goo blog サービス終了のお知らせ 

特殊相対性理論・電磁気学・数学

物理の暗黒面や面白い問題など。

回転座標系のベクトル時間微分 dA/dt=δA'/δt+ω×A の意味

2019-03-30 10:39:57 | 力学

1.まえがき

 慣性系S(x,y,z)と回転座標系S'(x',y',z')について、ベクトルAおよび角速度ベクトルωを使って
    dA/dt=δA'/δt+ω×A   ・・・・・・・・・・・・・・①
 という時間微分の関係式がある。しかし、この式が一般に図を使って導かれることからAω
 一体どの慣性系の量であるか明確でない。さらに、δ/δt(d'/dt, (d/dt)' とか)という記号の意
 味も明確でない。

 これらについて考察するが、簡単のため、S、S'系の原点が一致する場合とする。なお、δ(d')は
 変分・解析力学や熱力学でも不明確なまま使用されている。



2.ベクトルの時間微分

 慣性系SのベクトルAは基本単位ベクトル(ex,ey,ez)を使って、
    A=Axex+Ayey+Azez      ・・・・・・・・・・・・・・②
 と書ける。このベクトルAは回転系の基本単位ベクトル(ex',ey',ez')を使って、
    A=A'=Ax'ex'+Ay'ey'+Az'ez'  ・・・・・・・・・・・・・・③
 となる。ここで、「'」は基底ベクトルを明示する記号となる。

 このベクトルの時間微分は
    dA/dt=dA'/dt={(dAx'/dt)ex'+(dAy'/dt)ey'+(dAz'/dt)ez'}
            +Ax'dex'/dt+Ay'dey'/dt+Az'dez'/dt・・・・・④
 となる。このとき、S'系の基本ベクトルの微分もS'系のベクトルとして
    dei'/dt=ωix'ex'+ωiy'ey'+ωiz'ez' (i=x,y,z) ・・・・・・・・・⑤
 と表される。このとき、直交関係 ei'・ej'=δij (i,j=x,y,z)を微分すると
 (dei'/dt)・ej'+ei'・(dej'/dt)=0 が得られので
    ωii'=0 , ωij'=-ωji'
 の関係がある。つまり、ωij' のうち、有効なパラメータは3つであり、ω'を
    ω'=ωyz'ex'+ωzx'ey'+ωxy'ez'     ・・・・・・・・・・・⑥
 と定義すると、⑤は
    dei'/dt=ωei' ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⑦
 となる。これを④に入れると
    dA/dt=dA'/dt=δA'/δt+ωA'          ・・・・・⑧
 を得る。ここで
    δA'/δt=(dAx'/dt)ex'+(dAy'/dt)ey'+(dAz'/dt)ez'  ・・・・・⑨
 であり、δ/δtは(時間微分に関係した)演算子であり、決して時間微分ではない。その意味
 をみると、S'系に固定してみた(基本単位ベクトルが時間変化しないと考えた)時の時間微
 分
になっているこのため、時間微分のような演算子記号を使う意味がある

 ベクトルω'はS'系の基本単位ベクトルを使っているが、S系のものを使ってもかまわない。
 それをωとすると ω=ω'であるから、上のA=A'も使って、⑧を書き換えると
    dA/dt=dA'/dt=δA'/δt+ω×A          ・・・・・⑧'
 となる。ここで、定義⑨から δA'/δt→δA/δt とできないことを注意しておく。

 つぎに、ベクトルAは任意だから⑧において Aωとすると
    dω/dt=dω'/dt=δω'/δt+ωω'=δω'/δt ・・・・・・・・・⑩
 となり、よく知られた結果を得る。このときωが定ベクトルならω'もそうなる。以上で表題
 の関係式が導出過程とともに求められた。

3.ωの物理的な意味

 以上の議論は数学的な形式論のため、元々形式的なω'における基底ベクトルを変えたωが何
 を意味しているか今一つはっきりしない。そこで、簡単のため、ωが一定、AをS'系に固定さ
 れた(S'系で一定の)ベクトルとしたとき、AのS系での挙動を調べる。すると δA'/δt=0
 だから、⑧'は

    dA/dt=ω×A   ・・・・・・・⑩
 つぎに、図2のようにAωに平行な成分A₁と垂直な成分A₂に分ける。つまり、A=A₁+A₂、
 ω×A₁=0 だ
から、⑩は dA₁/dt+dA₂/dt=ω×A₂ となる。A₁の方向は変わらないので、
 dA₁/dt の方
向もωとなる。そして、ω×A₂の方向はωに垂直な成分だけだから、dA₁/dt=0
 である。


 結局、⑩は dA₂/dt=ω×A₂ となる。 すると、これを使って
    d(A₂・A₂)/dt=2A₂・dA₂/dt=2A₂・(ω×A₂)=2ω・(A₂×A₂)=0
 となり、A₂の大きさが変化しない。したがって、ベクトルA、すなわち、それが固定された
 S'系はS系に対して、角速度ωで回転していることがわかる。つまり、回転系S' におけるベ
 クトル
ω'の慣性系S系への射影ωはS系に対するS'系の角速度ベクトルとなり、逆もそうなる。

4.加速度の変換式

 回転座標の運動方程式を求めるため、加速度の変換をするとき⑧を使って A=r として2回
 微分すると
    dr/dt=δr'/δt+ωr'
    d2r/dt2=(d/dt)(δr'/δt+ωr')=(δ/δt)(δr'/δt+ωr')+ω'×(δr'/δt+ωr')
         =δ2r'/δt2ω'/δt×r'+ω'×δr'/δt+ω'×δr'/δt+ω'×(ωr')
         =δ2r'/δt2ω'/δt×r'+2ω'×δr'/δt+ω'×(ωr') ・・・・・⑪
 となる。ここで、δ/δt は、ベクトル(ex',ey',ez')を定数とみた微分なので、通常のベクトル
 微分公式を使った。最後に、⑨と前に述べたように右辺の基本ベクトルを変換すれば
    d2r/dt22r'/δt2+dω/dt×r+2ω×δr'/δt+ω×(ω×r) ・・・・・・⑪'
 となるが、異なる基底ベクトルが混在しているので⑧' 以上に注意が必要となる。

 簡単なのは、ωが一定の場合で、方向をz軸に取り、rがx-y平面にある場合である。このとき、
 dω/dt=0、 ω×(ω×r)=(ωr)ω2r=-ω2r となり、
    d2r/dt22r'/δt2+2ω×δr'/δt-ω2r ・・・・・・・・・・・・・⑫
 を得る。勿論、右辺の最後のrは基本ベクトルを変更してr' でもよい。

 以上をまとめるとベクトル式において A, dA/dt は基底べクトルを変更して A ⇔ A', dA/dt
 ⇔ dA'/dt としてもかまわないが、δA'/δt は基底ベクトルが固定されたものだから δA/δtに
 変更することはできない。 ただし、ωについては⑩が成立つ

以上


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パノフスキーに始まる起電力... | トップ | 始まりの記 »
最新の画像もっと見る

力学」カテゴリの最新記事