1.まえがき
慣性系S(x,y,z)と回転座標系S'(x',y',z')について、ベクトルAおよび角速度ベクトルωを使って
dA/dt=δA'/δt+ω×A ・・・・・・・・・・・・・・①
という時間微分の関係式がある。しかし、この式が一般に図を使って導かれることからAやωが
一体どの慣性系の量であるか明確でない。さらに、δ/δt(d'/dt, (d/dt)' とか)という記号の意
味も明確でない。
これらについて考察するが、簡単のため、S、S'系の原点が一致する場合とする。なお、δ(d')は
変分・解析力学や熱力学でも不明確なまま使用されている。
2.ベクトルの時間微分
慣性系SのベクトルAは基本単位ベクトル(ex,ey,ez)を使って、
A=Axex+Ayey+Azez ・・・・・・・・・・・・・・②
と書ける。このベクトルAは回転系の基本単位ベクトル(ex',ey',ez')を使って、
A=A'=Ax'ex'+Ay'ey'+Az'ez' ・・・・・・・・・・・・・・③
となる。ここで、「'」は基底ベクトルを明示する記号となる。
このベクトルの時間微分は
dA/dt=dA'/dt={(dAx'/dt)ex'+(dAy'/dt)ey'+(dAz'/dt)ez'}
+Ax'dex'/dt+Ay'dey'/dt+Az'dez'/dt・・・・・④
となる。このとき、S'系の基本ベクトルの微分もS'系のベクトルとして
dei'/dt=ωix'ex'+ωiy'ey'+ωiz'ez' (i=x,y,z) ・・・・・・・・・⑤
と表される。このとき、直交関係 ei'・ej'=δij (i,j=x,y,z)を微分すると
(dei'/dt)・ej'+ei'・(dej'/dt)=0 が得られので
ωii'=0 , ωij'=-ωji'
の関係がある。つまり、ωij' のうち、有効なパラメータは3つであり、ω'を
ω'=ωyz'ex'+ωzx'ey'+ωxy'ez' ・・・・・・・・・・・⑥
と定義すると、⑤は
dei'/dt=ω'×ei' ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑦
となる。これを④に入れると
dA/dt=dA'/dt=δA'/δt+ω'×A' ・・・・・⑧
を得る。ここで
δA'/δt=(dAx'/dt)ex'+(dAy'/dt)ey'+(dAz'/dt)ez' ・・・・・⑨
であり、δ/δtは(時間微分に関係した)演算子であり、決して時間微分ではない。その意味
をみると、S'系に固定してみた(基本単位ベクトルが時間変化しないと考えた)時の時間微
分になっている。このため、時間微分のような演算子記号を使う意味がある。
ベクトルω'はS'系の基本単位ベクトルを使っているが、S系のものを使ってもかまわない。
それをωとすると ω=ω'であるから、上のA=A'も使って、⑧を書き換えると
dA/dt=dA'/dt=δA'/δt+ω×A ・・・・・⑧'
となる。ここで、定義⑨から δA'/δt→δA/δt とできないことを注意しておく。
つぎに、ベクトルAは任意だから⑧において A→ωとすると
dω/dt=dω'/dt=δω'/δt+ω'×ω'=δω'/δt ・・・・・・・・・⑩
となり、よく知られた結果を得る。このときωが定ベクトルならω'もそうなる。以上で表題
の関係式が導出過程とともに求められた。
3.ωの物理的な意味
以上の議論は数学的な形式論のため、元々形式的なω'における基底ベクトルを変えたωが何
を意味しているか今一つはっきりしない。そこで、簡単のため、ωが一定、AをS'系に固定さ
れた(S'系で一定の)ベクトルとしたとき、AのS系での挙動を調べる。すると δA'/δt=0
だから、⑧'は
dA/dt=ω×A ・・・・・・・⑩
つぎに、図2のようにAをωに平行な成分A₁と垂直な成分A₂に分ける。つまり、A=A₁+A₂、
ω×A₁=0 だから、⑩は dA₁/dt+dA₂/dt=ω×A₂ となる。A₁の方向は変わらないので、
dA₁/dt の方向もωとなる。そして、ω×A₂の方向はωに垂直な成分だけだから、dA₁/dt=0
である。
結局、⑩は dA₂/dt=ω×A₂ となる。 すると、これを使って
d(A₂・A₂)/dt=2A₂・dA₂/dt=2A₂・(ω×A₂)=2ω・(A₂×A₂)=0
となり、A₂の大きさが変化しない。したがって、ベクトルA、すなわち、それが固定された
S'系はS系に対して、角速度ωで回転していることがわかる。つまり、回転系S' におけるベ
クトルω'の慣性系S系への射影ωはS系に対するS'系の角速度ベクトルとなり、逆もそうなる。
4.加速度の変換式
回転座標の運動方程式を求めるため、加速度の変換をするとき⑧を使って A=r として2回
微分すると
dr/dt=δr'/δt+ω'×r'
d2r/dt2=(d/dt)(δr'/δt+ω'×r')=(δ/δt)(δr'/δt+ω'×r')+ω'×(δr'/δt+ω'×r')
=δ2r'/δt2+δω'/δt×r'+ω'×δr'/δt+ω'×δr'/δt+ω'×(ω'×r')
=δ2r'/δt2+δω'/δt×r'+2ω'×δr'/δt+ω'×(ω'×r') ・・・・・⑪
となる。ここで、δ/δt は、ベクトル(ex',ey',ez')を定数とみた微分なので、通常のベクトル
微分公式を使った。最後に、⑨と前に述べたように右辺の基本ベクトルを変換すれば
d2r/dt2=δ2r'/δt2+dω/dt×r+2ω×δr'/δt+ω×(ω×r) ・・・・・・⑪'
となるが、異なる基底ベクトルが混在しているので⑧' 以上に注意が必要となる。
簡単なのは、ωが一定の場合で、方向をz軸に取り、rがx-y平面にある場合である。このとき、
dω/dt=0、 ω×(ω×r)=(ω・r)ω-ω2r=-ω2r となり、
d2r/dt2=δ2r'/δt2+2ω×δr'/δt-ω2r ・・・・・・・・・・・・・⑫
を得る。勿論、右辺の最後のrは基本ベクトルを変更してr' でもよい。
以上をまとめるとベクトル式において A, dA/dt は基底べクトルを変更して A ⇔ A', dA/dt
⇔ dA'/dt としてもかまわないが、δA'/δt は基底ベクトルが固定されたものだから δA/δtに
変更することはできない。 ただし、ωについては⑩が成立つ。
以上
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