富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

青春の門/夜の青葉

2012-07-16 13:03:28 | その他の小説

立風書房版『富島健夫青春文庫5』 昭和52年9月初版 装丁:多田進、挿絵:谷俊彦

青春の門

学研レモンブックス 1966年2月2版(1965年8月初版) 装幀:和泉不二 写真:丸山勇 さしえ:谷俊彦
※きったない本だと思うかもしれませんが…この本、取り壊し前の冨島家から譲っていただいたものです。
 ボールペンの落書きが先生かお嬢さまのものかと思うといとおしくなります。

若手小説家である武之のもとに、父とけんかして家出したいとこの七重が突如現れ…。設定は『純子の実験』に似ているが、共有されていく互いの心、二人の世界の深まりと同時に、日常生活で起こるさまざまな出来事や交友関係も描かれ、舞台が閉鎖的でないところが『純子』とは異なる。旅やハプニング…富島の青春小説らしく、起こらなそうで起こりそうな展開は読者を飽きさせない。
主人公の七重は家出したり、親を巻いて恋人と旅行を企てるくらい、自分を持ち行動力のある少女だ。それでいて“不良”ではなく、学業をおろそかにせず家事も手伝う。男性からも女性からも愛される少女(嫉妬される部分もあるが)は読者のあたらしい模範となっただろう。七重は作者の理想の少女像であり、書き終えるのが惜しいというほど愛着があったらしい。

この小説のヒロイン七重は、情熱の少女である。その情熱には、そして、賢明な判断と理性のうらうちがある。だから作者は、安心して彼女をどこへでも旅立たせることができた。ぼくのもっとも好きなタイプの少女である。
雑誌「美しい十代」に連載しながら七重の行動を描くのは、作者のよろこびのひとつであった。連載が終わったときは、好きな子と別れねばならない悲しみを覚えたものである。
(「読者のみなさんへ」学研レモンブックス)

『純子の実験』の感想を書いたとき、富島ファン歴40年以上のしょうさんからメールをいただいた。わたしは性的な部分で共感するところが多かったが、しょうさんの着眼点は、自分の真実にしたがって行動する純子の姿であった。当時富島作品が“人生論”として読まれていたことがわかる。わたしが『純子』では気づかなかったこの部分が『青春の門』ではよりわかりやすく現れていたと思う。この作品は1964年「美しい十代」に連載され、後の「小説ジュニア」の時代よりは性的な表現はかなり少ない。それでも武之が七重の指をなめるシーンには驚いた。(性的な表現の採用については「夜の青葉」で少し後述する)

旅行のシーンが多いところが作品の舞台を幅広くしているが、興味深いのは武之が秋保温泉に旅行するところ。同行者に藤尾藤雄という漫画家が登場するが、その名の通り、モデルは富島氏と交流の深かった藤子不二雄(A)である。厳格な菜食主義者で、主食はスイカとバナナ。「負けるのはいやだし、勝つのはかわいそう」なので勝負事を嫌う、といったようにユーモアを込めて描かれている。我孫子素雄が富島と交流があったことを知る藤子ファンは少ないのではないか。そういう意味でファン必見の作品だと思うが、まあ藤子検索でこのブログにひっかかった人がいたら図書館で借りて読んでみてください。

ラストは『燃ゆる頬』に似た阿蘇山頂。「あなたが落ちたら、わたしもすぐに飛び込むわ」という台詞がつやっぽい。
あとがきでは、富島は武之が作者自身でないといいながら、自分自身の投影であることもほものめかしている。五木寛之より先の発表だったことも、自分のほうが「ずっと早い」と強調。富島氏がマネしたと誤った知識をお持ちのかたはご注意を。

夜の青葉

集英社 1962年10月初版 装幀:土井栄

日常に起こる数々の事件を主人公の良太が解決するというスタイルで進む作品。恋愛あり殺人事件ありともりだくさんだが、どれも中途半端な印象。「青春文庫」あとがきによると、元は学燈社「若人」に連載されたもので、独立した物語がつながって一つの長編となることを目指したようだが、それぞれの物語のつなぎは良太という登場人物のみで、統一感は今ひとつ。良太は深く問題に追求する印象のキャラクターなので、余計違和感がある。作者はこれに懲りて、その後の作品の挿話では、無理に話にこじつけることをやめたのではないだろうかと思った(『女人追憶』の七部のようになってもそれはそれで困るが)。若い人に遠慮ない重いテーマや社会的な問題提起もあったので、中途半端に終わっているのは残念だ。せっかくの『七つの部屋』のような雰囲気がもったいない。

掲載誌の「若人」は学生だけでなく、若い社会人も対象としていたものだったため、いわゆるジュニア雑誌より多少大人びた表現も許容されたのかもしれない。「××××したのか」というような直接的な表現も見られ、さすが「青春前夜祭」を掲載した雑誌だと思った(発禁になったのだが)。視点も男性的である。
こんな話を荒川さんとしていたら、作品に“性”を持ち込む富島氏の試みは「若人」で失敗し、その後「小説ジュニア」創刊号に発表した『制服の胸のここには』では表現を“接吻”にとどめ、それから長い年月をかけて『おさな妻』にまで読者や出版社をリードしていったんだ、という話をしてくれたのだが、それはそのうち「花と戦車 光と闇」で書いてもらおう。
恋愛小説とも青春小説とも推理小説ともいいがたい、読了後も消化不良で、正直失敗したな、ととわたしは感じたが、作者のあとがきでは満足しているようなので、何も言うまい。

集英社版には章題がついており、作品の雰囲気がうかがえると思う。
第一話 ぬれぎぬ
第二話 暗い青春
第三話 黒い潮風
第四話 白痴の恋
第五話 幻の日記
第六話 学級裁判
第七話 秀才失踪

2012年7月9日読了



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3 コメント

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夜の青葉の感想 (tentoku)
2012-07-17 20:40:38
一話ずつ読んでも、全体を通して読んでも、由比良太と北条朋子の恋愛を軸に物語が進行していくのを強く感じます。初めて読んだときは、まわりの事件は関係なしに、このふたりに強い絆を感じ、とても羨ましく思えました。私の勝手な感想ですが、富島氏はこの小説で、恋愛における男女の心根の違いを描いているものと思っています。好きな作品の1つです。
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夜の青葉 (しょう)
2012-07-17 21:56:45
わたしもこの作品は、大好きです。今風に言えば、石田衣良さんの『池袋ウエストゲートパーク』シリーズのような作りですね。

由比良太と真島誠、、とても似ているような気がします。
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うむー (ふみ)
2012-07-18 14:32:13
tentokuさんとは逆に、わたしは途中で“恋愛小説”として読むのをやめてしまったんですね。取り上げられている事件が良太と朋子の恋愛と対比して暗いものが多かったので、そっちのほうの掘り下げを期待してしまいました。「幻の日記」みたいな話が多かったらすんなりいったのですけれども…。

この感想にも男女差が…ないか(笑)。

しょうさん、『池袋ウエストゲートパーク』こんど見てみます。

「失敗」とまで書きましたが、わたしも嫌いではないです。わたしが付け足すより、お二人のコメントのほうが“名誉挽回”してくれていますね。
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