  6. 7割くらい何言ってんのかわかんない
  7. 本物の武器&演習映像
  8. 以下、ネタバレ



「国策映画ってそもそも何だ?」というフェーズ


先日『関心領域』を観て以降(まだ感想書けてない…)、グルグル考えちゃって現在は「国策映画ってそもそも何だ?」というフェーズにおります(どこ)。

古川隆久著『戦時下の日本映画 人々は国策映画を観たか 』も並行して読んでいます。
意外と国策映画はヒットもしなかったし国民は娯楽映画やニュース映画に流れていたし、批評家からの評価も低かった。
というのが面白かったです。
まだ読み始めたばかりですが。。

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この映画観て戦意高揚する??

この『土と兵隊』。
まず単純にこの映画観て戦意高揚する??っていうくらいに淡々と〝はい、地獄です〟ってのを表現してると思いましたけど。

ただ、、この映画に対する現代のレビューをザッと読んだ感じでは
現在でも戦意高揚しちゃってらっしゃる方がいたので、、
人によっては国策映画として〝現在でも!〟機能しちゃうっぽいです。。
というか、
戦意高揚したい人は戦意高揚スイッチが敏感でいらっしゃるんですかね。

戦意高揚スイッチが硬めの人はむしろこの映画だと「戦争最悪〜。子供や孫を戦地に送りたくな〜い」としか思わないのだが。。

**

この映画、
戦後、国策映画だとしてGHQに接収され、現在残っているフィルムはGHQによって30分カットされたもの、ということなので〝やばいシーン〟はカットされていると考えていいでしょう。

なのでなかなか判断は難しいですが、
むしろ「戦争は人類の勝手なものであり、他の動物たちには関係のない迷惑なもの」というメッセージはセリフとして明確にされているシーンが残っているし、
行軍の悲惨さや
地元民の無惨な死、
敵兵との心の交流とも感じるような詩的なシーンなど
戦意高揚を主たる目的としてる映画にそもそも含まれているのが不思議と言えるようなシーンが多くみられました。

**

①日本軍の強さ
②兵士たちの仲の良さ・人の良さ。

ただ強烈に印象があるのは
①日本軍の強さ
②兵士たちの仲の良さ・人の良さ。

戦中に作られた戦争映画だけあって武器が本物。。
そして演習の映像も使われているようで、そのリアルさは圧倒されるし正直見入ってしまう映像的な魅力が強くありました。

②の「兵士たちの仲の良さ・人の良さ」については
軍隊にいじめがあったことは告発されているし、
そりゃもしかしたらこんなほのぼのとした隊が存在したのかもしれないけど
ほのぼのの方を2時間たっぷり描くのは意図的だし
実際にあった心温まるエピソードだけを膨らまして描いたとしたら
それは〝美化している〟と言われても仕方ないと思います。

<スリッパ構える古年兵 軍隊での「いじめ」、遺した兵士:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASP85775VP85POMB00P.html>

<ある自衛隊員の自殺 いじめやパワハラで生まれた“心の傷” :クローズアップ現代 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4500/ >

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主演の小杉勇と人間ドラマ部分は確かに魅力的

人間ドラマ(休憩シーン)は、戦闘シーンとの対比もあるし「こうであって欲しいなぁ」という希望もあって、ほのぼのしながら観ました。

主演の小杉勇の野性味ありつつ憂いを帯びた表情が素晴らしいし、笑顔は笑顔でカラッとして豪快で、主演俳優としてかなり魅力的。

ちなみに小杉勇は戦前は「傾向映画」の新しいスターとして活躍していた、と。
傾向映画ってのは当時の経済恐慌や社会文化状況を反映して、階級社会の暴露や闘争を描いた〝左翼的〟な傾向のある映画のことのよう。




**

ただただ歩く

陸軍なので?とにかく歩く。
泥濘だろうと岩場だろうと川だろうと速度を落とさず「うわぁ泥じゃん」的なリアクションもなくただただ歩く。

これが陸軍だと言わんばかりに歩くシーンが多いし、長い。

これが僕はとても良いと思いました。
しかもタイトルは『土と兵隊』。
歩く兵隊とかではなく、土。

原作小説を書いた火野葦平は日中戦争に招聘されたとのことなので、自分の体験もあるんでしょうか。
陸軍は土との闘いであり土と共に生きるというアンビバレントさを感じました。


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7割くらい何言ってんのかわかんない

あ、あとフィルムの状態がひどい。これは経年劣化ってことなんですよね。
当時はもっと映像も音も鮮明だったはずですよね。

もうね、頼むから日本語字幕つけて。。
そんな予算どこから出るんだってことか。。
7割くらい何言ってんのかわかんない。。
ネットであらすじを調べながら観ました。。

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本物の武器&演習映像

ドキュメンタリータッチで撮影されたとのことだけど、それがどういう撮影を意味してるのかはわからない。
戦闘以外のほのぼのシーン、人間ドラマシーンはめちゃくちゃセリフの決まった劇映画。

てことは戦闘シーンがおそらくドキュメンタリータッチなのでしょう。
まずおそらく武器が本物。。

手榴弾投げたりしてるけどあれも本物?危ないでしょ。。もし投げる場所しくじったら??

遠景撮影が多く、兵士の量が尋常ではない。
これが演習映像か。

あと、ただただ建物を銃撃するシーンが長くあるんですけどあれも演習かな。
敵が見えてこない。
敵側にカメラがない。これもドキュメンタリー感がある。

視点はずっと日本側だし、人間の視力以上に敵側が見えないのもドキュメンタリータッチと言えるかな。

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爆撃と兵士の距離が近すぎて心配。。

撮影技法によってそう見えるだけかも知んないんだけど。。
夥しい数の日本兵が
ぬかるみだろうと川だろうと岩場だろうと上り坂だろうと下り坂だろうとひたすらただ歩く。

セリフも音楽もない。

夥しい数。ほんとに。。

そうそう観たことないですよ、この数。。
馬もいる。犬も結構いる。

そしてたまに小休止。死ぬ寸前かのように疲れ切っている。





以下、ネタバレ




前衛が敵と衝突している間、ちょっと後ろにいる兵隊たちは草むらに仰向けになってほのぼのと「前衛が衝突してますなぁ」とかたらっている
「天皇陛下の恩ために…」と絶命する兵士
「立派だぞ」と長官。
塹壕で眠る兵士たち。
ひとりが「俺たちは何をしてるんだ。俺たちはいまどこにいるんだ」
「何を生意気な(笑)」
みんな笑う
さらに放屁。
「毒ガスは敵の方にやってくれ」
みんな笑う。
難民たちが逃げてくるんだけど中国の兵からも撃たれている。
(日本の捕虜にされると困るから?それは沖縄戦で日本兵もやったこと)
「ひどいことしやがる」
どうやら赤ちゃんひとりを残してなぜか難民全員死亡。
赤ちゃんの泣き声に耐えきれず敵の発砲の中、小杉勇は赤ちゃんのもとへ。
中国語らしき子守唄を歌う母親も絶命し歌が途絶える。
小杉勇は赤ちゃんに毛布をかけて泣き止ますことに成功。
そのに銃撃。その音に驚いて泣く赤ちゃん。
なくなくその場を離れる小杉勇。
敵のトーチカに手榴弾を投げ込んでトーチカの中に侵入。
無傷で生き残っていた(なぜ)敵兵と火野伍長との無言のやりとりや、
トーチカの中に散らばる弾薬や薬莢、中国語の書かれた紙などを淡々と映す。
子山羊を抱く若い兵士ふたり。
「コイツを戦争に巻き込むのは可哀想だ」
「戦争は絶対だ」
「それは人類の絶対であってヤギの絶対ではない」
「それはお前の感傷だ」
「感傷があるからこそ人生は美しい」
「その人生より絶対なのが戦争じゃないか」
「じゃあ」と子山羊を渡す
酒を見つけて運ぶ兵。
「今夜は一杯できるなぁ。」
五右衛門風呂に川から運んだリレー方式で水を貯める。
「まさか風呂に入れるとはなぁ」
「夜までには沸かすので伍長、先に入ってください」
弟よ、我々はまた前進するだろう
どこまで行くのかわからない
しかし堂々と我々はもはや進軍ができるだろう
こうしてこの進軍を続け得るものは自分の肉体ではないということを知ったのだ
俺も驚いたよ、靴を脱ぐと靴下が溶けて無くなってんだ
結構大きな街だったっぽいが建物が破壊されている様子が淡々と映される。
木には鳥の巣。野犬や猫たち。
そしてまた前進の命令が下る。
また無言で前進する兵士たち。
結局入らなかった風呂が結構長い時間映される。





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