遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「領土、滅びてもなを」

2010-09-08 | 現代詩作品
領土、滅びてもなを


謎が多い物語には
完璧な結末が用意されている
と、仮定することは
ぼくと、ぼくの仲間の消極的な願望であれ
際だった形式論を振り向かせる
katue、と記した名辞。


詩誌「骨の火」の火種は、
終戦前の不発弾にあった
と、虚ろな伝説を
決定づけたわけではないが 
新潟に疎開していた詩人の仮住まいの
庭から掘り起こされたという。


その「骨の火」の貌は、
天を仰ぐすんだ目で
口から切断された人物が
巨大な黒いアミーバをにらんでいた(と想像する)
katue、と記した名辞。あるいは明示。 名実を伴う固有名詞として。


(一九五十年三月発行第六号の「貌」が調布市のK氏から届いた二〇〇三年夏
その「貌」は待ちに待った梅雨明けと同時に、ぼくと仲間の長いタイムトンネ
ルを一瞬に突き抜けて、驚くほどかすかな記憶とぴったり重なりあっていた。)


大袈裟ながら「骨の火」は
北陸(新潟と富山)の青い脳髄の原野を
一面の火の海にして、
二年という歳月の地殻の移動が
ついに「骨片のある風景」を生み落とした
五十年代の北の伝説。
ぼくと、ぼくの仲間には謎の多い
「火の骨」だから、断念という未来が
太平洋の海に散った学友への敬虔な鎮魂の譜。
あるいは、のどの乾きを潤す
澄み切った地平線にぼうぼう燃え立つ巨大な蛤の吐く夢。
そして、
無垢なる魂の真意を語る人はすでに見えない。

いま「骨の火」の
永遠に休息した頁をめくるとき
生成と消滅をくり返す、日々の波間で 戦後の青い脳髄が燃えていた、未知の連名に導かれ
振り返るほど遠く儚く、
滅びてもなを
katue、と記した名辞。
(詩人の明示は、日本海の深海を極めて
眩しい天穹に至る
誰の眼にも見えない黄道があるに違いない。