遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「ミモザの憂愁」

2010-09-01 | 現代詩作品
ミモザの憂愁



ほら、きれいな夕日よ
母の声が
ミモザの花の黄色い闇を伝って
降りかかる
夕日の向こうに
いきなり台東区役所の裏の借家が
迫り上がる


そんな昭和の歌も
空耳か、
花の生涯、目下母も
とわの留守中


目蓋が過去をめぐり
雨の夜の上野駅で
不審な男が尾行する魔の手から逃れた
母と母の背中で三歳のぼくの
途方もない恐怖が、
なぜ、恐竜のような絶滅を
装っていたのか


ミモザの過剰な声が光り
空耳か、
底意地の甘さか、
鄙びた郵便局の先の


角を曲がると
葦の原の上に海が浮かぶ
むき出しの鉄骨が現代の根源を組みはじめている
その骨の思想の先端に突き刺さり
血に染まる
波よ風よ
風景は日々変わり
言葉も死ぬ
五月闇という措辞は
戯れすぎだ



*今日から9月ですね。今朝はいくぶん涼しいのですが、
でもまだまだ残暑の方はきびしいようですね。体調には気をつけましょう。