ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

暗く湿ったフェリーの船倉で待つアイツを思うと少し気が晴れた 北海道のこと その4

2024年06月15日 | SR400 RH16J(2019)シータ


本州に住む者にとって

北海道とその他の地との決定的な違いはここだ

自宅の前の道路にオートバイを出して

いつもの路地を抜け、幹線の国道へ出る

そのまま野を越え山を越え

いつかの街を行き過ぎて

海を越える大きな橋を渡ったり

まだ見ぬ地につながる道路を走り抜け

そしてもうここより先に道はないと辿り着いた先に

ぽかりと浮かぶ海の向こうの大きな島



ツーリングをしていると

ずいぶん遠くまで来ちまった、と感慨に耽る時があるが

それは家の前からこんなところまで「道」はつながっているのだ

という事への感慨でもある

そして最果ての岬の先に浮かぶあの大地へは

その「道」はなんと繋がらないのだ

北海道とそれ以外の地の決定的な違い

それは「道が繋がっているのか、いないのか」だ





北海道が島ならば船に乗り込む必要がある

北海道を目指す長距離フェリーの航路にはいくつかあるが

愛知に住むボクには名古屋港から出る太平洋フェリーが馴染みだ

全長が200mもある巨大な船

4層の船倉の上に4つのデッキがある

家から名古屋港のフェリーターミナルまでは約50kmで1時間強

ごみごみした名古屋へのアプローチと工業地帯の通過で案外疲弊する

しかもフェリーへの積み込みの都合で出航時刻90分前の集合が課せられている

ここからすでに「待ち」の過剰債務だ

乗船手続きが午後5時前に終わるとすると

苫小牧港で下船するまであと42時間もある

今回は午後6時過ぎの乗船だったので

外界とシャットアウトされた「禁固41時間」の刑だ

なにを大袈裟な、と思うだろうが

翌朝、房総半島沖を航行するフェリーから太平洋を眺めてみればわかる

海以外のものは何も見えず、視界にはただ水平線だけが左右に広がる世界

この海の向こうは「アメリカ」なのだよ

身体の奥深くから湧き上がる正体不明の恐怖

「広場恐怖症」というこころの病があるそうだが

そうでなくても自分が置かれている状況の怖ろしさに不安になるだろう

左舷を見ればかろうじて陸地が見られる

けれど2kmはあるかな、あの岸まで

ボクには絶対泳ぎ切れない



かく云うもののこんな巨大フェリーの船長は実は相当信頼できる

海技士1級免許を持つ者しか船長にはなれない

パイロットもそうだけど、こんな危うい乗り物を

信頼に足る乗り物にしているのは彼らのおかげだ

だからもちろんフェリーは心配ではない

問題はあまりに暇すぎて心に変調をきたす程だという事

ボクは気にならないけどモバイルの電波もあまりつながらない

(携帯電話の頃よりはずいぶん改善されたけどね)

それにエンジンなのかスクリュ―なのか

ずーっと小刻みに縦揺れがある

それは乗り物だから当たり前なんだけど

電車やバスと違って2日間ブッとおしの振動

これ案外慣れない

あと、立つとよくわかるけどやっぱり長い周期の揺れが絶えず来る

印象では房総沖がいちばん揺れる

潮目の関係ではないかしら(知らんけど)

とにかく閉じ込められ逃げ場を失いながら

延々と縦揺れをかまされるとやっぱりメンタルの弱いボクは

得体のしれない強迫観念に襲われて

落ち着かなく不安定な感情に陥ってしまう

北海道への着岸が待ち遠しいというより

どうしてわざわざこんな目にあいながら北海道へ行くのか

もう自分でもわからなくなってしまうのだ



けれど気分転換に大浴場へ行ってみたら本当に気分がすっきりし

食堂でバイキングを楽しみながらビールを空けると元気になった

まー所詮その程度の落ち込みだ

そうして我慢に我慢を重ね

延々と時間を浪費すること41時間

薄暗い船倉のかなたにぽっかり開いたゲートから

本当に「空っぽ」な気持ちで北海道の大地へと

オートバイを走り出させる

「ただいま、待たせたな北海道、約束どおりまた来たぜ」とつぶやく

そして5分後には支笏湖へ続く樹海の中の真っすぐな道にいるのだ

芽吹いたばかりの新緑の木々

少し冷たく感じる空気と青い空

「ああ、やっぱり北海道は特別だな」と

その時唐突にそして改めて感じるのだ



答えになっていない?

そうだね、ぜんぜん意味が分からない

道が繋がっておらず

フェリーに40時間も揺られて廃人同然となって送り込まれる大きな島

でもこれ以外に北海道がその他の場所とは違う特別さは思いつかない

だって、これってやっぱり特別じゃない?

フェリーの中でぼんやり音楽を聴いたり本を読んだり

ご飯を食べ、酒を飲み、寝台でテレビを眺め

そんなさなか、ふと暗く湿った船倉で

同じように時を待つ相棒のこと(オートバイね)を考える

起きてるかな?それともずーっとウトウトしていやがるのかな?

大きな荷物を積んだまま置いてきたから身体が痺れたとか文句云うかな?

こんなオートバイとの濃密な時間は北海道ツーリングならではと思うけどな



もう北海道へ行くこともないだろうと走り始めたが

やはり機会があればもう1回は行きたい

まだ道南が走れていないのと能取岬へ行けなかった(コンディション最悪のため)ので

少し心残りがある

機会があれば、なんて云ってる年齢ではないか

うん、なんとかしてここ数年内には計画しよう

北海道は楽しかった



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