遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「炎のリーフ」

2010-09-11 | 現代詩作品
炎のリーフ(友が残した熱い記述の頁から)



あの頃のきみは新宿の「汀」だったか「木馬」だったか、いつも入り浸ってい
た。きみは本当に風となってぼく(ら)を残して消えたけれどぼく(ら)の眼
底からは消えることはない。深い落胆にも稚拙なコード進行の緑の風は吹いて
いたから。


  眼の底にふきだまる
  糸くずのような嫉視感をひっぱると
  うっすらと現れる 地図のような記憶
  空気にふれるとたちまち変色する
  夕べの悪意に
  世界の首はへし折られて
  なすすべをしらない不惑の掌のうえで
  握り潰される微細な日々。


彼が残していった一九六〇年から六八年までの古い雑記帳には、コルトレーン
の『至上の愛』を中心としたジャズ・レコードの感想および論考と一緒に米国
黒人史といっていい記録が細かい文字でびっしり書き込まれていた。実事を確
かめることもなくここにそのままを書き写したい。他にはなんの目論見もない。


……六〇年食堂座り込み運動全米に波及。六一年アラバマ州を中心にフリーダ
ム・ライダーズ事件騒動。六二年ミシシッピー大学のメレジス入学事件起る。
六三年アラバマ州バーミングハムの黒人デモ大規模衝突。アラバマ大学で黒人
入学紛争。エバーズ暗殺。奴隷解放百年記念の二十万人ワシントン大行進。バ
ーミングハム黒人教会爆破。六四年マルコムX黒人回教団から脱退。人種差別
撤退に対する公民権成立。ハーレム暴動各地に波及。キング師ノーベル平和賞
受賞。六五年マルコムX暗殺。公民権法成立(投票権登録差別撤廃)ワッツの
大暴動。六六年カーマイケルSNCC委員長就任。カーマイケル、ブラックパ
ワーを提唱。全米に暴動紛争続く。六七年ニューヨークの暴動。デトロイト暴
動。ワシントン暴動。全米ブラック・パワー会議。六八年キング師暗殺。各地
で黒人暴動。(以下略)……


きみは世界の陰画の部分についていつも熱心に語ってくれたが、あの視線の先
が見据えていたものはなんだったか。黒い風の嵐が消え去ったわけじゃない。


  あの頃は風だった
  たとえきみのように光と水とわずかあばかりの土壌があればと
  草に命を宿しても
  永遠に暗闇のスクリーンの向こうには戻れないおれたち
  今さら拾い集める流木もないが(夢は夢のままに))
  冷めたスープを火にかけて
  もっと馬鹿ならと笑いとばすだろう。
  いつものシャドーボクシングを繰リ返すみたいに。


ここまで書いて振り変える。これは詩だろうか。詩ですと差し出せるだろうか。
作家のT氏がその著書の中で書いていたことを思い出す。これは詩ですといえ
ば、誰がなんといおうと詩であるほかないのだと。いまは詩であろうと無かろ
うと、未だに連絡のない彼の消息だけが気になっている。なんの連絡もないが
あの頃のきみの澄んだ炎の眼差しは、今もどこかで幻の暴動をみつめているか。



*大変読みづらい作品を掲載してすみません。
よろしく後判読下さい。