想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫) 価格:¥ 600(税込) 発売日:2010-03 |
読了。同シリーズの第三巻にあたる作品。
とにかく面白かった!!
というか、この作品って一巻がすごく面白くて、かつすごくまとまっていたんですよね。で、こういう一巻がまとまってた作品って、二巻以降尻すぼみになって、「結局、一巻が一番面白かったなあ」となるのが定説みたいなもんだと思ってたんですが、巻を重ねても面白いままってすっごいよなあ。コレは快挙と言っても過言ではないと思う。
今回は、澪とその周囲の人たちの移り変わっていく日常を料理というキーワードに基づいて描くというベースはそのままに、一巻から続く「主人公・澪が生き別れになった幼なじみと徐々に距離を縮めていく」、「澪の保護者である芳の息子さんの探索」という二つの大きな流れがじわじわと前進した感じでしたが、この両方を過不足ないバランスで配置できるのはマジですげーや。
や、こういうのって長編小説の理想型だと思うんですけど、なかなか実現するのは難しいと思うのですよ。小さな流れ(=日常描写)のほうに傾きすぎて大きな流れを疎かにすれば中だるみしてしまいますし、逆に大きな流れのほうを意識しすぎると「作者の見えざる手」が視界に入ってしまってあまりにも物語が作り物めいてしまう。ですから、ここまで見事にミクロな展開とマクロな展開をバランスよく配置し、読者を飽きさせず、かつプロットの通りに物語を収束させていくという手腕に舌を巻いてしまいました。
個人的に、『想い雲』で一番気に入ったのはハモの話。
澪が野江と僅かながら邂逅するという展開はもちろんのこと、女料理人を舐めていた人たちが澪の卓越した料理の腕を目の当たりにして、何も言えなくなって
しまうというのが実に痛快でした。コレって俺TUEE要素なのよね。でもさ、ぶっちゃけハモってそんなに美味くねーよなwwww
あと、うまいなと思ったのは、「かつての芳さんとこの奉公人が実は悪い人でした」という伏線に、包丁の手入れがずさんだったというネタを仕込んだあたり。僕は『みをつくし料理帖』って一本ピンと軸が通った作品だと思っているんですけど、その要因ってやっぱ「料理」というメインテーマをあらゆるところで土台にするところなんだろうなと。
いやー、でもホント面白かった。続きが楽しみです。
この作品を教えてくれたQQQさんにはいくら感謝してもし足りないわ。
最後はどうでもいい話。
なんていうか、この作品に登場する美緒さんみたいな「鼻持ちならないお嬢様なのに、どこか憎めない」というキャラを上手く書ける人は、たぶんキャラクター描写の能力にもすごく長けていると思う。ようするに、いわゆるツンデレキャラを上手く書ける人は実力のある作家さんだと思う。だから逆に、ツンデレを暴力的だったり、単なるワガママだったり、そういう風に極端にしか書けない人は、キャラクター描写の能力が欠けているから、たぶん何を書いてもつまんねーんじゃないかなと思うのです。
つまり、腕のある作家かどうか見分けたいときは、ツンデレキャラに注目してみればいいんじゃないですか、という持論でした。
コレって結構当てはまると思うんだけどなー。どうかなー。