タイル張りのモダンな外壁
間口が4間ほどもある立派な構え
酒屋さんだと思うけど食品も雑貨も扱う所謂「よろずや」だ
むかしはこのスタイルの「よろずや」が集落に一つはあった
元の店が裏手に今も残るが
そちらもなかなかどうして立派な佇まいで
長い間、このあたりの生活を支えた核店舗だったのだろう
うちの近所にある「よろずや」と同じ「朝日屋」の屋号
ボクの近所の朝日屋さんが親しみをこめて「熊ジィさん」と呼ばれていたとおり
この朝日屋さんもきっと愛称があったんじゃァないかな
もう何年も前からシャッターが開かなくなっちまったけど
ここを通りかかるたびに店の前にオートバイを止めて
夏でも冬でもホットの缶コーヒーで一服(夏でもホットの設定があるのよ)
店のひさしが無くなってからは
勝手に横手のスペースにオートバイを乗り入れて
建物でできた日陰でのんびりさせてもらう
隣は酒屋のおかあさんの畑
草をむしったり、水をまいたりするおかあさん
夏の季節ならダリヤの花や大きく茂ったミニトマト
目が合うとどちらからともなく会釈する
お店が開いてた時はアイスクリーム買うときとかに何度か言葉を交わしたことがあるが
むさくるしいおっさんに声かけられても迷惑かなとも思うので
話しかけるのはちょっと遠慮していた
その日はとても暑くて、目が合った時に自然に声が出た
「まだ、毎日暑いですね」と
おかあさんは人懐こそうな笑顔で
「バイクは涼しいでしょ」という
「いいえね、案外暑いんですよ」
「そう?涼しそうに見えるけどねー」と顔いっぱいの笑みを返してくれる
畑が楽しみだが、このところの暑さで熱中症が心配だと息子さんに畑仕事を止められているそうだ
しかも何度もうるさくキツイ言い方をされるのでちょっと不満気だ
でもね、わかるんだよねその気持ち
ボクのおふくろはもう20年以上前に亡くなったんだけど
生きてるときはくだらないことが苦になって、しょっちゅうおふくろに怒ってた
でも、それはおふくろを心配してるからこそなんだけど
ほんとうになんであんなに怒ってばかりいたのか
今はわかる
心配してるなら、優しい言葉をかけなきゃ
死なれた後に気付いても、もうどうしようもないんだね
感謝し、心配してるなら、素直にそう云うべきなんだよ
「孝行したいとき親はなし」
ベタなこんな格言が残された息子にギューッとのしかかる
だから、おふくろくらいの年頃のお母さん見ると
関係ないのに優しい言葉をかけたくなる
せめてもの罪滅ぼしだ
お父さんは身体が良くなくて少し離れた施設にいるそうだ
きっとこの山の景色が恋しいだろうね
いい人たち
いい人はいいね
伊豆の踊子の少女のように、思った
いい人はいいね
いい人にいい人生を……
いい人になりたい
無理か