縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
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“苫小牧”の受難

2006-08-21 23:57:58 | お金の話
 今日、甲子園で2日がかりの決勝戦を制したのは早稲田実業だった。4連投となった早実・斎藤投手の気迫の投球には本当に頭が下がる。また、敗れたとはいえ、田中投手を中心に多くのドラマを見せてくれた駒大苫小牧にも大きな拍手を送りたい。
 そう、今日のタイトル、「“苫小牧”の受難」というのは、駒大苫小牧が残念だったという意味も若干はあるが、メインは違う。王子製紙の話である。

 苫小牧には王子の主力工場がある。今はどうか知らないが、昔、JR苫小牧駅一帯は、ほとんど王子の土地だった。病院やショッピングセンター、それにホテルまで、頭に“王子”の付くものばかり。まさに企業城下町の典型である。歴史や知名度を考えても、苫小牧は新日鉄の八幡(北九州)と並ぶ企業城下町といえる。苫小牧工場の設立は1910年、王子の原点といえる工場である。加えて、一方の八幡は高炉が止まって久しいのに対し、苫小牧は新聞用紙を主に今も王子を代表する工場となっている。

 さて、今月1日に王子と北越製紙の話を書いたが、現状は王子の分が極めて悪い。日本製紙の参戦もあって、ほとんど勝負あったという感じである。この意味で「“苫小牧”の受難」とした。
 個人的には、今回の騒動、王子の方が理に適った、筋の通った行動をしていると思う。わが国で初めての大企業による敵対的買収と騒がれているが、その行動自体は非難されるものではない。まあ、非難されるとすれば、本当の狙いは単なる拡大志向ではないか、売上高No.1を確実なものにしたいだけではないか、といった点か(勿論、王子は即座に否定するだろうが)。

 が、日本製紙の北越株購入や大王製紙の公取への上申書提出など、業界他社の動きを見ると、あながちこの拡大志向が嘘と言えない気がしてくる。北越が自分の傘下に入るのなら良いが、他社の、それも王子の傘下に入るのは断じて許さない、といった大人気ない行動にしか見えない。
 もう少し冷静に、王子による北越統合のインパクトを考えてはどうだろうか。設備を新設した北越が大増産に走るのは火を見るより明らかであり、市況悪化を招く可能性が高い。原材料コストが上がっても、その価格転嫁は難しいだろう。北越が王子のコントロール下で市況に配慮しつつ生産を行うのと比べ、どちらが良いと言うのだろう。

 もっとも話が役員や従業員(特に管理部門などのホワイトカラー)になると、そうはいかない。例えば、王子の役員構成を見ると、取締役10人の内訳は王子7人に本州3人。神崎出身者はゼロだ。また代表権を持つのは3人いるが、これはすべて旧王子の人間。北越の役員が反対するのも無理はない。
 今日、王子が新潟の地元紙に北越の従業員向けに統合への理解を求める意見広告を出したそうだ。おそらく工場の従業員にしてみれば経営がどうなろうと一生懸命働くことに変わりはないだろう。本来説得すべきは北越の役員だが、役員の地位を約束できないのでは何を言っても効き目はない。業界のために自らは甘んじて身を引こうと思う人間などいない。
 八方塞。細い、細い、それこそ蜘蛛の糸のような可能性しか残っておらず、まだまだ苫小牧の受難は続く。