このところの暖かさに驚いたのは雲雀たち
どいつもこいつも慌てふためき
我先にと競いあっては花粉交じりの空へ昇っていく
おかげで長閑な冬枯れの田畑には
そこいら中でけたたましい囀りが響き渡ることになる
それはもう大騒ぎ
そういう人間様の方だって
予想外のこんな陽気
何とはなしにホッとした気持ちにもなるもんだ
雲雀たちも人間も同じ国に暮らす朋輩ということか
私事で云えば
この冬に新しいオートバイを手に入れたりしたもんだから
いつもの冬よりマシマシで
春を心待ちにしている
だからこんな陽気ならもう山へ行っても良いかも
と、途端にそわそわざわつき始める今日この頃だ
走り出してみると
まだまだ路面には乾ききらずにウェットパッチが残る
それでも気温はこの時期としては異様に高く
フリース素材のスウェットに綿のスイングトップを羽織っただけだ
首元を抜けていく風さえも心地よく感じる程だった
チェーンクリーナーを買いに寄った近くの用品屋
駐車場から空を見上げるともう青空だった
--――これなら山へ行ける(ウヒヒッ)
すっかり慣れたキックスタート一発
でもこれ本当にいい
「さぁ、行くぞィ!」とSRにも自分にも気持ちが入る
中央総合公園の丘陵を越えて
下山(しもやま)の方へ踏み込んでみた
両側に樹々が生い茂る細い県道には
このところ続いた風雨のせいで
枯れた枝が降り積もっていた
陽があたらぬ場所も多くて少し気を使うが
それでも山の道は久しぶりで楽しい
ワインディングではまだSRのステアを掴みきれていなくて
INに寄りすぎたり
コーナー出口で帳尻が合わなかったりはある
でもフロントの空気圧をデフォルトの1.75barにあわせてみたら
少し従順になったかな
体重がある方なのでリアのイニシャルをかけてみたのも良かったか
いや、こいつはかけない方が良いような気もする
やはり向き変えの指示を出してからINへ向かう感じがすごい
少し上体をかぶせて(肘をまげて)
アタマをステアリングヘッドのやや内に置いたまま
いつもよりコーナーの外側を少し長めにトレースしながら進入して
向き変えポイントでスッと抜いてやるだけで
SRが鋭く内向し始めるのがわかる
あまりエンジンを引っ張らずに小刻みにシフトアップして
トラクションをかけ続ける方が良いというコメントを聞くけど
5000rpm以上の振動やパワー感も悪くない
あの音と振動はエキサイティングだ
でも細かくシフト操作しながら
少し高いステアリングヘッドを右へ左へとやっていると
オフ車に乗ってるような楽しさが蘇る
知ってのとおりSRはXTベースなので
股間をタンク後端に乗せて
上体を立て、肘を張ると林道へも行けそうな匂いがする
もともとロングストロークのエンジンって好きじゃない
高回転高出力で育ったもんだから
ここが気持ち良くないと好きになれない
XLR250が楽しかったのはそれかな
たまに代車で貸してもらったブロンコも愛せそうな予感がしたし
キックスタートだって250レプリカやオフ車は当たり前だった
あれだな
家系の演出されたラーメンより
50年続いてる町中華のラーメンが旨い
これに似てる
SRを引き取って家へ向かいながら
ちょっと心配してたのは
もうクロ介(BMW R100)に乗らなくなっちゃうかなってことだった
R100の自分的なマイナスポイントは
停まっている時の取り回しの悪さだ
あとハンドルの切れ角が小さくてUターンに少し気をつかう事
まあこの2点だ
入ってはいけない所に入った時の対応がとても厳しい
何度かいっそ倒してシリンダーヘッド軸にして回そうかと思うくらい
ニッチモサッチモになることがあるのだ
少なくともSRにはそれは絶対ないのだろう
でも実を云えば
クロ介に乗らなくなるかもなんて不安は一瞬で払拭された
クロ介で走り出した瞬間
五感からどばーっとドーパミンが出るのを感じた
好きなんだから当たり前だけど
BMWフラットツインはモノが違うのだよ
良いか悪いか
上か下か
高級か低級か
そんな話ではない
SRとR100は「モノが違う」
SRは間違いなくスポーティーだ
24PSしかないけど
鋼管のフレームとスイングアームだけど
スポーツの魂がある
レーシーではなくスポーティー
誰よりも早く走り切るのではなく
オートバイを工夫して走らせるおもしろさ
それはワインディングだけでなく
シティロードでもカントリーロードでも可能だ
絶対速度に縛られずに走る楽しさを感じられる
これこそがSRの個性であり魅力だ
フラットツインの独自性や趣味性をもってしても
SRは不思議な魅力でライダーの心に忍び込む
そしてそのまましっかりとそこに根付いてしまうようだ