遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「蛭に血を吸わせている猿の画」

2010-09-10 | 現代詩作品
蛭に血を吸わせている恍惚の猿の画



忘れるためだけに振りかえる過去もある
それは名もない画家で生涯ひとり身の叔父の生涯である


学生時代にきたえた強靱な肉体と繊細な感覚の
蒼い髭にすり寄ったひとはことごとく、
深い傷を負ってひっそりこの地を立ちさっていったという
人間的な明晰さあるいは隠微さも、不可知論そのものだったか


若いころは会うたびに少年のような鎖骨から
柑橘類の香りがしたと聞かされた
姉である他界した母には、もうなにも聞けないし
写真といえば学生服の青ざめた青年の横顔が一枚あるのみ


彼は学生闘争が嫌いだったというひとがいる
またある人は醜女しか愛せないやつだったと笑う
『蛭に血を吸わせている恍惚の猿』という題名の画をまえに
ずっと売れない画家の儚く短い人生に思いをめぐらすだけ


実際、短詩はうそっぽいし、散文はつめたい
ぼくはいまも宙づりのままだ