江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

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丹波の奥に人を馬になして売りし事 奇異雑談集より

2020-01-19 16:46:03 | 奇異雑談集
丹波の奥に人を馬になして売りし事
                       
                                                                                                       2020.1


丹波の奥の郡に、人を馬になして売りし事
「奇異雑談集」(巻二の五)より

遥か昔、丹波の国、(京都府)奥の方の田舎での出来事である。
山際に大きな家が一軒あったが、隣に人家もなかった。
しかし、住人は、数十人あまりもいた。そして裕福そうに暮らしていた。
農業もせず、手仕事もせず、商いをもせず、余裕のある生活をしていたので、周囲の人々は、みな不思議がっていた。
馬を買った様子は見えないのに、良い馬を売っていた。
一月に二匹も三匹も売っていたので、これまた人々は不審がっていた。

その屋敷は街道沿いにあったので、旅人が宿泊する事もあった。
人々はこっそり、
「亭主は秘密の術で、人を馬に変えて売っている。」
と噂をしていた。

しかし、本当のことは、不明であった。

ある時、旅人が六人やって来た。
五人は俗人(ゾクジン:坊さん等の宗教家ではない、普通の人達)で、一人は会下僧(えげそう:修行中の坊さん)であった。
亭主は、家に招き入れた。
枕を六つ出して、
「旅で、お疲れでしょう。まづ、御休み下さい。」
と言った。
俗人は、みな寝入ってしまった。
会下僧(えげそう)は、丹後で、この家のことを、噂に聞いていたので、用心していた。

その坊さんは、座敷の奥にいて寝入らなかった。
垣のすきまから内側をのぞけば、忙がしそうに見えた。
小刀で、垣の隙間を少し押し広げて、よくよく見れば、畳の台ほどの大きさの物に、土が一杯のせてあった。
その上に、何かの種をまいて、上にムシロをかぶせていた。
釜で飯をたき、汁を用意し、鍋に湯をわかしていた。

茶を四、五服のむ位の時間がたって、
亭主は、
「もうそろそろ良いだろう。」
と言って、ムシロをとった。
すると、青々とした草が、二、三寸の長さに生い繁っていた。葉は、蕎麦に似ていた。

それを取って、お湯に入れて煮て、蕎麦のように調理して、大きなお椀にもって、食膳に出した。

俗人達は、起きて皆が食べた。
「これは。珍らしい蕎麦だな。」と言って、うまいうまいと食べた。
僧は、食べるふりをして、隅の簀の子の下へすてた。

食事を終えたのち、家人は風呂を焚いた。
「お風呂がわきました。お入り下さい。」と言った。
「それでは。」と言って、みな風呂に入った。

僧は入るふりをして、手洗いに隠れた。
そこからよく見れば、亭主が、きり、金鎚、金釘を持ってきて、風呂の戸を打ちつけた。

会下僧(えげそう)は、ここに居て、人に見つけられては大変だと、暗闇にまぎれて出た。風呂の簀の子の下へ入って、じっと隠れていた。

少ししてから、亭主は、
「もうそろそろいいだろう。戸を開けろ。」
と命令した。
釘ぬきで戸を開ければ、馬が一疋走り出て、いなないて走って行った。
夜であったので、門を閉ざしていたので、庭に踊りわまった。又、一匹出て来、又一匹出て来、すべてで五匹が出て来た。
もう、一匹出て来るだろうと待ったが、待てども待てども、出て来なかった。
火をかざして見たが、何もいなかった。

「もう一人は、どこに逃げたのか?」と。
こう騒いでいる内に、簀の子の下からはい出て来て、後の山に登って、遠くへ逃げて行った。

会下僧(えげそう)は、その翌日、国の守護所に行き、これまでの事を、事細かに訴えた。

守護は、
「これは非常に悪いことである。
今まで、変な噂があったが、さては本当の事であったか。」
と言った。

多くの兵卒を派遣して、その屋敷に行って、悪人達をみな打ち殺した。

以上の話は、霊雲の雑談である。


編者注:これは、中国の唐代の伝奇小説「板橋三娘子」の翻案であろう。元のは、宿の主人が、三娘子という女であり、被害者が馬ではなく、驢馬に変えさせられている。



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