goo blog サービス終了のお知らせ 

江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

古碑を礎となし霊魂夢に入る 「新著問集」

2020-01-23 15:29:01 | 怪談
古碑を礎となし霊魂夢に入る  
                       2020.1
奥州二本松(福島県二本松市)の薬研屋(やげんや)久心と言う者が、庭をつくった。その時、同じ二本松の正念寺の山に、苔が生えて古びた石塔を見つけ、庭の踏石にした。
ちょうど、その頃より、恐しい夢を、たびたび見るようになった。

ある時、外で寝ていると、若い女が、恐ろし気な姿で出てきた。
「私が、長年住なれた場所から、何の理由があって引き離して、ここへ連れてきたのか?」と、怒った眼差しがすさまじかった。
それで、胸が騒いで、だた忙然となり、しばらくして、やっと落ち着いた。

この事が恐ろしくて、多くの人に話した。

すると、ある老人がこのように語った。
「このふみ石は、八十年以前に、畠山重次と言った人の娘が、十七八才で亡くなり、それを葬った石塔である。
このような恐ろしい夢は、その祟りであろう。
早く本のところに返したほうがよい。」と。

それで、言われたように、石塔を元に返したら、恐ろしい夢を見なくなった。

延宝年中の事であった。

以上、「新著問集」より。



ウサギの腹堤(はらづつみ)  「一話一言拾遺」太田蜀山人(しょくさんじん

2020-01-19 17:10:06 | その他
ウサギの腹堤(はらづつみ)
                       2020.1

ウサギも腹づつみを打つことがある。
伊豆の国に行った人の話では、そこに新左衛門村と言うのがある。
昔は、河津の領地であって、三千石の村である。
今は、その地に河津氏の神を祭って、三社明神と言うのがある。
そこは、山中の交通の要地であって、ウサギなどが特に多い。

その地の老人が、ある年、三社へ参詣して、帰りに山中を通ったが、何か物音が聞こえて来た。
はさみ箱を担って、それがぶつかり合って起こった様な音がした。
不思議に思って、その音のする方を見ると、ウサギが数十匹連なって、円座していた。
そして、皆みな立ち上がり、両手でそれぞれのお腹を打っていた。
それで、大きな音がしていたのである。
老人は不思議に思いながら、眺めていた。
しかし、丁度風邪を患っていて、我慢できなくなって、咳をしてしまった。
すると、ウサギ達は、咳に驚いて、皆残らず、山中に逃げていった、との事である。

「一話一言拾遺」太田蜀山人(しょくさんじん)著より


編者注:狸の腹ヅツミというのは、しばしば見かけますが、ウサギの腹堤(はらづつみ)というのは、珍しいので、紹介しました。
所で、ウサギは、怒った時、驚いた時に、後ろ足で、地面をドーンドーンとたたくことがあります。
実は、編者は、ウサギを飼っていた事がありました。
怒ると、本当にびっくりするような音を出します。
実際に聞いて見てみないと、納得できない位の音です。
文中に「はさみ箱を担って、それがぶつかり合って起こった様な音がした。」とあります。木の箱がぶつかり合う音ですね。これは、ウサギが後ろ足でドーンドーンとやるのに、近い音でしょう。
この話は、ウサギがドーンドーンとやっていたのを聞いて、ウサギが腹堤をしていた、と転化したもである、と思われます。

鯉のたたり  「石楠堂随筆」 蜀山人(しょくさんじん)全集

2020-01-19 17:07:08 | その他
鯉のたたり
                        2020.1

武蔵の国の隅田川のあたりの牛島という所に、中田屋という酒を売る店があった。

前から、生け簀の鯉を料理して提供していた。
その人を、葛西太郎とのあだ名で呼んでいた。
ある夜、その妻の夢に、衣冠をした人が出てきた。
「明日、お客さんが来て、鯉を食べようというが、鯉を切って殺しては、いけない。」、と言った。

果たして、あくる朝、石原片町という所に住んでいる山口右膳なる者が来た。
鯉をさげて持ってきて、主に調理してくれ、と言った。
中田屋の妻は、鯉を殺さないように固くとめたが、夫は、あざ笑って、山口氏とともに、調理するために出て行った。
さて、山口氏は席について、中田屋は、まな板に向かい、包丁をとって、鯉を切ろうとした。
すると、ううとウメいて、倒れた。
人々は驚いたが、すこしすると息が絶えて死んでしまった。

この話は、いい加減な伝聞ではない。
山口氏に仕えていた熊谷喜平次が、まのあたりに見た、
                 と語ったものである。

天明年中のことである。

以上、
「石楠堂随筆」 蜀山人(しょくさんじん)全集より

狐のうたった歌   「増訂半日閑話」

2020-01-19 16:58:47 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
狐のうたった歌                  
                      2020.1

狐のうたった歌というのが、「増訂半日閑話」に記されている。

以下、本文。

「狐天狗妖言」

近頃の妖しい巷説(こうせつ:町のうわさ話)に、王子(北区王子:稲荷神社がある)で狐が歌を謡い踊ったとのことである。

その歌は、
「天に 星なし 地に人なし 四月二十日の夜をみやれ」

また、愛宕(港区愛宕:愛宕神社があり、その中に稲荷社がある)にても、天狗が踊ったと言う。
歌は、同じ文句であって、「四月八日の夜をみやれ」と言う。

編者注:これは、「増訂半日閑話」の巻十二にある。大田蜀山人(しょくさんじん)の著である。
蜀山人(しょくさんじん)は、多芸、多才の人で、面白そうな噂話を書いたり、狂歌を読んだり、趣味の会合に盛んに出たり、と大変、多趣味、好き者でした。まさに、趣味の江戸人でした。

丹波の奥に人を馬になして売りし事 奇異雑談集より

2020-01-19 16:46:03 | 奇異雑談集
丹波の奥に人を馬になして売りし事
                       
                                                                                                       2020.1


丹波の奥の郡に、人を馬になして売りし事
「奇異雑談集」(巻二の五)より

遥か昔、丹波の国、(京都府)奥の方の田舎での出来事である。
山際に大きな家が一軒あったが、隣に人家もなかった。
しかし、住人は、数十人あまりもいた。そして裕福そうに暮らしていた。
農業もせず、手仕事もせず、商いをもせず、余裕のある生活をしていたので、周囲の人々は、みな不思議がっていた。
馬を買った様子は見えないのに、良い馬を売っていた。
一月に二匹も三匹も売っていたので、これまた人々は不審がっていた。

その屋敷は街道沿いにあったので、旅人が宿泊する事もあった。
人々はこっそり、
「亭主は秘密の術で、人を馬に変えて売っている。」
と噂をしていた。

しかし、本当のことは、不明であった。

ある時、旅人が六人やって来た。
五人は俗人(ゾクジン:坊さん等の宗教家ではない、普通の人達)で、一人は会下僧(えげそう:修行中の坊さん)であった。
亭主は、家に招き入れた。
枕を六つ出して、
「旅で、お疲れでしょう。まづ、御休み下さい。」
と言った。
俗人は、みな寝入ってしまった。
会下僧(えげそう)は、丹後で、この家のことを、噂に聞いていたので、用心していた。

その坊さんは、座敷の奥にいて寝入らなかった。
垣のすきまから内側をのぞけば、忙がしそうに見えた。
小刀で、垣の隙間を少し押し広げて、よくよく見れば、畳の台ほどの大きさの物に、土が一杯のせてあった。
その上に、何かの種をまいて、上にムシロをかぶせていた。
釜で飯をたき、汁を用意し、鍋に湯をわかしていた。

茶を四、五服のむ位の時間がたって、
亭主は、
「もうそろそろ良いだろう。」
と言って、ムシロをとった。
すると、青々とした草が、二、三寸の長さに生い繁っていた。葉は、蕎麦に似ていた。

それを取って、お湯に入れて煮て、蕎麦のように調理して、大きなお椀にもって、食膳に出した。

俗人達は、起きて皆が食べた。
「これは。珍らしい蕎麦だな。」と言って、うまいうまいと食べた。
僧は、食べるふりをして、隅の簀の子の下へすてた。

食事を終えたのち、家人は風呂を焚いた。
「お風呂がわきました。お入り下さい。」と言った。
「それでは。」と言って、みな風呂に入った。

僧は入るふりをして、手洗いに隠れた。
そこからよく見れば、亭主が、きり、金鎚、金釘を持ってきて、風呂の戸を打ちつけた。

会下僧(えげそう)は、ここに居て、人に見つけられては大変だと、暗闇にまぎれて出た。風呂の簀の子の下へ入って、じっと隠れていた。

少ししてから、亭主は、
「もうそろそろいいだろう。戸を開けろ。」
と命令した。
釘ぬきで戸を開ければ、馬が一疋走り出て、いなないて走って行った。
夜であったので、門を閉ざしていたので、庭に踊りわまった。又、一匹出て来、又一匹出て来、すべてで五匹が出て来た。
もう、一匹出て来るだろうと待ったが、待てども待てども、出て来なかった。
火をかざして見たが、何もいなかった。

「もう一人は、どこに逃げたのか?」と。
こう騒いでいる内に、簀の子の下からはい出て来て、後の山に登って、遠くへ逃げて行った。

会下僧(えげそう)は、その翌日、国の守護所に行き、これまでの事を、事細かに訴えた。

守護は、
「これは非常に悪いことである。
今まで、変な噂があったが、さては本当の事であったか。」
と言った。

多くの兵卒を派遣して、その屋敷に行って、悪人達をみな打ち殺した。

以上の話は、霊雲の雑談である。


編者注:これは、中国の唐代の伝奇小説「板橋三娘子」の翻案であろう。元のは、宿の主人が、三娘子という女であり、被害者が馬ではなく、驢馬に変えさせられている。