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◇企業システム◇NTTデータなど9社が「発注者ビューガイドライン」完成

2008-04-06 20:12:43 | システム開発
 NTTデータなど9社は、「実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会(発注者ビュー検討会)」により検討し07年9月18日に公開した「発注者ビューガイドライン(画面編)」に続き、「発注者ビューガイドライン(システム振る舞い編)」「同(データモデル編)」を策定し、08年3月18日から「発注者ビュー検討会」公式ホームページで公開した。検討会各社は今後、同ガイドラインを積極的に活用することで顧客との認識の齟齬を減らし、コミュニケーションの円滑化を図ることにしている。なお、06年4月以降はその活動の中心を9社から「情報処理推進機構ソフトウエア・エンジニアリング・センター(IPA SEC)」に移行し、さらなる普及・改善を図ることにしている。(08/03/18発表)

 【コメント】最近のSI業界の大きな話題の一つに挙げられるのが、SI企業とユーザーとの相互の意思疎通の不十分さが引き起こすシステム構築にまつわるトラブルである。例えば最近の例としてはスルガ銀行が日本IBMに対して行った111億700万円に上る損害賠償請求訴訟事件が挙げられる。スルガ銀行側では「04年9月に『新経営システム構築プロジェクト』を開始し、システム開発を日本IBMに委託したが、日本IBMの債務不履行により経営システムの開発を中止せざるを得なくなったことに対して、当社が被った損害の賠償を求めたもの」としている。ことの真実は今後裁判で明らかにされようが、SI企業(日本IBM)とユーザー(スルガ銀行)の間の意思疎通が上手く行ってなかったことが原因と思われる。このほか最近の事例としては東京証券取引所の株式売買システムの一時売買停止事件があった。これは必ずしもとSI企業(富士通)とユーザー(東証)の意思疎通の問題とは違うかも知れないが、株式売買という業務を富士通側が十分に把握していたかどうか、疑問が残る。

 このように、SI企業とユーザーの意思疎通を取ることは非常に難しい問題だ。この背景にはSI企業側では、多少業務内容が不明確でも、今期中の売上げ達成のために受注契約を最優先して、詳細のシステムの詰めは後からということに走りがちだ。一方、ユーザー側ではSI企業側が自分達の業務を十分に把握しているとはやとちりして、後でSI企業側の不認識を知ることが往々にある。このような行き違いをなくそうとNTTデータ、富士通、NEC、日立製作所、構造計画研究所、東芝ソリューション、日本ユニシス、OKI、TISの9社が集まりガイドライン作りをしてきたのが「発注者ビュー検討会」である。この検討会の趣旨は誠に正しく、是非ガイドラインの実施に向けて動き出してもらいたいものだが、そうは簡単に話は終わりそうもない。東京都が中小企業への銀行の貸し渋り対策として新銀行東京を設立した問題と似てくる。つまり、趣旨は正しいのだが、本当に実現できるのかという問題だ。

 よく、国際標準化案に準拠しているといいながら、実は自社製品では独自仕様を提供しているということが往々にしてある。今回のガイドラインも、今後ガイドラインに沿ってSI事業を展開したいといいながら、自社のシステム構築では従来と変わっていなければガイドラインを作った意味がない。建築業界も姉歯事件が表面化する前までは、制度ができているので問題が生じることはないと思っていた。何事も制度を作ってもそれを実行しなくては、制度を作らないのと同じだ。果たして今回ガイドラインを作った9社は、自社のシステム構築事業に今後、今回のガイドラインを全面採用していくのか。その意味からすると、今回ガイドラインを作った9社の社会的責任は決して小さくないと思うのだが。(ESN)