今年初めての本格的な寒波がやってきた
北から吹き付ける強い風は凍える冷たさで
改めて冬のつらさを思い知らされる
ガレージのシャッターを上げると
クロ介(BMW R100Trad)に冬の朝陽が差し込んだ
カバーを外しタンクに掛けた毛布を剥ぐと
クロ介の金属のボディをゆっくりと解すように光が包む
左右の燃料コックを開けて
チョークを一杯に引き
セルを回す
点火の微妙な兆候を察知してそれをスロットルで掬い上げてやると
1000ccのフラットツインは容易く目覚める
真冬はこのまましばらく暖機運転する
ヘルメットをかぶりグローブをはめながら
クロ介の周りをゆっくり一周して機体をチェックしていく
ミラーやメーターの曇りやスイッチの動作
パーツの取り付き具合とか灯火の具合とか
オイル漏れ、タイヤのトレッドの様子
そんなところか
アイドリングが上がり始めたらチョークを戻して
スロットルをわずかに開けて固定する
左右一体成型のでかいクランクケースに熱が回るにはまだ時間がかかるけど
この辺りで走り出すことにする
気持ち長めにゆったりとクラッチミートさせて発進
1速を少し引っ張ってガスを抜いてやる
シフトアップして2速
3500rpm 60km/h
しっかりと着込んだはずのウエアでもどこかから冷気が忍び込んで
その寒さで体に思わず力が入るのか
体中の関節がぎこちなく
ポジションがなんとなくしっくりこない
冬の「あるある」だ
自宅周辺の脇道から県道との合流点で
まだ怪しいエンジンをストールさせないように
スロットルに少しテンションをかけながら停止する
合流して3速までシフトアップ
エンジンの音は明らかに軽く滑らかになり
クロ介からもようやく「GO」サインが出る
緩やかだけど深いコーナーが左右に連続するいつもの場所
目線の移動だけでゆったりとリーンをはじめ
外足を支点にして内側に荷重を強め
フロントの舵が追従する感覚を確かめる
切り返しのタイミングで内足のステップに荷重して車体を起こしながら
それをそのまま支点にして反対側へリーン
これが無意識でできていれば問題ない
国道へ出るまでに他にもまだルーティーンがある
一旦停止からの左折
一旦停止からの右折
低速でのクランク(国道の側道が下をくぐっている箇所だ)
国道に合流してからの素早い加速
などなど
その一つ一つを試すのがとても楽しい
いつもの散歩コースはこの国道を少し走ったあと
3桁の国道に分岐して山に入っていく
峠が2か所
高速巡行できるエリアが3か所
山に入ると信号はほぼ無いし
いつも行く「涼風の里」までは約50kmあるけど
所要時間は50分くらいかな
おんなじ道を走っていてもその日によって感じることは違う
景色の事じゃなくて
オートバイと自分のことだ
何処へ行くのかとか
何を喰おうかとか
誰と行こうか
そんなことよりオートバイとのコミュニケーションばかり考えている
そしてそれが何より楽しい
コンビニまでカブを走らせても
ツアラーで九州まで一気に走り通しても
その楽しさは全く変わらないし
そして
初めて友達のオートバイのスロットルをブリッピングした16の時と
(その時のボクの顔を見て友達は「オマエ、オートバイにきっと乗るぞ」と云った)
何十台ものオートバイを乗り継いで
何万キロも日本中を走り回った今も
オートバイに対するときめきがまったく変化していない
大声で叫びたいぐらい
オートバイが好きだ
ただそれだけだ
天気予報ではあんまり良さそうなことは云ってなかったけど
なかなかどうしての快晴だった
風も無くて今年最後のクロ介との散歩は楽しかった
山はすっかり枯れ果てて
木々の尖った枝先がツンツンと真っ青な冬の空を突き刺す
それでもどの枝にもしっかりと春に芽を吹く蕾がびっしり付いて
なんだかその生命力がとっても頼もしく見えた
椅子を広げてコーヒーを淹れ
のんびりと風景たちを眺める
枝から枝へエナガの群れが飛び回る
皆一様にチュビチュビとうるさく囀って
ボクの頭の上をあちらからこちら
そしてまたこちらからあちらへと忙しない
けれどその小さな体に似合わぬ程の長い尾を上下に振って
器用にバランスをとる姿がとても愛らしい
「君たちはここで冬をやり過ごすんだね」
今日ここへ来るあいだも
きのう降ったのか雪が残っていたし
一日中陽の当らない山陰は道路が湿って黒くなっていた
気を付ければおそらくこの辺りなら真冬でも入れるのかもしれないけれど
凍結の不安を抱えたままでは全く楽しめないので
1月、2月は山へ向かわないことにしている
だから「涼風詣で」も今日が今年最後になるだろう
その分少し感傷的な気分で山や川を眺めた
先日も書いたとおり
もう来年が当たり前にくる年齢ではない
もちろんわかっている
死ぬことより生きることをこそ考えるべきだ
明日が来ないと分かってもそれは明日にならなければ分からない
明日、何して遊ぼうかな?
それの繰り返しが人の営みだ
クロ介を手元に置いて丸3年がたった
10年以上店頭に放置(展示?)されていた車両なので
徐々に不具合をつぶしながら機械としての信頼を深めていった期間だった
それとそれまで乗っていたR1150RTを売却して
自分自身が長距離のライディングから遠ざかっていたこと
壮年期に入って明らかに身体機能が落ちている自覚があることなど
乗り手のリハビリとリビルドが必要だったこともあって
ロングツーリングをあえて控えていた
けれど500kmを超えるようなツーリングも
以前のように
というかそれ以上に
こなせるだけの技術とフィジカルとメンタルが
身に付いてきたように感じている
なので、来シーズンからはもう少しいろいろなところへ走りに行きたい
来年クロ介と遠乗りすることを楽しみにしている
今年もたくさんの人に読んでいただきとても感謝しています
歳を重ねた分いろいろと感じるところも多くなって
よせばいいのにあれこれ悪態をついてばかりで......
けれど正直な気持ちなのでそこに少しでも何か感じていただければと
このブログにもいつまでも蹴りがつけられないのかもしれません
オートバイという不思議な乗り物が
なぜだかボクの心と響き合うその感覚を
同じように響く人たちに感じてもらえれば
というのが原点です
いまはまだとてもそんな実感がないので
もう少し続けさせてもらえればと思っています
ということで来年もまだまだ走るよ
そしていつかどこかの路上で
良いお年をお迎えください